呼吸・循環を整える技術 更新・文献確認:2026年8月27日

酸素療法

酸素を「多く入れる」のではなく、患者に合う目標範囲へ届ける。デバイス選択、観察、手順、ボンベ残量を絵でつなぐ学習ノート。

学習用。医療用酸素は医薬品。患者の状態、医師の指示、採用機器の電子添文・表示、院内手順を優先する。

注意事項

このページの範囲
  • 成人急性期の通常酸素療法
  • 鼻カニューレ、シンプルマスク、ベンチュリーマスク、リザーバー付きマスク
  • 小児・新生児、在宅酸素療法、気管切開、人工呼吸器は対象外
  • HFNCとNPPVは概要だけ。設定と管理は別ページで扱う
開始前に外せない確認
  • 投与理由、デバイス、流量またはFiO2、目標SpO2
  • 高二酸化炭素血症の既往・リスク、酸素アラートカード、直近の血液ガス
  • 火気、可燃物、油脂、チューブの折れ・外れ
  • 重い低酸素血症や急速な悪化は、酸素投与と同時に応援を要請

目的

低酸素血症を補正肺胞から血液へ渡る酸素を増やし、必要な酸素化を保つ。
臓器を低酸素から守る脳、心臓などへ酸素が届く状態を支える。
原因治療まで支える目標範囲へ調整しながら、低酸素の原因評価と治療へつなぐ。

最初に決める目標SpO2

代表的な成人急性期の範囲

多くの成人:94〜98%

高二酸化炭素血症のリスク:88〜92%

後者は血液ガス結果が得られるまでの代表的な範囲。既往、疾患、個別指示で変わる。

目標値と患者を同時に見る

SpO2だけで投与量を決めない。

呼吸仕事量、意識、循環、波形・信号、血液ガス、投与前後の変化を合わせる。

一酸化炭素中毒、蘇生直後、特定薬剤による肺障害などは別の指針が必要。

観察項目

呼吸呼吸数、深さ、リズム、努力呼吸、会話、胸郭運動、呼吸音、チアノーゼ。
酸素化と循環SpO2の値・推移・波形、脈拍、血圧、末梢循環。必要時は血液ガス。
意識・全身症状落ち着きのなさ、傾眠、頭痛、発汗、倦怠感、胸痛。CO2貯留も考える。
咳嗽・喀痰咳の強さ、喀出の可否、量、色、粘稠度、血液混入、吸引の必要性。
デバイスと皮膚流量・FiO2、接続、酸素の流出、位置、耳・鼻・頬の圧迫、乾燥、残量。

安静時だけでなく、体動・食事・排泄・睡眠時も確認。酸素を外した場面や移動後は再評価する。

酸素投与デバイス

流量と濃度の目安

成人の通常酸素療法で使う4つのデバイスを、0〜15L/分の共通流量軸で比較した図。鼻カニューレは1〜6L/分でFiO2約24〜40%、シンプル酸素マスクは5〜10L/分で約35〜60%、ベンチュリーマスクは製品指定流量で24・28・31・35・40・60%など、非再呼吸式リザーバー付き酸素マスクは10〜15L/分で約60〜80%が代表的な目安。
濃度は「流量だけ」で決まらない 鼻カニューレとマスクのFiO2は、呼吸数、一回換気量、口呼吸、装着状態、製品構造などで変わる。図の値は成人・通常呼吸時の代表的な範囲。 参考:BTSガイドラインAARCガイドライン、PMDA電子添文(経鼻カニューレ酸素マスクベンチュリーマスク)。
  • 鼻カニューレ:代表流量1〜6L/分、FiO2約24〜40%。呼吸パターンで大きく変わる。
  • シンプル酸素マスク:代表流量5〜10L/分、FiO2約35〜60%。5L/分未満にしない。
  • ベンチュリーマスク:製品指定流量を使い、24、28、31、35、40、60%などの設定濃度から選ぶ。
  • 非再呼吸式リザーバー付き酸素マスク:代表流量10〜15L/分、FiO2約60〜80%。バッグ、弁、密着、呼吸で変わる。
シンプル酸素マスク鼻と口を覆う。一般に5〜10L/分。5L/分未満はCO2再呼吸のおそれがある。
ベンチュリーマスクアダプターごとに設定濃度と必要流量が決まる。空気取入口を塞がない。表示と電子添文を確認。
リザーバー付き酸素マスク高濃度酸素が必要な緊急時に使用。装着前にバッグを膨らませ、吸気時につぶれ切らない流量を保つ。

