検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。
病型と病態のつながり
急性:局所炎症から全身への影響
- 胆石・飲酒などを背景に膵臓で炎症が起こる
- 周囲に炎症が広がり、血管外へ体液が移動する
- 循環血液量低下や肺・腎などの臓器障害につながる
観察へ:腹痛だけでなく血圧・意識・尿量・呼吸を繰り返す。補液後も過剰な水分負荷と腹部膨満を評価。
慢性:消化と血糖を支える機能が低下
- 持続・反復する傷害で膵臓が線維化する
- 消化酵素や血糖調節ホルモンの働きが低下する
- 脂肪便・体重減少・栄養障害、血糖の変動が起こる
観察へ:食事量、便の性状、体重、服薬タイミング、血糖を確認。疼痛が弱いことを機能が回復した根拠にしない。
急性の炎症と、慢性の線維化・機能低下を分けた模式図。慢性膵炎でも急性増悪は起こる。急性膵炎の重症度は酵素値や痛みの強さだけで決まらず、経過中に繰り返し評価する。
症状から観察・再確認へ
持続する上腹部痛
- 見る・聞く
- 開始・増悪の時点、位置・背中への広がり、痛みの程度、体位・食事との関係を確認。
- 何を反映するか
- 膵・周囲の炎症や管の問題を反映しうるが、他の急性腹症も鑑別する。
- 普段と比較
- 鎮痛前後、以前の発作、腹部膨満や圧痛の範囲。
- 悪化を疑う変化
- 急な性質の変化、硬い腹部、血圧低下・冷汗や出血を伴う。
- 再確認
- 鎮痛の効果と呼吸・意識。痛みが減っても臓器障害の評価を続ける。
嘔吐・腹部膨満
- 見る・聞く
- 回数・量・性状、摂取、排便・排ガス、腹部の張りと呼吸への影響を確認。
- 何を反映するか
- 消化管運動低下や周囲炎症の可能性。強い膨満は臓器機能にも影響。
- 普段と比較
- 栄養開始前後、出納、膨満と尿量・呼吸の推移。
- 悪化を疑う変化
- 持続嘔吐、誤嚥、張りの増加と乏尿・呼吸悪化。
- 再確認
- 気道の安全、栄養継続の可否、必要な減圧・腹腔内圧評価を相談。
低血圧・尿量低下
- 見る・聞く
- 血圧・脈、意識、冷感、時間尿量、輸液・嘔吐量、測定漏れを確認。
- 何を反映するか
- 血管外への体液移動などによる灌流不足。腎障害や腹腔内圧上昇も考える。
- 普段と比較
- 輸液前後の循環、BUN・Cr・Htの推移と呼吸状態。
- 悪化を疑う変化
- 補液中も冷感・乏尿が進む、意識変化、同時に呼吸が悪化。
- 再確認
- 輸液を増やすだけで対応せず、循環・過負荷・腎機能を再評価して共有。
呼吸悪化
- 見る・聞く
- 呼吸数・努力、会話、SpO₂と酸素条件、肺音、体位を確認。
- 何を反映するか
- 炎症性肺障害、胸水、体液過剰、疼痛や鎮痛薬の影響がありうる。
- 普段と比較
- 発症からの推移、補液・鎮痛・栄養投与の前後。
- 悪化を疑う変化
- 酸素需要増加、疲弊、傾眠、会話困難。
- 再確認
- 応援要請し呼吸支援を準備。酸素化だけでなく換気・循環も確認。
発熱・再増悪
- 見る・聞く
- 体温、腹痛、意識・循環、黄疸、処置やドレーンの状態を確認。
- 何を反映するか
- 初期の炎症でも発熱する。感染性壊死・胆管炎等は経過と検査で評価。
- 普段と比較
- 改善後の再発熱、炎症反応、画像、培養と治療経過。
- 悪化を疑う変化
- 再発熱と低血圧、悪寒・黄疸、腹痛の増悪。
- 再確認
- 採血・培養・画像・感染源処置の必要性を速やかに共有。発熱だけで感染と決めない。
脂肪便・体重減少
- 見る・聞く
- 便の油っぽさ・量・回数、食事量、体重、酵素薬の飲み方、血糖を確認。
- 何を反映するか
- 慢性膵炎の消化吸収低下や糖代謝障害の手がかり。
- 普段と比較
- 食事・酵素補充前後の便、体重と筋力、低血糖症状。
