循環器

心不全

心不全は、うっ血と臓器への血流不足を組み合わせて捉える。息切れが軽くなった後も、血圧・意識・尿量・腎機能を追い、除水の効果と循環への負担を確かめる。

主な症状
息切れ 起座呼吸 むくみ 低灌流
代表的な薬
利尿薬 ARNI等 β遮断薬 MRA SGLT2阻害薬
検査値UP
BNP NT-proBNP
検査値DOWN
Na

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

HFrEF:EFが低下した心不全

HFrEF:EFが低下した心不全の機能と看護左心室送り出す割合が低下収縮障害+拡張障害も薬の導入・増量後の循環を確認形・壁厚は代表的な模式図EFの数値だけで病態を決めない
  1. 心筋の障害などで収縮する働きが低下
  2. 心室内の血液を送り出す割合が低下する
  3. うっ血や低灌流につながり、症状・腎機能・活動が変化

観察へ:分類はLVEF 40%以下。拡張障害も伴いうる。ARNI等・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬を個別に導入調整し、血圧・脈・K・腎機能と症状を追う。

HFpEF:EFが保たれた心不全

HFpEF:EFが保たれた心不全の機能と看護左心室EFが保たれていても充満圧が上がりうるうっ血・併存疾患・原因を評価形・壁厚は代表的な模式図EFの数値だけで病態を決めない
  1. 高血圧や心筋・血管の変化など複数の要因
  2. EFが保たれても充満時の圧が上がることがある
  3. 肺・全身うっ血や運動時の息切れが生じる

観察へ:分類はLVEF 50%以上。心不全としての評価が必要で、EF正常だけで診断しない。うっ血、血圧、心房細動、腎機能等を評価し、利尿薬・SGLT2阻害薬などの適応を確認。

肺うっ血:肺へ伝わる圧

肺うっ血:肺へ伝わる圧と観察の関係肺:血管外に水分左心系圧が伝わる肺うっ血 → 息切れ・起座呼吸呼吸数・会話・体位・酸素条件
  1. 左心室が十分に収縮・拡張できない
  2. 左心系の充満圧が上がり、肺静脈側へ伝わる
  3. 肺の間質・肺胞に水分が増え、息切れ・起座呼吸

観察へ:SpO₂だけでなく呼吸数・努力・会話・体位・酸素条件を比較。体重増加が目立たない急な肺うっ血もある。

全身うっ血:静脈側に滞る血液

全身うっ血:静脈側に滞る血液と観察の関係全身の静脈圧が上がる右心系静脈から心臓へ戻りにくい組織へ水分 → 下肢・仙骨部浮腫体重・出納・腹部膨満・食事量
  1. 右心系へ戻る血液が流れにくくなる
  2. 全身の静脈圧が上昇する
  3. 下肢・仙骨部の浮腫や腹部膨満、食欲低下

観察へ:左右差、臥床時の仙骨部、体重と出納を確認。浮腫だけで心不全と決めず、腎・肝疾患や静脈の問題も確認。

低灌流:臓器への送り出し不足

低灌流:臓器への送り出し不足と観察の関係心臓拍出が不足腎臓末梢組織血流不足 → 意識・尿量・冷感の変化血圧だけでなく臓器の反応を確認
  1. 心拍出が臓器の必要量に足りない
  2. 脳・腎・末梢へ届く血流が減る
  3. 意識変化・尿量低下・冷感・活動耐容能低下

観察へ:血圧が保たれていても低灌流を否定しない。うっ血の有無と組み合わせ、補液・利尿の判断を共有する。

最初の2図はEFによる分類、続く3図は同時に起こりうるうっ血・低灌流の仕組み。EFは左心室内の血液を一回に送り出す割合で、全身へ送る血液量そのものではない。EFだけで心不全の有無・緊急度を決めない。

