呼吸器

肺血栓塞栓症(PTE/PE)

急な息切れと循環の変化を一緒に捉える。肺動脈の閉塞は低酸素だけでなく右心の負荷を増やし、全身への血流低下につながる。

主な症状
急な息切れ 胸痛 失神 脚の腫れ
代表的な薬
抗凝固薬 血栓溶解薬
検査値UP
Dダイマー トロポニン
検査値DOWN
PaO₂

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

肺血流が妨げられる段階

肺動脈の血栓と肺血流の障害静脈の血栓が右心を通り肺動脈へ右心血液を送る血栓血流が減る肺動脈の抵抗が上がる空気が届いても血流不足 → ガス交換に障害
  1. 静脈由来の血栓が肺動脈を閉塞
  2. 空気と血流の釣り合いが崩れ、右心への抵抗が増加
  3. 息切れ・頻呼吸/血圧が正常でも右心負荷を評価

観察へ:呼吸数、努力呼吸、酸素条件、脈拍を追う。右心負荷やトロポニン上昇がある例では、悪化を捉えられる監視体制を確認する。

右心が耐えられず循環が不安定

肺動脈の血栓と右心不全から全身灌流低下静脈の血栓が右心を通り肺動脈へ右心負荷↑血栓血流が減る肺動脈の抵抗が上がる左心へ届く血液も減る → 血圧低下・失神
  1. 肺動脈の抵抗が急増
  2. 右心が十分に送り出せず、左心へ戻る血液も不足
  3. 血圧低下・失神・ショック/緊急の再灌流評価

観察へ:意識、皮膚冷感、血圧の推移、尿量を合わせて評価。検査がそろうまで急変対応を待たない。

肺血流と右心負荷の模式図。血栓の大きさだけで重症度は決まらない。血圧が保たれていても、右心機能・心筋障害・臨床経過でリスクが変わる。急性肺血栓塞栓症を中心に扱う。

症状から観察・再確認へ

突然の息切れ

見る・聞く
発症時刻、安静・活動との関係、呼吸数、会話、努力呼吸、体位、SpO₂と酸素デバイス・流量を確認する。
何を反映するか
肺血流障害によるガス交換の不均衡や循環負荷の手がかり。酸素飽和度だけでは重症度を決められない。
普段と比較
普段の移動と息切れ、直前の酸素条件、呼吸数、必要な休息を比較する。
悪化を疑う変化
急速な酸素必要量増加、会話困難、疲弊、意識変化、呼吸と循環の同時悪化。
再確認
活動を止め、呼吸・循環を継続評価。酸素開始後はSpO₂だけでなく呼吸努力と血圧を確認する。

胸痛血痰

見る・聞く
出現時刻、場所、呼吸による変化、強さ、血痰の量、脈拍・血圧・呼吸を確認する。
何を反映するか
肺梗塞や胸膜刺激の可能性。急性冠症候群・大動脈疾患などの鑑別も必要で、痛み方だけで断定しない。
普段と比較
新規か持続・増悪か、抗凝固開始との時間関係、Hbや酸素条件を比較する。
悪化を疑う変化
強い胸痛と冷汗・失神・血圧低下、血痰の増加と呼吸悪化。
再確認
疼痛への対応後も呼吸・循環を確認。血痰を疾患由来と決めつけず、治療による出血も評価する。

失神末梢循環不良

見る・聞く
意識の反応、血圧の推移、脈拍、皮膚温・色、冷汗、尿量、失神前後の状況を確認。転倒を防ぐ。
何を反映するか
右心不全から全身に届く血流が減った可能性。血圧が一度回復しても原因評価が必要。
普段と比較
普段・直前の血圧や意識、時間尿量、乳酸、輸液・昇圧薬の条件を比較する。
悪化を疑う変化
意識が戻らない、持続する低血圧、冷感増強、尿量減少、心停止。
再確認
応援要請とABC評価を優先。治療変更ごとに意識・呼吸・循環の反応を記録する。

出血新しい神経症状

見る・聞く
穿刺部、尿便、皮下出血、頭痛・麻痺・意識、腹背部痛、転倒歴を確認。薬の最終投与時刻も把握する。
何を反映するか
抗凝固・血栓溶解・侵襲的処置に伴う出血の可能性。見える出血がなくても重症出血を除外できない。
普段と比較
Hb・血小板、血圧、出血範囲、処置前後と薬剤変更前後を比較する。
悪化を疑う変化
止血困難、激しい頭痛・麻痺、循環不良、急なHb低下。
再確認
直ちに共有し、投与中止を含む施設の緊急手順へ。止血・中和後も再出血と血栓再発を追う。

