循環器

静脈血栓塞栓症(VTE)/DVT

脚の変化と呼吸・循環を同時に見る。血栓の部位・広がり、肺塞栓の有無、出血リスクによって治療と観察計画が変わる。

主な症状
片脚の腫れ 痛み 熱感 胸痛 息切れ
代表的な薬
DOAC ヘパリン
検査値UP
Dダイマー
検査値DOWN

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

中枢型:膝窩静脈以上

中枢型:膝窩静脈以上:血栓の位置と心臓へ戻る血流右心を通り肺動脈へ大腿・骨盤側膝窩静脈(膝の裏)下腿の深部静脈血栓 → 静脈の戻りが妨げられる腫れ・痛み/離れた血栓は肺へ
  1. 血流停滞・血管壁の障害・凝固しやすい状態
  2. 膝窩・大腿・腸骨静脈などに血栓
  3. 脚の腫れと、肺へ移動する血栓のリスク

観察へ:脚全体の腫れ、皮膚色、痛み、呼吸・循環を確認。抗凝固療法の適応と出血リスクを評価する。

末梢型:下腿静脈に限局

末梢型:下腿静脈に限局:血栓の位置と心臓へ戻る血流右心を通り肺動脈へ大腿・骨盤側膝窩静脈(膝の裏)下腿の深部静脈血栓 → 静脈の戻りが妨げられる腫れ・痛み/離れた血栓は肺へ
  1. 下腿の深部静脈に血栓
  2. 下腿に限局する場合と中枢へ伸びる場合
  3. 症状・伸展リスクに応じて治療または画像で追跡

観察へ:症状が軽くても放置しない。抗凝固を行わない計画では、再検査の予定と症状悪化時の連絡先を確認する。

下肢の静脈を簡略化した模式図。中枢型は膝窩静脈を含む。血栓の位置や長さを診断する画像ではない。上肢・カテーテル関連の血栓では、腕の腫れやカテーテルの必要性も別に評価する。

症状から観察・再確認へ

血小板低下新しい血栓症状

見る・聞く
ヘパリン開始前と現在の血小板数、投与開始・終了時期、過去の使用、ロック液の使用を確認。脚の腫れ、呼吸、神経症状も観察する。
何を反映するか
HIT(ヘパリンによる免疫反応で血小板が減り、血栓が生じうる状態)の手がかり。感染や他薬による低下とも区別が必要。
普段と比較
基準範囲内かだけでなく開始前からの低下幅と時期、新しい血栓の有無を比較する。
悪化を疑う変化
著明な血小板低下、新たな片脚の腫れ、呼吸悪化、麻痺、回路閉塞。
再確認
疑わしい変化は直ちに共有。投与中止と代替抗凝固薬の評価につなぎ、ロック液を含むヘパリン曝露を再確認する。投与終了後の発症もありうる。

片脚の腫脹疼痛

見る・聞く
発症時期、左右差、腫れの範囲、皮膚色・熱感、痛み、歩行への影響を確認。同じ部位・体位で周径を記録する。
何を反映するか
静脈の戻りが妨げられた手がかり。感染や外傷でも起こり、所見だけでは確定できない。
普段と比較
前回の周径・痛み・腫れの範囲、手術・不動・既往血栓、抗凝固薬の中断を比較する。
悪化を疑う変化
急な腫れの拡大、激痛、紫色の変化、冷感・しびれ・運動障害。
再確認
皮膚と末梢循環を再確認し、検査・治療後も同じ条件で追う。強く揉んだり、痛みを誘発して診断しない。

突然の息切れ胸痛

見る・聞く
発症時刻、呼吸数、努力呼吸、会話、SpO₂と酸素条件、脈拍・血圧・意識をまとめて確認する。
何を反映するか
肺塞栓を含む急変の可能性。脚の症状が目立たなくても否定できない。
普段と比較
安静時の状態と直前の呼吸・循環、酸素必要量、胸痛の出現を比較する。
悪化を疑う変化
失神、血圧低下、冷汗、チアノーゼ、意識変化、急速な呼吸悪化。
再確認
活動を止め応援を求め、呼吸・循環を継続評価。測定値が正常でも新しい症状を未報告で終えない。

出血皮下出血

見る・聞く
鼻・歯肉、穿刺部、尿、便の色と量、頭痛、腹痛、転倒・打撲を確認する。
何を反映するか
抗凝固による出血の可能性。外から見えない出血では、頻脈・血圧低下・Hb低下が手がかりになる。
普段と比較
治療開始前のHb・血小板、腎機能、併用薬、最終投与時刻、出血範囲を比較する。
悪化を疑う変化
止まらない出血、吐血・黒色便に循環変化、新しい麻痺・激しい頭痛・意識変化。
再確認
圧迫できる出血部は止血し、再出血と全身状態を確認。重い出血は次回投与を待たず緊急評価を求める。

