検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。
病型と病態のつながり
第1群:PAH・小さな肺動脈の病変
- 肺動脈の壁の変化や収縮で流路が狭くなる
- 肺血管抵抗が増し右室の負担が増える
- 労作時息切れ・失神や右心不全につながる
観察へ:病型とリスクに合う薬を選ぶ。肺静脈閉塞性疾患などでは血管拡張後の肺水腫にも注意。
第2群:左心疾患から圧が伝わる
- 左室や弁の病気で左房側の圧が上がる
- 肺静脈・肺循環へ圧が伝わる
- 肺うっ血と右心への負担が起こる
観察へ:心不全・弁膜症の治療と体液管理を確認。PAH用の薬を一律に使わない。
第3群:肺疾患・低酸素に伴う変化
- 肺実質の病変や低酸素がある
- 肺血管の収縮・血管床の減少などで抵抗が増える
- ガス交換の障害と右室負担が重なる
観察へ:酸素条件と肺の病気を合わせて評価。重症度に応じた肺血管治療は専門施設で判断する。
第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症
- 残った血栓が器質化し肺動脈を狭窄・閉塞する
- 閉塞と小血管の変化で抵抗が増える
- 運動時の血流が不足し右心に負担がかかる
観察へ:急性肺塞栓症とは治療計画が異なる。血栓内膜摘除術・BPA・薬物療法の適応を専門チームで評価。
各群で注意:右心不全と低心拍出
- 右室が高い負荷に対応できなくなる
- 全身静脈のうっ血と前方への血流不足が起こる
- 浮腫・腹部膨満・尿量低下・冷感・失神を来しうる
観察へ:むくみだけで水分を減らさず、血圧・尿量・末梢循環と治療反応を合わせて確認。
血流と圧の関係を簡略化した図。心エコーや血管造影の再現ではない。第5群は血液疾患・全身疾患など複数の機序が関わり、原因ごとの専門評価が必要。複数の原因が重なることもある。
症状から観察・再確認へ
労作時息切れ・疲れやすさ
- 見る・聞く
- どの動作で出るか、呼吸数・会話・努力呼吸・SpO₂と酸素条件、休息後の回復を確認。
- 何を反映するか
- 活動に必要な循環・酸素供給の不足や肺病変を反映する。
- 普段と比較
- 普段の歩行・着替え・入浴、同じ動作と酸素条件。
- 悪化を疑う変化
- より軽い動作や安静で症状、回復が遅い、酸素需要増加。
- 再確認
- 活動を止め安全な体位で再測定。血圧・脈・意識・胸痛も確認し報告。
失神・前失神・胸痛
- 見る・聞く
- 発症時の活動・姿勢、持続、胸痛、血圧・脈・心電図、意識回復を確認。
- 何を反映するか
- 心拍出不足、不整脈、虚血などを疑う。
- 普段と比較
- 普段の血圧、投薬前後、直前の活動と水分出納。
- 悪化を疑う変化
- 新しい失神、反復、持続胸痛、冷汗・低血圧や意識変化。
- 再確認
- 歩行させず応援・緊急評価へ。休んで回復しても新しい失神を放置しない。
浮腫・腹部膨満・尿量低下
- 見る・聞く
- 体重、下肢浮腫、腹囲の変化、摂取・尿量、皮膚温、血圧を確認。
- 何を反映するか
- 右心うっ血と腎灌流低下の可能性。薬や腎疾患の影響もある。
- 普段と比較
- 同じ条件の体重、普段の尿量、利尿薬前後の出納。
- 悪化を疑う変化
- 浮腫・体重増加と尿量低下、冷感・血圧低下を伴う。
- 再確認
- 利尿後の症状だけでなく循環と腎機能を再評価。独断で補液・水分制限を強めない。
血痰・喀血
- 見る・聞く
- 量だけでなく持続・反復、呼吸・SpO₂、脈・血圧、抗凝固薬と処置歴を確認。
- 何を反映するか
