まず押さえること
- モード、設定値、アラーム範囲は指示・プロトコルと照合する
- 患者に合わせた設定変更は、権限と教育を受けた者が行う
- 機種ごとの名称・操作・回路構成は取扱説明書で確認する
人工呼吸器が支えるもの
酸素化と換気は別の視点
酸素化はFiO2とPEEP、肺の病態などが関わる。
換気は一回換気量と呼吸回数、死腔などが関わり、PaCO2に反映される。
人工呼吸器は病気そのものを治す機械ではなく、原因治療が効くまで呼吸を支える。高い圧や過大な換気量、過剰な酸素にも害がある。
患者までの経路
吸気と呼気の道を追う
人工呼吸器 → 吸気側回路 → 加温加湿・フィルタ → Yピース → 気管チューブ → 患者。
呼気は呼気側回路を通って呼気弁へ戻る。
- 電源、酸素・圧縮空気、回路接続
- 加温加湿器または人工鼻の種類と位置
- ウォータートラップ、結露、回路の屈曲・圧迫
- 閉鎖式吸引、フィルタ、ネブライザなど付属品の位置
- バッグバルブ装置と酸素源をすぐ使える状態にする
設定値を読む
設定と実測を対にする
設定した値が、そのまま患者へ届くとは限らない。
リーク、肺の硬さ、気道抵抗、自発呼吸によって実測値と波形が変わる。
- FiO2:吸入酸素濃度。目標酸素化に必要な最小限へ
- VT:一回換気量。予測体重あたりで評価する
- 呼吸回数:設定回数と患者の総呼吸回数を区別する
- 吸気圧:圧規定換気で吸気を支える圧
- PEEP:呼気終末に残す陽圧。肺胞虚脱を防ぐ一方、循環にも影響する
- PS:自発吸気を補助する圧
- 吸気時間・流量・トリガ:患者との同調に関わる
肺保護換気ではVT、プラトー圧、PEEP、auto-PEEP、駆動圧などを合わせて評価する。目標は病態で異なるため、一律の数字に当てはめない。
観察項目
- 胸腔内圧上昇で静脈還流と心拍出量が低下し、血圧が下がることがある
- 一方、測定される中心静脈圧は陽圧やPEEPの影響で高く見えることがある
- 数値一つで循環血液量を決めず、血圧、脈拍、末梢循環、尿量などを合わせる
CO2ナルコーシスは高CO2血症による意識障害。単純に「酸素の副作用」とはせず、換気、血液ガス、意識を評価する。
患者と人工呼吸器の同調
患者の呼吸と波形を重ねる
努力しているのに送気されない、二回続けて送気される、吸気の途中で終わる、呼気中も押される。
苦痛、分泌物、回路、鎮痛鎮静、設定の順にチームで原因を探す。
アラーム対応
患者 → 気道 → 回路 → 機器
患者の換気と酸素化を確認しながら、原因を上流からたどる。
原因が分からず換気不良なら、応援を呼び、訓練された方法で人工呼吸器を外して酸素付きバッグ換気へ。
- 痰、咬み込み、チューブ・回路の屈曲
- 咳、ファイティング、気管支攣縮
- 肺コンプライアンス低下、無気肺、肺水腫、気胸
- 回路外れ、接続の緩み、破損
- カフリーク、チューブ位置異常
- 呼吸努力低下、設定と患者需要の不一致
- 無呼吸、高呼吸回数、高分時換気量
- FiO2・酸素供給、電源・バッテリー、機器異常
- アラーム設定は患者ごとに適正化し、鳴らなくするために広げない
急に換気できないとき
DOPEで原因を並べる
Displacement:チューブ位置異常
Obstruction:痰・咬み込み・屈曲
Pneumothorax:気胸
Equipment:回路・機器・供給源
- 応援要請とABCDE
意識、気道、呼吸、脈拍・血圧、SpO2を確認する。
- 胸郭運動と呼吸音
左右差、送気、チューブ深さ、固定、閉塞を確認する。
- 回路をたどる
外れ、屈曲、水、フィルタ閉塞、酸素・電源を確認する。
- 換気を確保
換気不能・重い低酸素なら、訓練と院内手順に従い酸素付きバッグ換気へ切り替え、原因治療につなぐ。
日常ケアとVAP予防
口・体位・回路・離脱を束ねる
