注意事項
始める前に方法を変える条件を探す
- 意識低下、咳反射・嚥下機能の低下、含嗽ができない
- 呼吸不安定、酸素療法・NPPV・人工呼吸管理中
- 出血傾向、血小板減少、抗凝固薬・抗血小板薬の使用
- 口腔粘膜炎、放射線・化学療法後、口腔内の手術創
- 動揺歯、破折歯、義歯、インプラント、矯正装置がある
- 開口困難、疼痛、咬反射、ケアへの拒否がある
中止してすぐ確認する変化
- むせ、連続する咳、湿性嗄声、呼吸苦、SpO₂低下
- 顔色不良、意識・反応の変化
- 持続する出血、強い痛み、粘膜損傷
- 歯、義歯、器具の一部が見当たらない
- 気管チューブや酸素デバイスの位置変化・アラーム
目的
- 歯垢、食物残渣、痰、舌苔などを除去する
- 歯、歯肉、粘膜、舌、義歯を清潔に保つ
- 乾燥、疼痛、出血、腫脹、傷を早く見つける
- 口臭や不快感を減らし、会話・食事・休息を支える
- 本人ができるセルフケアを保つ
口腔ケアは肺炎予防に関わる援助の一つだが、実施だけで肺炎を必ず防げるとはしない。嚥下、咳嗽、体位、全身状態も合わせてみる。
実施前の観察
入口から奥へ、左右を比べる
- 全身:意識、呼吸、SpO₂、疲労、体位保持
- 機能:開口、咳、嚥下、含嗽、唾液を吐き出せるか
- 口唇:乾燥、亀裂、出血、口角炎
- 歯・歯肉:歯垢、動揺、破折、う蝕、発赤、腫脹、出血
- 粘膜・舌:乾燥、発赤、白斑、潰瘍、舌苔、痰
- 義歯:装着、汚れ、破損、適合、粘膜の圧迫
- 痛み、口臭、本人の訴えと普段の方法
OHAT-Jを使う場合
- 口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目をみる
- 評価者間で判定をすり合わせる
- スコアだけで診断せず、変化と歯科相談の必要性を共有する
必要物品
- 口腔内を照らすライト
- 歯ブラシ
- 患者に適した歯磨剤
- コップ
- 水またはぬるま湯
- ガーグルベースン
- タオル
- 非滅菌手袋
- エプロン
- 飛散リスクに応じたマスク・眼の防護具
- 必要時、スポンジブラシまたは口腔ケア用綿棒
- 必要時、タフトブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロス
- 必要時、舌清掃用具
- 必要時、口腔保湿剤
- 必要時、吸引装置と吸引機能付き歯ブラシ
- 義歯がある場合、義歯用ブラシ
- 義歯がある場合、義歯容器
- 廃棄物袋
歯ブラシ、スポンジ、保湿剤、洗口液、歯磨剤は、口腔状態と製品表示に合わせる。薬剤を含む製品を全員へ一律に使わない。
基本の手順
- 説明し、できる動作を確認
本人確認、目的、方法、中止の合図を共有。自分で磨ける場所、義歯の扱い、普段の用品と好みを確認する。
- 呼吸と嚥下に合わせて体位を整える
可能なら上体を起こし、頭頸部を安定させる。顎を上げない。臥位では排液方向を考え、吸引をすぐ使える位置へ置く。
- 義歯を外し、口腔内を観察
義歯は外し方を確認し、落下させない。ライトで歯、歯肉、粘膜、舌、分泌物を観察。動揺歯や出血部位を把握する。
- 乾いた汚れを先に湿らせる
乾燥した痰や痂皮へ少量ずつ水分または保湿剤を使う。無理にはがさず、軟らかくなってから回収する。
- 歯垢を歯ブラシで落とす
歯ブラシを強く握らず、小さく動かす。歯の外側、かみ合わせ、内側、歯と歯肉の境界を見ながら磨く。
- 粘膜と舌は傷つけずに清掃
頬粘膜、口蓋、舌、舌の下を確認。スポンジやガーゼは水分を絞り、奥へ押し込まず、汚れたら交換する。
- 落とした汚れを口の外へ回収
含嗽できる人は吐き出す。難しい人は手前へ集め、拭き取りや吸引で回収する。多量の水を咽頭へ流さない。
- 再観察し、安楽を整える
出血、傷、汚れ、乾燥、疼痛を再確認。必要時は保湿し、義歯・体位・酸素機器を戻して反応を記録する。
含嗽できない人のケア
水分を入れる量より、回収できる量を考える
- 開始前に吸引装置の作動と接続を確認する
- スポンジや綿棒の余分な水分を絞る
- 口腔内へシリンジで多量の水を流し込まない
- 汚れを咽頭側へ押さず、手前へ集める
- 吸引管を深く入れず、粘膜へ長く押し当てない
- 咳、むせ、呼吸、声、SpO₂を見ながら短く区切る
吸引圧、器具、カテーテルの扱いは患者の状態、機器の表示、院内手順に従う。
義歯の扱い
義歯と口の中を別々に見る
- 本人の義歯であることと、外し方・戻し方を確認する
- 洗面器や水を張った容器の上など、落下・破損を防げる場所で洗う
- 義歯用ブラシで汚れを落とし、洗浄剤は製品表示に従う
- 熱湯や研磨性の強い用品を避ける
- 義歯を外した口腔粘膜の発赤、傷、圧迫部位を観察する
- 保管方法と夜間の装着は歯科指示・本人の計画を確認する
方法を変える場面
- 口腔粘膜炎・易出血:柔らかい器具と弱い力へ変更。持続出血、潰瘍、白斑、強い痛みを報告する
- 動揺歯・破折歯:脱落と誤嚥の危険を共有し、強く磨かず歯科評価につなぐ
- 絶食・経管栄養:食べていなくても口腔ケアを省かない。乾燥、痰、舌苔を観察する
- NPPV・高流量酸素:ケア中の呼吸状態と休止方法を事前に確認し、治療を無断で中断しない
- 気管挿管中:チューブ位置、固定、カフ、バイトブロックを確認。固定交換やカフ圧調整は口腔ケアと分け、担当者と院内手順に従う
- 気管切開:口腔ケアは必要。気管孔のガーゼ交換、カニューレ・カフ・側管管理は別手技として指示を確認する
- 抗菌性洗口剤:人工呼吸中を含め一律のルーチンにせず、適応、禁忌、濃度、使用法を確認する
報告・記録
すぐに報告する変化
- 呼吸苦、むせ、湿性嗄声、SpO₂低下、意識変化
- 止まりにくい出血、強い痛み、粘膜損傷
- 歯の動揺・脱落、義歯や器具の破損・紛失
- 腫脹、膿、潰瘍、白斑、悪臭、急な口腔乾燥
- 気管チューブ、酸素デバイス、経鼻チューブの異常
記録すること
- 実施方法、使用した器具・製品、吸引の有無
- 実施前後の口腔内所見と全身状態
- 含嗽、嚥下、咳、セルフケア能力
- 義歯の装着・保管、医療機器の確認
- 実施中・実施後の反応、報告内容と対応
出典
- 厚生労働省「介護職員等による日常的な口腔ケア」関連研修資料
- 日本歯科医師会「要介護者への口腔ケア」
- Matsuo K, Nakagawa K. Reliability and Validity of the Japanese Version of the Oral Health Assessment Tool (OHAT-J). 2016
- SHEA/IDSA/APIC「Strategies to prevent VAP, VAE, and NV-HAP: 2022 Update」
- WHO「Standard precautions for the prevention and control of infections」2022