呼吸器

呼吸不全

酸素を取り込む力と、二酸化炭素を排出する力を分けて見る。SpO₂の数字に加え、呼吸の深さ・疲労・意識と、酸素や呼吸器の条件を追う。

主な症状
息苦しさ 酸素化低下 傾眠
代表的な薬
気管支拡張薬 抗菌薬
検査値UP
PaCO₂
検査値DOWN
PaO₂ pH

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

Ⅰ型:酸素化の障害が中心

空気と血流の間で交換が障害:O₂を血液へ取り込みにくい空気と血流の間で交換が障害肺胞の空気血液:PaO₂ ↓O₂を血液へ取り込みにくい
  1. 肺炎・肺水腫などで交換が障害
  2. 血液へ取り込む酸素が不足
  3. PaO₂低下:呼吸負担や臓器への影響

観察へ:PaCO₂は正常または低下。酸素投与条件の増加と、会話・体位・努力呼吸の変化を同時に追う。

Ⅱ型:二酸化炭素の排出も不足

空気の出入りが不足:CO₂を外へ出しにくい空気の出入りが不足肺胞の空気血液:PaCO₂ ↑・PaO₂ ↓CO₂を外へ出しにくい
  1. 気道閉塞・呼吸筋や中枢の障害
  2. 肺胞に出入りする有効な空気量が不足
  3. 低酸素にPaCO₂上昇が加わる

観察へ:呼吸数だけでなく深さ、眠気、pHの推移を確認。酸素投与でSpO₂が改善しても換気不全が残ることがある。

Ⅰ型・Ⅱ型は血液ガスによる分類。図は酸素化と換気の障害を単純化しており、診断画像ではない。急性・慢性という時間経過の分類とは別で、慢性呼吸不全でも急に悪化することがある。

症状から観察・再確認へ

息切れ

見る・聞く
発症経過、呼吸数と深さ、胸郭運動・左右差、努力呼吸、会話、体位、呼吸音を確認。
何を反映するか
酸素化の障害、気道抵抗、呼吸筋への負荷などを反映する。数が減っても疲労による低下がありうる。
普段と比較
安静と動作、普段の活動、酸素・呼吸補助の設定をそろえて比較。
悪化を疑う変化
会話できない、胸郭の動きが弱い、呼吸が不規則になる、努力の強い呼吸から反応低下へ移る。
再確認
体位・排痰・呼吸補助後の仕事量、会話と意識を再確認し、数値と合わない苦痛も共有。

酸素化低下

見る・聞く
SpO₂、脈波、センサーの装着と末梢冷感、酸素器具・流量・回路接続を確認。
何を反映するか
酸素不足の手がかりだが、体動・低灌流で測定に影響が出る。SpO₂はCO₂量を測っていない。
普段と比較
個別目標と普段の値、現在に至る酸素条件の変化を比較。
悪化を疑う変化
必要な酸素が増え続ける、目標に届かず呼吸苦・意識変化・循環不良を伴う。
再確認
器具・装着を修正しても患者の状態を再評価。異常値を測定誤差だけとして片づけない。

傾眠意識の変化

見る・聞く
呼びかけへの反応、見当識、頭痛、呼吸の深さ、気道を守れるかを確認。直近の鎮静薬・オピオイドも確認。
何を反映するか
低酸素や高CO₂、薬剤、循環障害などが関与しうる。眠気だけでCO₂貯留と断定しない。
普段と比較
普段の覚醒、処置や投薬前、血液ガスのPaCO₂・pHと比較。
悪化を疑う変化
新しい反応低下、呼吸が弱い・止まる、嘔吐物や痰を処理できない。
再確認
直ちに応援を求め気道・換気の評価へ。酸素飽和度が保たれていても観察を緩めない。

痰の排出困難

見る・聞く
咳の力、分泌物量、呼吸音、人工気道の状態、呼吸器のアラームと患者の動きを確認。
何を反映するか
分泌物による気道狭窄や、筋力・意識低下による排出不足を考える。
普段と比較
前回の痰と呼吸状態、吸引の回数・効果、気道内圧などを比較。
悪化を疑う変化
急な換気困難、呼吸音の変化、酸素化低下、排痰できず意識も低下する。
再確認
手順に沿った排痰・吸引後の呼吸、SpO₂、呼吸器波形やアラームの変化を共有。

看護判断:変化の緊急度

継続観察

評価済みの慢性安定期または改善過程で、個別目標内の酸素化、呼吸仕事量・意識・循環が維持されている。

次の行動:同じ条件で推移を記録。新規の急性呼吸不全を経過観察だけで済ませない。

早めに共有

動作時の負担増、酸素条件の増加、新しい朝の頭痛、痰が出しにくい、マスク不耐や漏れが続く。

次の行動:現在の条件と前回との差を伝え、血液ガス・原因・呼吸補助の再評価を相談。

直ちに応援要請

反応低下、呼吸停止・著しい低換気、強い呼吸困難、急な循環不良、呼吸補助中も進む悪化。

次の行動:急変対応を起動し、気道・呼吸・循環を確認。換気補助・挿管などの準備を施設手順に沿って進める。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1 患者を先に見る