看護判断:変化の緊急度

計画に沿った経過観察

診断・リスク評価と治療計画があり、呼吸循環が安定して症状が改善し、出血もない。

次の行動:予定されたモニター・検査を続ける。正常血圧やSpO₂だけで観察頻度・治療を減らさない。

早めに共有・再評価

息切れ・頻脈の増加、酸素必要量の増加、軽い出血、新しい脚の腫れ、服薬漏れ。

次の行動:変化時刻と条件を共有し、再診察・検査・治療と監視場所の再評価を求める。

直ちに応援・緊急対応

突然の強い呼吸困難、失神、低血圧と冷汗・意識変化、重大な出血、心停止。

次の行動:歩かせず応援要請。ABC、モニター、救急物品を準備。反応と正常な呼吸がなければ蘇生手順を開始する。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1.活動中止と急変評価

安全を確保し呼吸・循環を確認。呼吸が楽な体位を基本に、低血圧・失神時は転倒を防ぎ、体位変更でも血圧を再評価する。

2.治療と検査を準備

指示に沿って酸素、静脈路、心電図・SpO₂・血圧監視、採血を準備。造影CTへの移動は酸素・監視・付き添い・急変時対応を確認する。

3.循環の反応を追う

時間尿量・意識・皮膚と輸液出納を記録。右心負荷があるため低血圧に対し一律の大量補液を行わず、指示と反応を確認する。

4.出血と二次障害を防ぐ

穿刺・処置予定を共有し、不要な侵襲を避ける。転倒を防ぎ、下肢の腫れを確認。離床は循環と治療計画に合わせ、急変の評価中に歩行負荷をかけない。

治療前・中・後の看護

抗凝固薬:未分画ヘパリン

目的
血栓の進展・再発を抑える。循環不安定例では再灌流治療の評価と並行する。
前に確認
出血、HIT既往、Hb・血小板・凝固検査、処置予定、濃度・単位・投与速度を確認。
中に観察
APTT等の指示検査、出血、血小板、新しい血栓、実投与量を追う。
反応・再評価
呼吸循環・検査・出血を合わせて再評価し、変更後の採血時点を確認。
適応・注意
ロック用製剤を治療に転用しない。重大な出血・HIT・アナフィラキシーは緊急対応。抗凝固だけで急速な閉塞解除が得られるとは考えない。
ヘパリンナトリウム注5千単位/5mL「YD」の詳細を開く

抗凝固薬:経口FXa阻害薬

目的
安定化後など適応に合う患者で血栓の治療・再発予防を継続する。
前に確認
循環の安定、初期治療、腎肝機能、体重、出血、相互作用、内服可能性を確認。
中に観察
便尿・皮下出血、神経症状、腎機能、服薬状況を確認。
反応・再評価
再発症状と出血、生活で服薬が続けられるかを再評価。継続期間は誘因・再発・出血リスクに応じて見直す。
適応・注意
エドキサバンは適切な初期治療後に開始する。ショックが続く段階や再灌流が必要な状態で、内服への切替を急がない。
エドキサバントシル酸塩水和物の詳細を開く

血栓溶解・カテーテル治療・外科的摘除

目的
選択された重症例で閉塞を解除し、右心と全身への血流を改善する。
前に確認
循環不安定の程度、頭蓋内疾患・出血・最近の手術、最終抗凝固投与、採血、処置体制を共有。
中に観察
意識・麻痺・頭痛、出血、血圧・呼吸、穿刺部と末梢循環を監視。
反応・再評価
血圧・酸素条件・尿量・意識の改善と出血合併症を繰り返し確認。処置後の抗凝固計画を確認する。
適応・注意
血圧が安定した全例に血栓溶解を行うわけではない。禁忌・出血リスク、悪化、施設の対応能力を踏まえて専門チームが選択する。

酸素・循環補助

目的
酸素供給と臓器灌流を支え、原因治療までの悪化を防ぐ。
前に確認
酸素条件、血圧・意識、右心負荷、静脈路、必要な監視を確認。
中に観察
呼吸努力、SpO₂、血圧、脈拍、尿量、補液への反応を観察。
反応・再評価
酸素や循環作動薬の変更後、臓器灌流と呼吸の改善を確認する。
適応・注意
陽圧換気・鎮静は循環に影響しうるため、重症例は挿管前から循環維持と専門チームの準備が必要。補液量・昇圧薬・補助循環は個別指示による。

