検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。
病型と病態のつながり
肺血流が妨げられる段階
- 静脈由来の血栓が肺動脈を閉塞
- 空気と血流の釣り合いが崩れ、右心への抵抗が増加
- 息切れ・頻呼吸/血圧が正常でも右心負荷を評価
観察へ:呼吸数、努力呼吸、酸素条件、脈拍を追う。右心負荷やトロポニン上昇がある例では、悪化を捉えられる監視体制を確認する。
右心が耐えられず循環が不安定
- 肺動脈の抵抗が急増
- 右心が十分に送り出せず、左心へ戻る血液も不足
- 血圧低下・失神・ショック/緊急の再灌流評価
観察へ:意識、皮膚冷感、血圧の推移、尿量を合わせて評価。検査がそろうまで急変対応を待たない。
肺血流と右心負荷の模式図。血栓の大きさだけで重症度は決まらない。血圧が保たれていても、右心機能・心筋障害・臨床経過でリスクが変わる。急性肺血栓塞栓症を中心に扱う。
症状から観察・再確認へ
突然の息切れ
- 見る・聞く
- 発症時刻、安静・活動との関係、呼吸数、会話、努力呼吸、体位、SpO₂と酸素デバイス・流量を確認する。
- 何を反映するか
- 肺血流障害によるガス交換の不均衡や循環負荷の手がかり。酸素飽和度だけでは重症度を決められない。
- 普段と比較
- 普段の移動と息切れ、直前の酸素条件、呼吸数、必要な休息を比較する。
- 悪化を疑う変化
- 急速な酸素必要量増加、会話困難、疲弊、意識変化、呼吸と循環の同時悪化。
- 再確認
- 活動を止め、呼吸・循環を継続評価。酸素開始後はSpO₂だけでなく呼吸努力と血圧を確認する。
胸痛・血痰
- 見る・聞く
- 出現時刻、場所、呼吸による変化、強さ、血痰の量、脈拍・血圧・呼吸を確認する。
- 何を反映するか
- 肺梗塞や胸膜刺激の可能性。急性冠症候群・大動脈疾患などの鑑別も必要で、痛み方だけで断定しない。
- 普段と比較
- 新規か持続・増悪か、抗凝固開始との時間関係、Hbや酸素条件を比較する。
- 悪化を疑う変化
- 強い胸痛と冷汗・失神・血圧低下、血痰の増加と呼吸悪化。
- 再確認
- 疼痛への対応後も呼吸・循環を確認。血痰を疾患由来と決めつけず、治療による出血も評価する。
失神・末梢循環不良
- 見る・聞く
- 意識の反応、血圧の推移、脈拍、皮膚温・色、冷汗、尿量、失神前後の状況を確認。転倒を防ぐ。
- 何を反映するか
- 右心不全から全身に届く血流が減った可能性。血圧が一度回復しても原因評価が必要。
- 普段と比較
- 普段・直前の血圧や意識、時間尿量、乳酸、輸液・昇圧薬の条件を比較する。
- 悪化を疑う変化
- 意識が戻らない、持続する低血圧、冷感増強、尿量減少、心停止。
- 再確認
- 応援要請とABC評価を優先。治療変更ごとに意識・呼吸・循環の反応を記録する。
出血・新しい神経症状
- 見る・聞く
- 穿刺部、尿便、皮下出血、頭痛・麻痺・意識、腹背部痛、転倒歴を確認。薬の最終投与時刻も把握する。
- 何を反映するか
- 抗凝固・血栓溶解・侵襲的処置に伴う出血の可能性。見える出血がなくても重症出血を除外できない。
- 普段と比較
- Hb・血小板、血圧、出血範囲、処置前後と薬剤変更前後を比較する。
- 悪化を疑う変化
- 止血困難、激しい頭痛・麻痺、循環不良、急なHb低下。
- 再確認
- 直ちに共有し、投与中止を含む施設の緊急手順へ。止血・中和後も再出血と血栓再発を追う。
看護判断:変化の緊急度
計画に沿った経過観察
診断・リスク評価と治療計画があり、呼吸循環が安定して症状が改善し、出血もない。