- 悪化を疑う変化
- 食べても体重が落ちる、食べられない、低血糖・脱水。
- 再確認
- 栄養士・医師と食事や酵素・糖尿病治療を調整し、便と体重を追う。
看護判断:変化の緊急度
経過を観察できる状態
診断・治療計画の下で疼痛が管理され、呼吸・循環・尿量が安定し栄養が許容される。
次の行動:重症度を繰り返し確認する計画を維持。初期に軽症でも固定しない。
早めの共有・報告
疼痛や嘔吐が続く、栄養不耐、尿量低下、酸素需要増加、改善後の再発熱。
次の行動:前後の値と治療条件を整理し、診察・採血・画像・治療変更の必要性を相談。
直ちに応援・緊急対応
意識変化、低血圧・冷汗、重い呼吸困難、急激な腹部緊満と臓器機能悪化、出血を疑う変化。
次の行動:応援要請、ABC評価、酸素・モニター・静脈路と救急物品を施設手順で準備。搬送・集中治療の相談を遅らせない。
緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。
看護行動:優先順位
1|安全と苦痛を確認
楽な体位を支援し、嘔吐時は誤嚥を防ぐ。新しい激痛と循環異常では診断名に決めつけず応援要請。
2|臓器の反応を追う
呼吸・意識・末梢循環・尿量を記録。心・腎疾患の背景を含め、補液量だけでなく反応を共有。
3|採血と出納をそろえる
指示の採血・培養を準備し、採取時点と治療条件を記録。輸液、飲水、嘔吐、尿、ドレーンを区別して記録。
4|鎮痛後を再確認
痛み・活動だけでなく呼吸数・眠気・血圧を再評価。移動時のふらつきと転倒を防ぐ。
5|栄養再開を支援
腸管の状態、嘔吐・腹部膨満、誤嚥リスクを確認し指示された経口・経腸栄養へ。酵素値の正常化だけを待って絶食を続けない。
6|原因と退院後の支援をつなぐ
胆石・薬剤・飲酒歴などを確認。断酒支援は責めずに相談し、依存が疑われる場合は離脱リスクも共有。
治療前・中・後の看護
補液:晶質液
- 目的
- 灌流不足を補い臓器血流を保つ。
- 前に確認
- 循環・尿量、心腎機能、電解質、出納を確認。
- 中に観察
- 血圧・尿量とBUN・ヘマトクリットの推移を確認。呼吸、浮腫・体重・腹部膨満も追い、水分過負荷を見逃さない。
- 反応・再評価
- 灌流改善と水分過負荷の有無を確認し投与量を再評価。
- 適応・注意
- 初期から反応に合わせて調整。乏尿だけで漫然と増量しない。ショックは別途緊急評価し、一律の速度を示さない。
ソルアセトF輸液の詳細を開く鎮痛薬
- 目的
- 苦痛を軽減し呼吸・休息を支える。
- 前に確認
- 痛み、意識・呼吸、肝腎機能、重複薬を確認。
- 中に観察
- 効果、眠気・呼吸抑制・低血圧など薬効群に応じ観察。
- 反応・再評価
- 痛みの軽減と安全性を投与後に確認。不十分なら追加方針を相談。
- 適応・注意
- 経口不可や強い疼痛では投与経路・薬剤を変更する。アセトアミノフェンのみで全例を扱わない。
カロナール錠200・300・500の詳細を開く早期の経口・経腸栄養
- 目的
- 栄養を確保し腸管を使う。
- 前に確認
- 循環、腸管虚血・重いイレウス等の有無、嘔吐・誤嚥リスク、チューブ位置を確認。
- 中に観察
- 腹痛・嘔吐・膨満・排便、血糖、電解質を確認。
- 反応・再評価
- 許容できる量、摂取量、便と体重の経過を評価。
- 適応・注意
- 軽症は許容性に応じ経口再開。重症でも禁忌がなければ早期経腸栄養を検討し、経路は個別に決める。
感染・閉塞への治療
- 目的
- 感染性壊死、胆管炎・胆道閉塞などを治療する。
- 前に確認
- 発熱だけでなく経過・画像・培養、出血凝固・臓器機能を確認。
- 中に観察
- 抗菌薬の反応、処置後の腹痛・出血・循環、ドレーン量と性状を追う。