看護判断:変化の緊急度

経過観察と再評価

診断と治療・再検査計画があり、脚症状と呼吸循環が安定し、出血がない。

次の行動:症状の推移、服薬、活動条件を確認し、予定した評価を続ける。症状が乏しいことだけで低リスクと決めない。

早めに共有・報告

新しい片脚の腫れ、痛みの増加、軽い出血の反復、服薬漏れ、腎機能低下。

次の行動:発症と変化、治療条件をまとめ、診察・超音波や薬剤の再確認を求める。

直ちに応援・緊急対応

突然の呼吸困難・胸痛・失神、循環不良、重い出血、脚の激痛と紫色変化・感覚運動障害。

次の行動:応援を要請しABCを評価。歩かせず、安全な体位でモニター・救急物品を準備。反応や正常な呼吸がなければ施設の蘇生手順へ進む。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1.肺塞栓・出血の急変を先に確認

脚だけの観察に集中せず意識・呼吸・循環を評価。急変時は検査結果を待たず応援を要請する。

2.検査と治療の準備

超音波の部位、採血指示、抗凝固薬の種類・最終投与・重複を確認。造影検査では腎機能と造影剤の反応歴を共有する。

3.活動と圧迫の条件を確認

未評価の新しい症状では歩行訓練を中断して相談。治療後の離床は循環の安定、疼痛、治療計画に合わせる。長期の一律臥床を自己判断で続けない。

4.出血を減らし、再評価

転倒を予防し、採血後は止血を確認。飲水は心・腎機能や水分制限に合わせ、無理に増やさない。処置や薬剤変更後は脚・呼吸・出血を再確認する。

治療前・中・後の看護

抗凝固薬:未分画ヘパリン

目的
凝固反応を抑え、急性期の血栓増大・再発を防ぐ。
前に確認
出血、HIT既往、血小板・Hb・凝固検査、腎肝機能、処置予定を確認。製剤濃度、希釈、指示単位、投与速度とルートを照合する。
中に観察
出血・穿刺部・意識・血圧、血小板と新しい血栓症状、ポンプと実投与量を確認。採血時刻と速度変更時刻を記録する。
反応・再評価
凝固検査を個別目標と照合し、変更後の再採血と出血・血栓症状を再評価。異常値だけで自己判断の増減をしない。
適応・注意
治療用製剤とヘパリンロック液を区別。重大な出血・アナフィラキシー・HITを疑うときは、直ちに投与中止を含む施設の緊急手順へ。中和薬や代替薬は指示に沿って準備する。
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抗凝固薬:経口FXa阻害薬

目的
血栓の増大・再発を抑える。血栓を直ちに溶かす薬とは異なる。
前に確認
活動性出血、Hb・血小板、腎肝機能、体重、相互作用薬、手術・処置予定を確認。
中に観察
出血、血圧・脈拍、神経症状、腎機能変化、飲み忘れと重複を観察。
反応・再評価
新しい血栓症状がないか、脚症状と出血を追う。症状が消えても自己中断しない。
適応・注意
薬剤により初期治療が異なる。エドキサバンのVTE治療はヘパリン等による適切な初期治療後に開始する。腎機能・体重等で処方条件が変わる。
エドキサバントシル酸塩水和物の詳細を開く

抗凝固薬:ワルファリン

目的
凝固因子の産生を抑え、血栓の増大・再発を防ぐ。
前に確認
PT-INR、出血、併用薬、食習慣、妊娠の可能性と検査通院の実行性を確認。
中に観察
PT-INRと出血、開始後の有痛性紫斑・皮膚障害、血尿や腎機能の変化を追い、食事・薬の変更を共有する。
反応・再評価
個別に設定された目標と実測値、血栓・出血症状を合わせて確認する。
適応・注意
効果発現に時間がかかり、初期の注射抗凝固薬との併用・終了条件は指示を確認。出血中、重篤な腎肝障害、妊娠中・妊娠の可能性等では禁忌を照合。DOACと同じ検査管理にしない。
ワルファリンカリウムの詳細を開く

圧迫療法・離床支援

目的
適切な対象で腫れや不快感を軽減し、活動を支える。
前に確認
動脈血流、皮膚障害、感覚、サイズと装着指示、心不全や痛みを確認。
中に観察
しわ・食い込み、皮膚色、冷感、しびれ、疼痛増強を確認。
反応・再評価
腫れと痛み、皮膚、歩行の負担を再評価し調整を相談する。
適応・注意
全員に同じ圧迫を行わない。既存DVTの治療と予防用の間欠的空気圧迫装置を混同せず、機器の禁忌・適応を確認する。