症状から観察・再確認へ

息切れ起座呼吸

見る・聞く
発症・増悪の時点、呼吸数、努力、会話、肺音、SpO₂と酸素機器・流量、楽な体位を確認。
何を反映するか
肺うっ血や呼吸仕事量の増加を反映しうる。肺炎・肺塞栓なども鑑別する。
普段と比較
普段の歩行距離、就寝時の枕、夜間の呼吸苦、前回の酸素条件。
悪化を疑う変化
安静でも苦しい、会話困難、酸素需要増加、疲弊・意識低下。
再確認
体位・酸素・治療変更後に呼吸数と努力、意識、血圧を再評価。

浮腫体重増加

見る・聞く
同じ条件の体重、下肢・仙骨部浮腫、腹部膨満、食事・飲水・点滴・尿量を確認。
何を反映するか
静脈うっ血と体液貯留の手がかり。浮腫の量だけで血管内の充足を判断しない。
普段と比較
普段の体重、数日間の増減、利尿薬投与時刻と反応、測定漏れ。
悪化を疑う変化
体重・浮腫が増え呼吸も悪化、利尿反応低下、食べられない。
再確認
除水後の呼吸、血圧、口渇・ふらつき、腎機能・電解質。

冷感意識変化

見る・聞く
覚醒・受け答え、皮膚温と色、末梢の再充満、脈拍・血圧、尿量をまとめる。
何を反映するか
臓器への血流不足を疑う。薬剤、低血糖、感染など別の原因も評価。
普段と比較
普段の認知・会話、血圧推移、直前の薬剤・除水・不整脈。
悪化を疑う変化
新たな傾眠、冷汗、血圧低下、尿量減少が重なる。
再確認
応援要請後も意識・呼吸・循環を継続評価し、処置への反応を伝える。

尿量低下

見る・聞く
時間当たりの量と測定条件、最終排尿、カテーテルの屈曲・閉塞、摂取と喪失を確認。
何を反映するか
低灌流だけでなく腎静脈うっ血、腎障害、閉塞も関係する。
普段と比較
利尿薬前後、出納・体重・Crの推移、血圧。
悪化を疑う変化
尿が減り呼吸苦・冷感が増す、または過剰な利尿後に低血圧が出る。
再確認
原因評価後の指示と尿量を確認。尿を増やすためだけに補液しない。

動悸活動時の疲労

見る・聞く
心電図と実際の脈、胸部症状、歩行や排泄に伴う息切れ・ふらつき、回復時間を確認。
何を反映するか
不整脈や低拍出、廃用・貧血などが活動を制限する。
普段と比較
普段できる動作、休息で戻る時間、薬の開始・増量前後。
悪化を疑う変化
失神・胸痛を伴う、新しい頻脈・徐脈、休息しても回復しない。
再確認
活動を中断して安全確保し、呼吸・循環を再確認。次の活動量を共有。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

個別の治療計画内で呼吸・循環が安定し、体重・尿量・活動後の回復が普段と大きく変わらない。

次の行動:同じ条件の記録を継続。薬の変更後は症状がなくても血圧・脈拍・採血計画を確認。

早めの共有・報告

夜間呼吸苦、体重・浮腫増加、利尿反応低下、新しいふらつきや服薬困難。

次の行動:変化の速度、出納、薬・酸素条件を整理して共有。次の観察時点と連絡基準を決める。

直ちに応援・緊急対応

急激な呼吸困難、会話困難、疲弊、意識変化、冷汗・低灌流、失神や胸痛を伴う不整脈。

次の行動:応援要請とABC評価。施設手順で酸素・モニター・救急物品を準備し、反応を連続して報告。無反応で正常な呼吸がなければ蘇生対応。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|活動を止め安全を確保