検査の意味と読み方

造影CT

肺動脈の血栓と分布、右心への影響などを評価する。

組み合わせ・推移:腎機能・造影剤反応歴と移動の安全を確認。血栓の広がりだけでなく循環・右心機能で重症度を判断する。

心エコー

右室の拡大・機能、心臓内の圧負荷などを評価する。

組み合わせ・推移:正常所見だけで肺塞栓を除外しない。不安定例での迅速評価と治療後の変化に役立つ。

Dダイマー

血栓の形成と分解を反映する。

組み合わせ・推移:上昇は非特異的。検査前確率と組み合わせ、単独で確定・除外しない。循環不安定時に結果待ちで対応を遅らせない。

Dダイマーの検査詳細

トロポニン

心筋障害を捉え、右心負荷の重症度評価を補助する。

組み合わせ・推移:上昇だけで心筋梗塞と決めない。症状、心電図、エコー、腎機能と経時変化を合わせる。

トロポニンの検査詳細

BNP

心室への負荷を評価する。

組み合わせ・推移:右心負荷でも上昇する。左心不全・腎機能などの影響もあり、血圧・エコーと組み合わせる。

BNPの検査詳細

乳酸

臓器灌流不足などの手がかり。

組み合わせ・推移:高値や上昇を意識・皮膚・尿量・血圧と合わせ、介入後も追う。正常値だけで安定と判断しない。

乳酸の検査詳細

PaO₂

動脈血の酸素化を評価する。

組み合わせ・推移:酸素デバイス・流量を記録し、PaCO₂・pHと合わせる。正常な血液ガスで肺塞栓を除外しない。

PaO₂の検査詳細

APTT

未分画ヘパリンの作用評価などに用いる。

組み合わせ・推移:採血時点・投与速度・ライン混入を確認し、施設目標と照合。DOACの効果を一律に評価する値ではない。

APTTの検査詳細

Hb

出血に伴う貧血の手がかり。

組み合わせ・推移:治療前からの低下幅と時期、出血と循環を比較。急性出血直後は低下が目立たないこともある。

Hbの検査詳細

血小板

HITなどの薬剤合併症や出血リスクを評価する。

組み合わせ・推移:開始前からの低下幅・時期と新しい血栓症状を比較。感染など他の原因もあり数値だけでHITと断定しない。

血小板の検査詳細

報告:SBARで情報をそろえる

S:変化と緊急性

  • 発症時刻、息切れ・胸痛・失神・出血、現在の意識・呼吸・循環。

B:背景と治療

  • 手術・不動・がん・DVT既往、診断と右心負荷、酸素、輸液、抗凝固薬・最終投与、処置。

A:比較と反応

  • 血圧・脈拍・呼吸数・酸素条件・尿量の前回と現在。
  • 安全確保・酸素・治療後の反応。

R:求める対応

  • 肺塞栓の緊急評価、監視場所・再灌流の必要性、検査と次の治療、再評価時点。

患者・家族への説明

再発と出血を早く伝える

突然の息切れ・胸痛・失神、止まらない出血は直ちに助けを求める。薬を飲んでいても新しい症状は相談する。

服薬を続ける仕組み

飲み忘れ時の対応、処置前の相談、併用薬を確認。症状が軽くなっても自己中断しない。

回復期の息切れも相談

活動は段階的に戻す。息切れや運動のつらさが長引く・増える場合は、血栓の残存や肺高血圧などの評価につなぐ。

参考文献

  1. 国立循環器病研究センター:静脈血栓塞栓症

    病態と治療の概要。2021年更新のため重症度の整理は現行資料と併用。

  2. 日本血栓止血学会誌:2025年ガイドラインにおけるVTE診断

    検査前確率、画像診断、右心負荷を含む重症度評価。

  3. Michigan Medicine:Adult VTE Guideline 2024

    循環不安定・右心負荷に応じた監視と治療。国内の薬剤適応を優先。

  4. PMDA:ヘパリンナトリウム注「YD」

    出血・HITと凝固管理。

  5. PMDA:リクシアナOD錠

    安定後・初期治療後の開始と患者条件。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

疾患・病態の一覧に戻る