アラームや数値と同時に応答・気道・胸郭運動・循環を確認。重い変化は応援要請し、移動や食事を止めて安全を確保。

2 体位と酸素経路を確認

呼吸が楽な体位に調整し、酸素源から患者までの接続・器具を確認。CO₂貯留を心配して必要な酸素を自己判断で中断しない。

3 換気の評価と処置を準備

SpO₂改善後も眠気や浅い呼吸があれば報告。指示された血液ガス、吸引、呼吸補助の準備。設定変更は指示・手順に従う。

4 原因と治療条件を集める

感染症状、胸痛、気道閉塞、体液過剰、鎮静薬などの経過を整理。検体採取時の酸素・呼吸器条件を記録する。

5 介入ごとに再評価

呼吸負担・意識・循環・ガスを前後で比較。口腔・皮膚・栄養・睡眠を支え、離床は安静度と呼吸の余力に合わせる。

治療前・中・後の看護

酸素療法

目的
血液に取り込める酸素を補う。換気不足そのものを補えるとは限らない。
前に確認
個別目標、慢性呼吸不全・CO₂貯留歴、酸素器具・流量、呼吸と意識。
中に観察
SpO₂と呼吸仕事量・意識。皮膚圧迫・乾燥、回路の外れ、火気を確認。
反応・再評価
酸素化と苦痛の変化を確認し、必要に応じ血液ガスでCO₂・pHも再評価。
適応・注意
目標と増減は個別指示・手順に従う。高CO₂リスクと低酸素の両方に対応する。

NPPV:マスクによる陽圧換気

目的
気道へ圧を加え、病態に応じて酸素化や換気・呼吸筋負担を改善する。
前に確認
意識・気道保護、嘔吐、排痰力、循環、適応と治療目標。マスクの種類と設定を照合。
中に観察
患者との同調、漏れ、呼吸数・深さ、意識、血圧、皮膚圧迫、腹部膨満・嘔吐。
反応・再評価
開始後の呼吸負担、血液ガスと意識を短い間隔で再評価。反応不十分なら挿管を含む再検討を依頼。
適応・注意
気道保護が困難・急速な悪化などではNPPV継続が適切とは限らない。マスク調整だけで緊急評価を遅らせない。

気管挿管・人工呼吸

目的
気道を確保し、必要な酸素化と換気を機械で支える。
前に確認
救急物品・吸引・モニターを準備し、呼吸循環の基準と処置の役割を共有。
中に観察
胸郭運動、呼気CO₂・SpO₂、血圧、チューブ位置と固定、分泌物、同調・アラーム。
反応・再評価
血液ガス・循環・呼吸器の反応を確認。鎮痛鎮静と離脱評価、口腔・体位管理をチームで進める。
適応・注意
気胸、人工呼吸器関連感染、圧迫損傷などに注意。アラームは患者・気道・回路の順に原因を探す。

検査の意味と読み方

PaO₂

動脈血の酸素化を評価する。低下は酸素の取り込み不足などを示す。

組み合わせ・推移:FiO₂(吸う酸素の割合)・デバイスと併記。酸素条件の違う前後値だけでは肺の回復を判断できない。

PaO₂の検査詳細

PaCO₂

二酸化炭素排出の手がかり。上昇では肺胞換気不足、低下では過換気などを考える。

組み合わせ・推移:pH・呼吸の深さ・意識と前回値を合わせる。慢性の高値と急な上昇を分け、SpO₂では代用しない。

PaCO₂の検査詳細

pH

血液が酸性・アルカリ性のどちらへ傾くかを見る。

組み合わせ・推移:PaCO₂上昇にpH低下を伴う時は呼吸性の酸性化を考える。代謝性の変化も重なりうるためHCO₃⁻・循環・腎機能を確認。

pHの検査詳細

HCO₃⁻

酸塩基平衡の代謝側の成分。慢性のCO₂貯留への代償で上がる場合がある。

組み合わせ・推移:高値だけで慢性と決めず、pH・PaCO₂・薬剤・嘔吐・腎機能と経過を合わせる。

HCO₃⁻の検査詳細

胸部画像

肺炎・肺水腫・気胸などの原因、人工気道や合併症の評価に使う。

組み合わせ・推移:画像だけで呼吸の余力は分からない。直前からの症状・左右の呼吸音・治療条件を添えて再評価を依頼。

報告:SBARで情報をそろえる

S:どの呼吸が変わったか

  • 開始と変化速度、会話・呼吸数と深さ、SpO₂、現在の意識・血圧。
  • 換気できていない疑いは先に伝える。

B:普段の呼吸と現在の支援

  • 基礎疾患、普段のガス・在宅酸素、現行の酸素器具・流量または呼吸器設定、鎮静薬・直近の処置。

A:前後の差

  • 血液ガスと採血時の条件、胸郭・呼吸音・分泌物、循環。
  • 体位・接続修正・吸引・指示治療への反応。

R:支援の変更と再評価

  • 直ちに診察・換気補助が必要か、再採血と呼吸器設定の指示、次の再評価時点。
  • 緊急処置の準備状況。

患者・家族への説明

数字と体の感じを伝える

酸素の数値だけでなく、息のしにくさ、眠気、頭痛、痰が出ないことを伝える。急な意識・呼吸の変化はすぐに助けを求める。

器具を安全に使う

酸素やマスクは指示された条件で使用する。苦痛や漏れを我慢せず相談。酸素使用中は火気・喫煙を避ける。

回復後の生活を整える

活動・休息と栄養を個別に調整。慢性例では悪化時の連絡先、受診目安、機器トラブル時の対応を家族と確認。

参考文献

  1. 日本呼吸器学会:急性呼吸不全・ARDS

    Ⅰ型・Ⅱ型と原因の理解に使用。旧記述を含むためARDSの定義・薬物治療の推奨は本ページから転記しない。

  2. 日本呼吸器学会:慢性呼吸不全

    慢性例の酸素・換気補助と生活支援。

  3. NHLBI:Respiratory failure — symptoms

    呼吸・意識の変化と重症時の対応。

  4. NHLBI:Respiratory failure — diagnosis

    血液ガス・酸素飽和度・原因評価。

  5. NHLBI:Respiratory failure — treatment

    酸素・非侵襲的換気・人工呼吸、原因治療の位置づけ。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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