- 肺血管からの出血や治療合併症などを疑う。
- 普段と比較
- 普段の痰、直近のBPAや薬、Hgbの推移。
- 悪化を疑う変化
- 持続・増量、血液を出しきれない、低酸素・循環変化。
- 再確認
- 応援要請し気道確保・吸引等を準備。抗凝固薬の対応を緊急確認する。
持続注射のアラーム・残量異常
- 見る・聞く
- 処方濃度・流量、電源、残量、接続・屈曲・漏れ、症状を確認。
- 何を反映するか
- 投与不足や中断による増悪、誤投与の可能性。
- 普段と比較
- 予定消費量、直前の交換・移動、通常の呼吸循環。
- 悪化を疑う変化
- 中断が疑われる、急な息切れ・胸痛・血圧低下。
- 再確認
- 直ちに専門チームへ連絡し施設手順で継続投与を確保。独断で急速注入や回路洗浄をしない。
注射部位の発赤・発熱
- 見る・聞く
- 挿入部、疼痛・浸出液、悪寒、体温・意識・呼吸循環を確認。
- 何を反映するか
- 持続カテーテルの感染・敗血症の可能性。
- 普段と比較
- 普段の部位、被覆材交換、発熱経過と薬の投与状況。
- 悪化を疑う変化
- 悪寒戦慄、血圧低下、意識変化、呼吸悪化。
- 再確認
- 培養・治療・代替投与経路を相談。ライン抜去で薬を突然中断しないよう計画する。
看護判断:変化の緊急度
経過を観察できる状態
症状・活動範囲・酸素条件・体液状態が普段と同程度で、治療が計画通り継続できる。
次の行動:同じ活動と条件で記録し、定期的なリスク評価へつなぐ。SpO₂だけで安定と決めない。
早めの共有・報告
活動範囲が狭くなる、体重・浮腫の増加、尿量減少、薬の副作用や服薬継続の困難。
次の行動:症状の速度、血圧・出納・酸素・投薬を整理し相談。治療変更後は反応を比較する。
直ちに応援・緊急対応
新しい失神、安静時呼吸困難、持続胸痛、意識・循環変化、気道を脅かす喀血、持続注射の中断。
次の行動:応援要請、ABC・モニター・投与経路を確認。専門チームへ緊急連絡し、搬送や循環呼吸管理を準備する。
緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。
看護行動:優先順位
1|負担を止めて安全を確保
失神・胸痛・強い息切れでは歩行を中止。呼吸・循環に合わせて体位を調整し、独歩で移動させない。
2|呼吸と循環を同時に確認
意識、呼吸数・SpO₂・酸素条件、血圧・脈・心電図、末梢循環を確認。指示に従い酸素と処置を準備。
3|原因群と治療条件を共有
PAH、左心、肺、CTEPHなどの分類、直近の右心評価、薬・最終服用・持続注射設定を引き継ぐ。
4|持続投与を安全に保つ
専用ライン・ポンプ・残量・接続を照合。交換・搬送時も中断や急速注入を防ぐ。トラブルは直ちに専門チームへ。
5|体液を前後で評価
体重・摂取・排泄・浮腫と血圧・腎機能を記録。補液も利尿も右心の状態と処方に合わせ、反応を再確認。
6|検査・処置後を比較
カテーテル穿刺部、出血・血痰・酸素化、胸痛・循環を確認。BPA後の呼吸悪化は速やかに報告。
7|安全な活動と退院支援
安定時は指示された運動・休息を調整。薬と酸素の供給、ポンプ予備物品、夜間連絡先、支援者の手順理解を確認。
治療前・中・後の看護
原因群に応じた基礎疾患の治療
- 目的
- 左心・肺・低酸素などの原因と右心負担を軽減。
- 前に確認
- 原因群、心エコー・肺機能、酸素と併存症を確認。
- 中に観察
- 呼吸、体液、血圧、活動範囲と治療の有害反応を追う。
- 反応・再評価
- 症状・活動・検査の変化を合わせて評価。
- 適応・注意