流量・濃度の範囲は代表的な成人用。製品ごとに違う。器具の表示、電子添文、医師の指示を優先する。

必要物品

酸素供給源中央配管または医療用酸素ボンベ。ラベルでガス名を確認。
流量計・圧力調整器採用機器の読み方を確認。浮子式は指定位置で目盛りを読む。
観察と皮膚保護に使う物品パルスオキシメータ、必要時のパッド、固定材、加湿器。
  • 医療用酸素供給源
  • 酸素流量計
  • ボンベ使用時の酸素用圧力調整器
  • 指示された酸素投与デバイス
  • 酸素供給チューブ
  • パルスオキシメータ
  • 必要時、皮膚保護用パッド
  • 必要時、固定用テープ
  • 必要時、製品指定の加湿器
  • 加湿器に指定された水
  • 必要時、火気厳禁の表示
  • 患者状態に応じた救急・吸引物品

加湿は一律ではない。流量、乾燥・不快感、分泌物、投与時間、製品の接続条件、院内手順で判断する。

手順

  1. 本人・指示・目標を照合

    投与理由、デバイス、流量またはFiO2、目標SpO2、開始・調整条件を確認。

  2. 投与前の状態をつかむ

    呼吸、SpO2と信号、意識、循環を観察。CO2貯留リスクと直近の血液ガスも確認。

  3. 体位・環境・供給源を整える

    呼吸しやすい体位へ。火気と油脂を遠ざけ、ガス名、残量、接続口、チューブを確認。

  4. 接続して指示値へ設定

    流量計とチューブを確実に接続。酸素が先端まで出ていることを確認する。

  5. デバイス固有の準備

    ベンチュリーは指定アダプターと流量。リザーバーは装着前にバッグを膨らませる。

  6. 装着して圧迫・閉塞を除く

    鼻・口へ正しく合わせる。締めすぎず、側孔・空気取入口を塞がない。耳や頬を保護。

  7. 反応を再評価し記録

    数分以内に呼吸、SpO2、意識、循環を再確認。目標外・悪化は報告し、指示や手順に沿って調整。

酸素ボンベの残量確認

最初に読む2つ

容器の内容積「V」と、圧力計の値。

ガス名の医薬品ラベルも確認。通称「500Lボンベ」でも、計算には刻印・仕様の内容積を使う。

MPa表示の概算

残量(L)≒ 内容積(L)× 圧力(MPa)× 10

理論使用時間(分)≒ 残量(L)÷ 流量(L/分)

例:V 3.4L、10MPa、2L/分なら、約340L・約170分。

計算値を使い切らない

搬送時間、待ち時間、流量変更、機器誤差を見込む。

交換基準と安全係数は院内手順へ。十分な残量を選び、搬送中も圧力計を確認する。

旧単位の圧力計
  • kgf/cm²表示:残量(L)≒ 内容積(L)× 圧力(kgf/cm²)
  • 1MPa ≒ 10.2kgf/cm²
  • どちらも概算。製品仕様と院内換算表を優先

安全余裕として残量に0.8をかける方法もある。全国共通の固定値ではないため、計算式へ一律には組み込まず、院内手順を確認する。

関連知識

パルスオキシメータには誤差がある

数値、波形・信号、患者の症状をセットで読む。

体動、低灌流、冷え、爪、皮膚色、センサー位置などで測定がずれる。疑わしい値は測り直し、必要時は血液ガスへ。

CO2貯留をSpO2だけで否定しない

酸素化が保たれていても、換気不全はありうる。

傾眠、頭痛、呼吸の浅さ、既往を確認。高リスクでは目標範囲と血液ガスを重視する。

酸素は燃えないが、燃焼を強くする

医療施設では使用設備の周囲5m以内を火気禁止。

喫煙、火花、可燃物を避ける。バルブや圧力調整器へ油脂を付けず、ボンベは固定して静かに開閉する。

高濃度・長時間投与にも注意

必要な濃度を、必要な時間だけ。

高濃度酸素の長時間投与では酸素中毒の危険がある。目標内で減量・中止できるか継続して見直す。

HFNC・NPPVとの違い

通常酸素から呼吸補助へ

HFNC:加温加湿した高流量ガスを太い鼻カニューレから送る。

NPPV:密着するマスクから陽圧をかけ、酸素化と換気を補助する。

どちらも通常酸素とは機器・設定・観察が異なる。詳しい導入と管理は別ページで扱う。

出典