苦痛と循環に合わせ上体を起こすなど楽な姿勢を支援。低血圧・失神時は転落を防ぎ、体位の反応を見る。

2|呼吸・循環を同時に確認

呼吸努力、意識、血圧、脈、末梢、酸素条件を確認。酸素は低酸素と個別目標に応じ施設手順・指示で調整する。

3|増悪因子を集める

胸痛、不整脈、感染徴候、服薬中断、塩分・飲水変化、腎機能、追加された薬を確認。聞き取りで緊急対応を遅らせない。

4|処置・採血を準備

心電図、静脈路、採血、画像・超音波、呼吸補助の準備を指示に沿って行う。うっ血だけでなく低灌流の有無を伝える。

5|出納と転倒を管理

点滴・飲水を含む出納と体重を記録。利尿後の排泄動線と起立時症状を確認し、必要な介助をつける。

6|治療後の利益と負担を確認

呼吸が楽になったか、尿が出たかに加え、低血圧・冷感・腎機能・K/Naを比較。安定後は指示された範囲で離床を再開。

病型と治療歴を引き継ぐ

HFmrEFはLVEF 41~49%。以前の値と原因を確認する。HFimpEFは初回40%以下から10ポイント以上改善し40%を超えた状態で、治癒や薬の中止を意味しない。

治療前・中・後の看護

ループ利尿薬

目的
うっ血を軽減する。
前に確認
体液所見、血圧、腎機能、Na・K、直前の投与と尿量を確認。
中に観察
尿量・体重・呼吸、低血圧・脱水・電解質変化を追う。
反応・再評価
呼吸苦・浮腫が軽くなり循環が保たれるか。Cr上昇だけで中止せずうっ血と合わせ相談。
適応・注意
うっ血の程度と反応で投与経路・調整が変わる。無尿や電解質異常は投与前に確認。
フロセミドの詳細を開く

ARNI・ACE阻害薬・ARB

目的
神経体液性因子の過剰な働きを抑え、心負荷と長期の増悪を減らす。
前に確認
病型、血圧、K・腎機能、妊娠可能性、血管性浮腫歴、併用薬と切替間隔を確認。
中に観察
低血圧、K上昇、腎機能変化、口唇・舌の腫れや呼吸異常を観察。
反応・再評価
症状と忍容性を追い、増量後の採血・血圧確認を確実にする。
適応・注意
主にHFrEFの治療の柱。これらを無条件に併用しない。ARNIとACE阻害薬の切替は添文の間隔を確認。
エンレスト錠50mg・100mg・200mgの詳細を開く

β遮断薬

目的
過剰な交感神経刺激を抑え、長期の心機能と予後改善を目指す。
前に確認
循環が安定しているか、脈・伝導障害、うっ血、既存内服を確認。
中に観察
徐脈・低血圧・冷感、開始増量後の呼吸苦と体重増加を観察。
反応・再評価
脈が遅くなるだけでなく症状・活動・うっ血の推移を評価。
適応・注意
HFrEFで適応を判断。急性増悪中の新規開始・増量と、既存薬の継続判断を分けて医師と確認。
メインテート錠0.625mg・2.5mg・5mgの詳細を開く

MRA

目的
アルドステロンの作用を抑える。薬剤・病型に応じて心不全の増悪抑制を目指す。
前に確認
Kと腎機能、K製剤・他のMRA・相互作用薬を確認。
中に観察
高K、腎機能変化、低血圧を観察。症状だけで高Kを除外しない。
反応・再評価
開始・変更後の採血と、うっ血・循環の経過を確認。
適応・注意
MRAは一種類ではなく、心不全の病型と薬剤ごとの適応で選択が異なる。
スピロノラクトンの詳細を開く

SGLT2阻害薬

目的
適応のある心不全で入院・増悪リスクの低減を目指す。
前に確認
腎機能、飲食状況、脱水・感染、手術予定、他の糖尿病薬を確認。
中に観察
脱水・尿路性器症状、悪心・腹痛・深い呼吸を確認。血糖が高くなくてもケトアシドーシスに注意。
反応・再評価
体液状態と腎機能、症状の推移を追う。尿量増加だけで有効と判断しない。
適応・注意
糖尿病の有無だけで選択しない。HFpEFでも適応を検討するが、薬剤の適応・腎機能・休薬条件を確認。
フォシーガ錠5mg・10mgの詳細を開く