- 第2群・第3群にPAH薬を一律使用しない。重症肺疾患関連例等は専門的に適応判断。
利尿薬による体液調整
- 目的
- 右心うっ血による浮腫・体液貯留を軽減。
- 前に確認
- 血圧、体重・出納、腎機能、Na・Kを確認。
- 中に観察
- 尿量と浮腫に加え、口渇・立ちくらみ・末梢循環を確認。
- 反応・再評価
- 体液貯留の改善と、血圧低下・腎機能悪化・電解質異常を再評価。
- 適応・注意
- 過度な利尿は心拍出を減らすおそれ。減量・補液を独断で決めない。
エンドセリン受容体拮抗薬
- 目的
- PAHの血管収縮・増殖に関わる経路を抑える。
- 前に確認
- 適応、妊娠可能性・避妊、肝機能・Hgb、併用薬を確認。
- 中に観察
- 浮腫、貧血、肝障害の症状・採血を製剤ごとに確認。
- 反応・再評価
- 活動・症状・右心評価と副作用を比較。
- 適応・注意
- 製剤ごとの禁忌・検査時期に従う。薬の追加で浮腫が増えた可能性も考える。
PDE5阻害薬
- 目的
- 血管を緩める伝達物質の分解を抑え、適応のあるPAHの肺血管抵抗を下げる。
- 前に確認
- 病型、血圧、肝腎機能、硝酸薬・NO供与薬・リオシグアトと、CYP3A4に強く作用する併用薬を照合。
- 中に観察
- 頭痛、ほてり、めまい・血圧低下と症状の変化を観察。
- 反応・再評価
- 活動・循環と副作用を比較し、専門チームが治療反応を評価。
- 適応・注意
- タダラフィルのPAH用製剤へ接続。硝酸薬等・リオシグアトは併用禁忌。NO吸入の例外的併用は専門医・緊急対応施設で判断。切替や腎肝機能による条件は添文と処方を照合。
アドシルカ錠20mgの詳細を開くsGC刺激薬
- 目的
- 血管を緩める伝達経路を刺激する。PAHや、手術不適応・術後残存/再発のCTEPHで適応を評価。
- 前に確認
- 対象病型、血圧、妊娠関連の条件、硝酸薬・PDE5阻害薬の使用を照合。
- 中に観察
- 血圧低下、立ちくらみ、失神、出血・血痰と呼吸の変化を確認。
- 反応・再評価
- 活動時症状と循環を比較。増量・切替後は忍容性も再評価する。
- 適応・注意
- PDE5阻害薬や硝酸薬等と併用しない。切替間隔は製剤の添文と処方を確認。CTEPHの血行再建の評価も続ける。
プロスタサイクリン経路:持続静注
- 目的
- 適応のあるPAHで肺血管抵抗と右心負担を軽減。
- 前に確認
- 病型・循環、製剤、専用溶解液、濃度・流量・ポンプ・ラインを照合。
- 中に観察
- 血圧低下、頭痛・潮紅、出血、肺水腫、感染、残量とアラームを監視。
- 反応・再評価
- 症状・心拍出と副作用を確認。肺動脈圧の低下だけで増量を判断しない。
- 適応・注意
- 急な中断・減量で増悪しうる。急性右心不全等の禁忌と導入条件は添文で確認し、継続中の急変も独断で停止しない。
アクチビンシグナル伝達阻害薬
- 目的
- 対象となるPAHで、既存治療に追加して病態の経路へ作用する。
- 前に確認
- 適応、Hgb・血小板、出血、併用薬と妊娠関連の条件を確認。
- 中に観察
- 出血、血小板減少、Hgb上昇、血圧と皮膚・粘膜の変化を確認。
- 反応・再評価
- 症状・運動能力と採血を比べ、投与可否・間隔を専門チームが判断。
- 適応・注意
- 全てのPHが対象ではない。休薬・再開条件は最新添文で確認し長期安全性も継続評価する。
CTEPH:抗凝固療法と血行再建
- 目的
- 新たな血栓を防ぎ、器質化した閉塞への治療で血流を改善。
- 前に確認
- 出血リスク、閉塞部位と手術可能性、抗凝固薬、腎機能を確認。
- 中に観察