- 反応・再評価
- 感染徴候と臓器機能、排液・栄養の推移を確認。
- 適応・注意
- 予防的抗菌薬を一律使用しない。ERCPやドレナージ・壊死組織除去は病態・感染・時期で適応を判断する。
慢性膵炎の酵素補充・栄養・血糖管理
- 目的
- 消化吸収を助け栄養と血糖を保つ。
- 前に確認
- 便・体重・食事、膵酵素薬、血糖と低血糖歴を確認。
- 中に観察
- 食事に合わせた処方どおりの服用、便・腹部症状・血糖変動を確認。
- 反応・再評価
- 脂肪便・体重・食事量と低血糖の有無を評価。
- 適応・注意
- 病期と機能低下に合わせる。脂質を過度に制限して低栄養を進めず、食事・酵素補充を調整。
検査の意味と読み方
リパーゼ
膵傷害を示唆する酵素。
組み合わせ・推移:症状・画像と合わせ診断に使用。高さだけで重症度を決めず、連日の値だけを治療目標にしない。
リパーゼの検査詳細
血清アミラーゼ
膵・唾液腺などに由来する酵素。
組み合わせ・推移:発症からの時間や腎機能も影響。正常値だけで除外せず、リパーゼ・画像と合わせる。
血清アミラーゼの検査詳細
CRP
炎症の経過を確認。
組み合わせ・推移:初期には上昇が遅れる。高値だけで細菌感染と判断せず臓器所見・画像と比較。
CRPの検査詳細
クレアチニン
腎機能を確認。
組み合わせ・推移:尿量・循環・出納と推移を評価。補液中も上昇する場合は原因の再評価が必要。
クレアチニンの検査詳細
BUN
尿素窒素。急性膵炎の初期評価では高値や上昇傾向を、体液量・腎機能と合わせて追う。
組み合わせ・推移:普段の腎機能、Cr、尿量・血圧、補液前後の出納を比較。消化管出血や蛋白代謝などでも変わり、上昇だけで脱水と決めない。呼吸悪化・浮腫も確認し、値だけで補液を増やさない。
BUNの検査詳細
ヘマトクリット
血液に占める赤血球の容積割合。初期の高値・上昇は血液濃縮などを評価する手がかり。
組み合わせ・推移:Hbと普段の値、循環・尿量、補液量を合わせる。低下は希釈や出血などでも起こるため、値が下がっただけで改善としない。呼吸・浮腫を含め過不足を再評価する。
ヘマトクリットの検査詳細
Ca
低Caなどの電解質変化を確認。
組み合わせ・推移:総CaはAlbに影響される。症状・必要に応じイオン化Caを確認し、低値を一律に補正しない。
Caの検査詳細
血糖
ストレス反応や膵内分泌障害、栄養・治療の影響を確認。
組み合わせ・推移:食事・栄養と薬剤条件を記録。高値だけでなく低血糖の危険も追う。
血糖の検査詳細
画像・肝胆道系検査
胆石・閉塞、膵周囲の液体や壊死などを評価。
組み合わせ・推移:撮影時期・造影の必要性は臨床経過で判断。画像所見だけで臓器障害の監視を止めない。
報告:SBARで情報をそろえる
S|変化
B|背景
- 発症からの経過、原因評価、心腎機能、輸液・鎮痛・酸素・栄養の条件。
A|前後と反応
- 血圧・脈・呼吸・尿量、出納、腹部所見、採血推移と介入への反応。
R|依頼
- 再診察と重症度再評価、輸液・鎮痛・栄養の調整、画像・感染源評価や集中治療の必要性。
患者・家族への説明
変化を早く知らせる
強い腹痛、繰り返す嘔吐、息苦しさ、尿が減る、発熱・黄疸は我慢せず伝える。
食事は計画に沿って再開
長く絶食すればよいとは限らない。再開後の腹痛・吐き気・便の変化を伝える。
原因に合わせ再発を防ぐ
断酒・禁煙、胆石治療や薬の確認を支援。慢性膵炎では酵素薬・栄養・血糖の相談を継続する。
看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。
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