手指衛生、口腔ケア、誤嚥予防、回路管理、鎮静を最小限にする工夫、早期離床、毎日の離脱評価を組み合わせる。
- 禁忌がなければ上体挙上を行い、角度と患者のずれを確認
- 歯磨きを含む口腔ケアを行う。クロルヘキシジンのルーチン使用は避ける
- 体位変換前などに口腔・カフ上部の分泌物を確認する
- 結露は患者側へ流さず、手袋と手指衛生を守って排出する
- 回路は日数だけで定期交換せず、汚染・故障または製造元の指示で交換する
- チューブ固定部、口唇、舌、耳、後頭部などの圧迫を観察する
- 痛みを評価して鎮痛を優先し、過鎮静を避け、せん妄・睡眠・運動を支える
吸引・加湿・吸入
- 呼吸音、波形、分泌物、SpO2などから必要性を判断する
- 回路を開放する操作は低酸素、肺胞虚脱、感染の危険がある
- 生理食塩水の気管内注入をルーチンに行わない
- 加温加湿器または人工鼻の種類、温度、水位、結露を確認する
- 加湿不足は痰の粘稠化とチューブ閉塞、過剰な結露は誤流入につながる
- 処方、薬剤、用量、吸入デバイスと回路・人工呼吸器の適合を確認する
- ネブライザの位置、加湿器・人工鼻・フィルタの扱いは機種と院内手順に従う
- 回路を不用意に開放せず、前後で呼吸状態、波形、設定、接続を再確認する
回路の色、ふたの位置、画面メニューは機種で異なる。見た目で判断せず、採用機器の手順を照合する。
ウィーニングと離脱
毎日、外せる可能性を評価
原因病態の改善、自発呼吸、酸素化、循環、意識、咳・分泌物を確認。
適応があれば標準化した自発呼吸トライアル(SBT)を行い、呼吸・循環・意識の耐容性を見る。
- SBTに耐えられても、気道保護、咳、分泌物、上気道閉塞リスクを評価する
- 抜管後の酸素療法、HFNC・NPPVの適応、再挿管への備えをチームで決める
- 人工呼吸器をスタンバイにする時機や人員は院内手順と機種に従う
合併症
- 人工呼吸器関連肺傷害:過伸展、圧損傷、虚脱と再開放の反復
- 高濃度酸素による酸素毒性・吸収性無気肺
- 陽圧による血圧・心拍出量低下
- 人工呼吸器関連肺炎、分泌物貯留、気管チューブ閉塞
- 人工呼吸器誘発性横隔膜機能障害、筋力低下
- せん妄、過鎮静、不動、睡眠障害
- 口腔・気道・皮膚損傷、腹部膨満、便秘、栄養障害
記録
- 日時、体位、意識、呼吸・循環、SpO2、必要時の血液ガス
- モード、設定FiO2・VT・回数・圧・PEEP・PSなど
- 実測VT、分時換気量、総呼吸回数、気道内圧、波形・同調
- チューブ深さ・固定・カフ圧、痰の量・性状、加湿・回路
- アラーム内容、原因、対応、対応前後の患者反応
- 鎮痛鎮静・せん妄、口腔ケア、体位変換、離床、SBTと離脱評価
記録時刻と書式は勤務帯で一律にせず、院内基準と患者の変化に合わせる。設定値だけでなく、実測値と患者反応を同じ時点で残す。
出典
- 日本呼吸器学会・日本呼吸療法医学会・日本集中治療医学会「ARDS診療ガイドライン2021」
- AARC Clinical Practice Guideline: Patient-Ventilator Assessment(2024)
- AARC Clinical Practice Guideline: Spontaneous Breathing Trials for Liberation From Adult Mechanical Ventilation(2024)
- SHEA/IDSA/APIC「VAP・VAE・院内肺炎予防戦略 2022 Update」
- CDC「Guidelines for Preventing Health-Care-Associated Pneumonia」
- AARC「Safe Initiation and Management of Mechanical Ventilation」