次の行動:予定されたモニター・検査を続ける。正常血圧やSpO₂だけで観察頻度・治療を減らさない。
早めに共有・再評価
息切れ・頻脈の増加、酸素必要量の増加、軽い出血、新しい脚の腫れ、服薬漏れ。
次の行動:変化時刻と条件を共有し、再診察・検査・治療と監視場所の再評価を求める。
直ちに応援・緊急対応
突然の強い呼吸困難、失神、低血圧と冷汗・意識変化、重大な出血、心停止。
次の行動:歩かせず応援要請。ABC、モニター、救急物品を準備。反応と正常な呼吸がなければ蘇生手順を開始する。
緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。
看護行動:優先順位
1.活動中止と急変評価
安全を確保し呼吸・循環を確認。呼吸が楽な体位を基本に、低血圧・失神時は転倒を防ぎ、体位変更でも血圧を再評価する。
2.治療と検査を準備
指示に沿って酸素、静脈路、心電図・SpO₂・血圧監視、採血を準備。造影CTへの移動は酸素・監視・付き添い・急変時対応を確認する。
3.循環の反応を追う
時間尿量・意識・皮膚と輸液出納を記録。右心負荷があるため低血圧に対し一律の大量補液を行わず、指示と反応を確認する。
4.出血と二次障害を防ぐ
穿刺・処置予定を共有し、不要な侵襲を避ける。転倒を防ぎ、下肢の腫れを確認。離床は循環と治療計画に合わせ、急変の評価中に歩行負荷をかけない。
治療前・中・後の看護
抗凝固薬:未分画ヘパリン
- 目的
- 血栓の進展・再発を抑える。循環不安定例では再灌流治療の評価と並行する。
- 前に確認
- 出血、HIT既往、Hb・血小板・凝固検査、処置予定、濃度・単位・投与速度を確認。
- 中に観察
- APTT等の指示検査、出血、血小板、新しい血栓、実投与量を追う。
- 反応・再評価
- 呼吸循環・検査・出血を合わせて再評価し、変更後の採血時点を確認。
- 適応・注意
- ロック用製剤を治療に転用しない。重大な出血・HIT・アナフィラキシーは緊急対応。抗凝固だけで急速な閉塞解除が得られるとは考えない。
ヘパリンナトリウム注5千単位/5mL「YD」の詳細を開く抗凝固薬:経口FXa阻害薬
- 目的
- 安定化後など適応に合う患者で血栓の治療・再発予防を継続する。
- 前に確認
- 循環の安定、初期治療、腎肝機能、体重、出血、相互作用、内服可能性を確認。
- 中に観察
- 便尿・皮下出血、神経症状、腎機能、服薬状況を確認。
- 反応・再評価
- 再発症状と出血、生活で服薬が続けられるかを再評価。継続期間は誘因・再発・出血リスクに応じて見直す。
- 適応・注意
- エドキサバンは適切な初期治療後に開始する。ショックが続く段階や再灌流が必要な状態で、内服への切替を急がない。
エドキサバントシル酸塩水和物の詳細を開く血栓溶解・カテーテル治療・外科的摘除
- 目的
- 選択された重症例で閉塞を解除し、右心と全身への血流を改善する。
- 前に確認
- 循環不安定の程度、頭蓋内疾患・出血・最近の手術、最終抗凝固投与、採血、処置体制を共有。
- 中に観察
- 意識・麻痺・頭痛、出血、血圧・呼吸、穿刺部と末梢循環を監視。
- 反応・再評価
- 血圧・酸素条件・尿量・意識の改善と出血合併症を繰り返し確認。処置後の抗凝固計画を確認する。
- 適応・注意
- 血圧が安定した全例に血栓溶解を行うわけではない。禁忌・出血リスク、悪化、施設の対応能力を踏まえて専門チームが選択する。
酸素・循環補助
- 目的
- 酸素供給と臓器灌流を支え、原因治療までの悪化を防ぐ。
- 前に確認
- 酸素条件、血圧・意識、右心負荷、静脈路、必要な監視を確認。