- 薬物療法中の出血、術後・BPA後の喀血、呼吸悪化、穿刺部と循環を観察。
- 反応・再評価
- 症状・血行動態・活動と残存PHを再評価。
- 適応・注意
- 血栓内膜摘除術、BPA、適応薬を専門チームで組み合わせる。PAH全例への抗凝固投与と混同しない。
ワーファリン錠0.5mg・1mg・5mgの詳細を開く検査の意味と読み方
心エコー
右室の大きさ・機能、推定圧、左心・弁の病変を評価。
組み合わせ・推移:推定値だけで確定診断や重症度を決めない。症状と右心カテーテル等を合わせる。
右心カテーテル
肺動脈圧・肺動脈楔入圧・心拍出量から病型と血行動態を評価。
組み合わせ・推移:肺動脈圧だけでなく左心側の圧と抵抗を組み合わせる。測定条件・治療前後を確認。
BNP
心室への負荷を評価し、治療反応の指標にする。
組み合わせ・推移:上昇は右心負荷でも起こる。腎機能・左心疾患、症状・体液と推移を合わせる。
BNPの検査詳細
PaO₂・血液ガス
酸素化と換気を評価。
組み合わせ・推移:低下の原因は複数。酸素流量・投与法を記録し、PaCO₂・pH・肺病変と照合。
PaO₂・血液ガスの検査詳細
Hgb
貧血や薬に伴う増加を評価。
組み合わせ・推移:低下は出血・貧血、高値は低酸素や治療の影響などを検討。症状と投薬前後を比較。
Hgbの検査詳細
血小板
薬の安全性と出血リスクを評価。
組み合わせ・推移:減少は投薬や基礎疾患と照合し、皮下出血・鼻出血・血痰を確認。
血小板の検査詳細
クレアチニン
右心不全・利尿中の腎機能を評価。
組み合わせ・推移:上昇を出納・血圧・体重と比較。うっ血と脱水の両方を考える。
クレアチニンの検査詳細
K
利尿薬等による電解質変化を評価。
組み合わせ・推移:低下・上昇とも不整脈に関わる。腎機能・薬・心電図と推移を確認。
Kの検査詳細
肺血流シンチ・CT・呼吸機能
血流欠損や肺病変を調べ原因群を絞る。
組み合わせ・推移:単独検査で病型を決めない。CTEPH評価と肺疾患評価で検査の役割が異なる。
6分間歩行・運動耐容能
活動時の症状と運動能力を評価。
組み合わせ・推移:距離だけでなく症状、酸素条件、脈と回復を比較。失神・胸痛などの不安定時に無理に実施しない。
報告:SBARで情報をそろえる
S|新しい症状と緊急度
- いつからどの動作で変化したか。
- 失神・胸痛・喀血、現在の意識・呼吸・循環。
B|病型と治療条件
- 原因群、右心評価、薬・酸素、持続注射の製剤・濃度・流量と中断の可能性、直近の処置。
A|前後の比較
- 普段と現在の活動・血圧・脈・SpO₂・酸素、体重・尿量、看護介入と反応。
R|確認してほしいこと
- 急性右心不全や出血・感染の評価、投与経路復旧、酸素・循環・体液と搬送方針。
患者・家族への説明
活動と相談の目安
普段より軽い動作で苦しい、むくみや体重が増える変化を相談。失神、安静時の強い息切れ・胸痛、咳と一緒に血が出る状態が続くときは緊急連絡。
薬とポンプを続ける準備
自己判断で薬を中断しない。持続注射は交換手順・予備電源と薬・夜間連絡先を支援者と確認する。
日常生活を調整
無理な負荷を避け、安定時の運動範囲・休息・酸素を相談。旅行・高地・飛行機は事前に計画する。
妊娠・薬の相談
妊娠や避妊は病状と薬の影響を含め専門チームに早めに相談。市販薬や他院処方を追加する前に共有する。
看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。
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