急性期の呼吸・循環支持

目的
重い呼吸負担や臓器灌流不足を改善し、原因治療につなぐ。
前に確認
低酸素、意識・気道保護、血圧、うっ血・低灌流を確認。
中に観察
NPPV等の呼吸補助後の呼吸努力・意識・血圧を再評価。血管拡張薬・強心薬等は適応と指示を確認。
反応・再評価
酸素化だけでなく疲弊や低灌流が改善するか。不成功なら次の呼吸・循環支持を急いで相談。
適応・注意
低血圧と高血圧では治療が異なる。酸素・補液・血管拡張薬を全員に一律で用いない。

原因治療・機器治療・心臓リハビリ

目的
虚血・弁膜症・不整脈などに対応し、再入院予防と生活機能を支える。
前に確認
原因、EF、心電図、併存疾患、本人の希望、生活上の困難を共有。
中に観察
処置ごとの出血・不整脈と活動中の症状を確認。CRT・ICDなどは役割を区別して説明。
反応・再評価
症状、活動耐容能、生活で続けられる服薬・セルフケアを確認。
適応・注意
すべての心不全に機器や手術を行うわけではない。治療目標と症状緩和も本人と相談する。

検査の意味と読み方

BNP

心臓への負荷の手がかり。高値はうっ血などを示唆。

組み合わせ・推移:腎機能、不整脈、肥満、薬剤の影響があり単独で診断・除水量を決めない。症状・画像と推移を比較。

BNPの検査詳細

クレアチニン

腎機能の推移を確認。

組み合わせ・推移:低灌流・うっ血・治療後の変化を尿量と合わせ評価。上昇だけで脱水と決めない。

クレアチニンの検査詳細

K

利尿薬で低下、腎障害やRAAS系薬で上昇しうる。

組み合わせ・推移:どちらも不整脈に関係。溶血の有無、心電図、薬変更後の推移を確認。

Kの検査詳細

Na

水とNaのバランスを確認。

組み合わせ・推移:低下は水貯留や利尿など複数の機序。出納・意識・薬剤を合わせ、補正は指示に沿う。

Naの検査詳細

Hgb

貧血など心負荷を増す要因を確認。

組み合わせ・推移:出血・栄養・腎機能だけでなく希釈や濃縮で変化。体液所見と前値を比較。

Hgbの検査詳細

心エコー心電図

EF、弁、心腔、充満・右心負荷や不整脈を評価。

組み合わせ・推移:EFが保たれていても心不全を否定しない。過去のEF、症状、画像を合わせ治療後も再評価。

報告:SBARで情報をそろえる

S|何が変わったか

  • 呼吸・意識・循環の変化と開始時点、緊急度。

B|背景と条件

  • 心不全病型・普段の体重、酸素条件、点滴、直近の薬・処置と増悪因子。

A|観察と反応

  • 呼吸数・血圧・脈・意識の前値と現在値、尿量・出納・体重、実施した看護と反応。

R|確認してほしいこと

  • 診察の緊急度、呼吸支持・薬剤調整・採血、再評価の時点と連絡基準。

患者・家族への説明

普段との差を記録

体重と呼吸・むくみ・活動の変化を記録し、連絡する変化と連絡先を一緒に決める。強い呼吸苦・失神は待たず救急へ。

薬と飲水を自己調整しない

調子がよくても薬を勝手にやめない。食べられない・嘔吐・脱水時の対応を事前に確認。塩分・飲水は個別計画に合わせる。

続けられる生活を一緒に考える

安定時の活動量、休息、食事、服薬の負担を相談。家族や地域支援と連携し、困ったことを伝えてもらう。

参考文献

  1. 国立循環器病研究センター:心不全部の詳しい説明

    肺うっ血・全身うっ血・低拍出の説明とβ遮断薬導入時の観察。

  2. JCS/JHFS 2025 心不全診療ガイドライン

    原本PDFの23~24頁(EF分類・病因検索・改善後)、64頁(治療の全体像)、77頁(HFpEF薬物治療・HFmrEF)の図表と本文を目視確認。全302頁を監査したという意味ではない。

  3. NHLBI:Heart Failure Treatment(2022)

    薬剤の観察と機器・生活支援の補助資料。古いHFpEF・SGLT2の治療記述は現行推奨として採用しない。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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