- 中に観察
- 呼吸努力、SpO₂、血圧、脈拍、尿量、補液への反応を観察。
- 反応・再評価
- 酸素や循環作動薬の変更後、臓器灌流と呼吸の改善を確認する。
- 適応・注意
- 陽圧換気・鎮静は循環に影響しうるため、重症例は挿管前から循環維持と専門チームの準備が必要。補液量・昇圧薬・補助循環は個別指示による。
検査の意味と読み方
造影CT
肺動脈の血栓と分布、右心への影響などを評価する。
組み合わせ・推移:腎機能・造影剤反応歴と移動の安全を確認。血栓の広がりだけでなく循環・右心機能で重症度を判断する。
心エコー
右室の拡大・機能、心臓内の圧負荷などを評価する。
組み合わせ・推移:正常所見だけで肺塞栓を除外しない。不安定例での迅速評価と治療後の変化に役立つ。
Dダイマー
血栓の形成と分解を反映する。
組み合わせ・推移:上昇は非特異的。検査前確率と組み合わせ、単独で確定・除外しない。循環不安定時に結果待ちで対応を遅らせない。
Dダイマーの検査詳細
トロポニン
心筋障害を捉え、右心負荷の重症度評価を補助する。
組み合わせ・推移:上昇だけで心筋梗塞と決めない。症状、心電図、エコー、腎機能と経時変化を合わせる。
トロポニンの検査詳細
BNP
心室への負荷を評価する。
組み合わせ・推移:右心負荷でも上昇する。左心不全・腎機能などの影響もあり、血圧・エコーと組み合わせる。
BNPの検査詳細
乳酸
臓器灌流不足などの手がかり。
組み合わせ・推移:高値や上昇を意識・皮膚・尿量・血圧と合わせ、介入後も追う。正常値だけで安定と判断しない。
乳酸の検査詳細
PaO₂
動脈血の酸素化を評価する。
組み合わせ・推移:酸素デバイス・流量を記録し、PaCO₂・pHと合わせる。正常な血液ガスで肺塞栓を除外しない。
PaO₂の検査詳細
APTT
未分画ヘパリンの作用評価などに用いる。
組み合わせ・推移:採血時点・投与速度・ライン混入を確認し、施設目標と照合。DOACの効果を一律に評価する値ではない。
APTTの検査詳細
Hb
出血に伴う貧血の手がかり。
組み合わせ・推移:治療前からの低下幅と時期、出血と循環を比較。急性出血直後は低下が目立たないこともある。
Hbの検査詳細
血小板
HITなどの薬剤合併症や出血リスクを評価する。
組み合わせ・推移:開始前からの低下幅・時期と新しい血栓症状を比較。感染など他の原因もあり数値だけでHITと断定しない。
血小板の検査詳細
報告:SBARで情報をそろえる
S:変化と緊急性
- 発症時刻、息切れ・胸痛・失神・出血、現在の意識・呼吸・循環。
B:背景と治療
- 手術・不動・がん・DVT既往、診断と右心負荷、酸素、輸液、抗凝固薬・最終投与、処置。
A:比較と反応
- 血圧・脈拍・呼吸数・酸素条件・尿量の前回と現在。
- 安全確保・酸素・治療後の反応。
R:求める対応
- 肺塞栓の緊急評価、監視場所・再灌流の必要性、検査と次の治療、再評価時点。
患者・家族への説明
再発と出血を早く伝える
突然の息切れ・胸痛・失神、止まらない出血は直ちに助けを求める。薬を飲んでいても新しい症状は相談する。
服薬を続ける仕組み
飲み忘れ時の対応、処置前の相談、併用薬を確認。症状が軽くなっても自己中断しない。
回復期の息切れも相談
活動は段階的に戻す。息切れや運動のつらさが長引く・増える場合は、血栓の残存や肺高血圧などの評価につなぐ。
看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。
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