血栓除去・下大静脈フィルター

目的
選択された重症例で静脈閉塞を解除、または肺への血栓移動を減らす。
前に確認
血栓の部位、下肢の危機、出血リスク、抗凝固できない理由、処置と回収計画を確認。
中に観察
穿刺部出血・血腫、末梢循環、呼吸・血圧、疼痛を確認。
反応・再評価
脚の色・痛み・腫れと処置合併症を追い、抗凝固再開やフィルター回収の予定を共有。
適応・注意
一般的なDVT全例への治療ではない。フィルターは血栓そのものを治す薬の代わりにはならない。

検査の意味と読み方

APTT

凝固にかかる時間を測り、未分画ヘパリンの作用評価などに用いる。

組み合わせ・推移:目標と採血時点は施設手順・個別指示を確認。延長は凝固因子異常などでも起こる。投与ラインからの混入、変更時刻、出血所見を合わせ、結果と状態が合わなければ再評価を求める。

APTTの検査詳細

下肢静脈超音波

血栓の場所・広がりと静脈の圧迫性を評価する。

組み合わせ・推移:中枢型か末梢型かを確認。初回陰性でも疑いが残る場合は、撮像範囲や再検査計画を確認する。

Dダイマー

形成されたフィブリン血栓が分解される指標。

組み合わせ・推移:上昇は感染・手術・がんなどでも起こる。検査前の可能性と組み合わせ、単独で確定・除外や治療中止を決めない。

Dダイマーの検査詳細

Hb

出血に伴う貧血の手がかり。

組み合わせ・推移:低下速度と出血所見、循環、水分出納を合わせる。急性出血の初期には低下が目立たないこともある。

Hbの検査詳細

血小板

出血リスクと薬剤に伴う変化を評価する。

組み合わせ・推移:ヘパリン使用後の低下はHITも考慮。出血だけでなく新しい血栓、投与歴、前回からの低下を共有する。

血小板の検査詳細

Cr

腎機能と抗凝固薬の処方条件を確認する。

組み合わせ・推移:年齢・体重を用いた評価や経時変化も必要。脱水や急性腎障害で蓄積・出血リスクが変わる。

Crの検査詳細

PT-INR

ワルファリンの作用を評価する。

組み合わせ・推移:目標は個別指示と照合。高値では出血、低値では効果不足を考える。DOACの効き具合をこの値だけで判断しない。

PT-INRの検査詳細

報告:SBARで情報をそろえる

S:何が変わったか

  • 片脚の腫れ・痛み、突然の呼吸症状、出血のどれか。
  • 発症と変化速度、現在の意識・呼吸・循環。

B:治療と背景

  • 血栓部位、手術・不動・がん・既往、抗凝固薬と最終投与、酸素条件、処置予定。

A:比較と実施後の反応

  • 前回との周径・痛み・血圧・脈拍・SpO₂・Hbの違い。
  • 活動中止・安全確保・止血後の反応。

R:求める確認

  • 肺塞栓・出血・下肢循環の緊急評価、必要な検査、次回薬剤・活動の指示、再評価時点。

患者・家族への説明

ワルファリン使用中の食事

納豆・クロレラ食品・青汁は作用を弱めるため避ける。その他のビタミンKを含む食品は一度に大量に取らず、食事・健康食品の変更を相談する。すべての抗凝固薬に同じ食事制限を当てはめない。

すぐに助けを求める変化

突然の息苦しさ・胸痛・失神や、止まらない出血は直ちに助けを求める。脚の腫れが軽くても呼吸の変化を見逃さない。

服薬と処置前の相談

服薬を自己中断・倍量にせず、飲み忘れは薬ごとの指示を確認。市販薬・サプリや歯科処置も抗凝固薬の使用を伝える。

退院後も計画を続ける

活動・圧迫・再検査と服薬期間を確認。腫れや重さが長引く場合も相談し、皮膚を保護する。長時間の不動を避ける方法は治療段階に合わせる。

参考文献

  1. 日本血栓止血学会誌:2025年ガイドラインにおけるVTEの診断

    中枢・末梢型、検査前確率と画像検査。

  2. Michigan Medicine:Adult VTE Guideline 2024

    末梢型の治療・画像追跡と重症例の選択的介入。国内処方は添文を優先。

  3. NHLBI:VTEの治療

    抗凝固、圧迫、フィルター等の役割。

  4. PMDA:リクシアナOD錠

    初期治療後の開始、腎機能・出血・併用薬の確認。

  5. PMDA:ヘパリンナトリウム注「YD」

    治療用製剤の適応、出血・HITと凝固検査。

  6. PMDA:ワーファリン

    凝固能管理、禁忌、相互作用と患者説明。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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