消化器

膵炎

膵炎では腹痛の強さだけでなく、呼吸・循環・腎機能を追う。急性期は炎症による体液移動と臓器障害、慢性期は疼痛に加えて消化吸収・栄養・血糖の変化を捉える。

主な症状
持続する上腹部痛 循環変化 呼吸悪化
代表的な薬
鎮痛薬
検査値UP
リパーゼ アミラーゼ CRP
検査値DOWN
Ca

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

急性:局所炎症から全身への影響

急性:局所炎症から全身への影響と臓器機能膵臓と周囲の炎症膵臓炎症の広がり/血管外への体液移動低灌流・肺障害 → 尿量・呼吸を追う
  1. 胆石・飲酒などを背景に膵臓で炎症が起こる
  2. 周囲に炎症が広がり、血管外へ体液が移動する
  3. 循環血液量低下や肺・腎などの臓器障害につながる

観察へ:腹痛だけでなく血圧・意識・尿量・呼吸を繰り返す。補液後も過剰な水分負荷と腹部膨満を評価。

慢性:消化と血糖を支える機能が低下

慢性:消化と血糖を支える機能が低下と臓器機能傷害が続き線維化膵臓消化酵素低下/血糖調節の障害脂肪便・体重・血糖を追う
  1. 持続・反復する傷害で膵臓が線維化する
  2. 消化酵素や血糖調節ホルモンの働きが低下する
  3. 脂肪便・体重減少・栄養障害、血糖の変動が起こる

観察へ:食事量、便の性状、体重、服薬タイミング、血糖を確認。疼痛が弱いことを機能が回復した根拠にしない。

急性の炎症と、慢性の線維化・機能低下を分けた模式図。慢性膵炎でも急性増悪は起こる。急性膵炎の重症度は酵素値や痛みの強さだけで決まらず、経過中に繰り返し評価する。

症状から観察・再確認へ

持続する上腹部痛

見る・聞く
開始・増悪の時点、位置・背中への広がり、痛みの程度、体位・食事との関係を確認。
何を反映するか
膵・周囲の炎症や管の問題を反映しうるが、他の急性腹症も鑑別する。
普段と比較
鎮痛前後、以前の発作、腹部膨満や圧痛の範囲。
悪化を疑う変化
急な性質の変化、硬い腹部、血圧低下・冷汗や出血を伴う。
再確認
鎮痛の効果と呼吸・意識。痛みが減っても臓器障害の評価を続ける。

嘔吐腹部膨満

見る・聞く
回数・量・性状、摂取、排便・排ガス、腹部の張りと呼吸への影響を確認。
何を反映するか
消化管運動低下や周囲炎症の可能性。強い膨満は臓器機能にも影響。
普段と比較
栄養開始前後、出納、膨満と尿量・呼吸の推移。
悪化を疑う変化
持続嘔吐、誤嚥、張りの増加と乏尿・呼吸悪化。
再確認
気道の安全、栄養継続の可否、必要な減圧・腹腔内圧評価を相談。

低血圧尿量低下

見る・聞く
血圧・脈、意識、冷感、時間尿量、輸液・嘔吐量、測定漏れを確認。
何を反映するか
血管外への体液移動などによる灌流不足。腎障害や腹腔内圧上昇も考える。
普段と比較
輸液前後の循環、BUN・Cr・Htの推移と呼吸状態。
悪化を疑う変化
補液中も冷感・乏尿が進む、意識変化、同時に呼吸が悪化。
再確認
輸液を増やすだけで対応せず、循環・過負荷・腎機能を再評価して共有。

呼吸悪化

見る・聞く
呼吸数・努力、会話、SpO₂と酸素条件、肺音、体位を確認。
何を反映するか
炎症性肺障害、胸水、体液過剰、疼痛や鎮痛薬の影響がありうる。
普段と比較
発症からの推移、補液・鎮痛・栄養投与の前後。
悪化を疑う変化
酸素需要増加、疲弊、傾眠、会話困難。
再確認
応援要請し呼吸支援を準備。酸素化だけでなく換気・循環も確認。

発熱再増悪

見る・聞く
体温、腹痛、意識・循環、黄疸、処置やドレーンの状態を確認。
何を反映するか
初期の炎症でも発熱する。感染性壊死・胆管炎等は経過と検査で評価。
普段と比較
改善後の再発熱、炎症反応、画像、培養と治療経過。
悪化を疑う変化
再発熱と低血圧、悪寒・黄疸、腹痛の増悪。
再確認
採血・培養・画像・感染源処置の必要性を速やかに共有。発熱だけで感染と決めない。

脂肪便体重減少

見る・聞く
便の油っぽさ・量・回数、食事量、体重、酵素薬の飲み方、血糖を確認。
何を反映するか
慢性膵炎の消化吸収低下や糖代謝障害の手がかり。
普段と比較
食事・酵素補充前後の便、体重と筋力、低血糖症状。
悪化を疑う変化
食べても体重が落ちる、食べられない、低血糖・脱水。
再確認
栄養士・医師と食事や酵素・糖尿病治療を調整し、便と体重を追う。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

診断・治療計画の下で疼痛が管理され、呼吸・循環・尿量が安定し栄養が許容される。

次の行動:重症度を繰り返し確認する計画を維持。初期に軽症でも固定しない。

早めの共有・報告

疼痛や嘔吐が続く、栄養不耐、尿量低下、酸素需要増加、改善後の再発熱。

次の行動:前後の値と治療条件を整理し、診察・採血・画像・治療変更の必要性を相談。

直ちに応援・緊急対応

意識変化、低血圧・冷汗、重い呼吸困難、急激な腹部緊満と臓器機能悪化、出血を疑う変化。

次の行動:応援要請、ABC評価、酸素・モニター・静脈路と救急物品を施設手順で準備。搬送・集中治療の相談を遅らせない。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|安全と苦痛を確認

楽な体位を支援し、嘔吐時は誤嚥を防ぐ。新しい激痛と循環異常では診断名に決めつけず応援要請。

2|臓器の反応を追う

呼吸・意識・末梢循環・尿量を記録。心・腎疾患の背景を含め、補液量だけでなく反応を共有。

3|採血と出納をそろえる

指示の採血・培養を準備し、採取時点と治療条件を記録。輸液、飲水、嘔吐、尿、ドレーンを区別して記録。

4|鎮痛後を再確認

痛み・活動だけでなく呼吸数・眠気・血圧を再評価。移動時のふらつきと転倒を防ぐ。

5|栄養再開を支援

腸管の状態、嘔吐・腹部膨満、誤嚥リスクを確認し指示された経口・経腸栄養へ。酵素値の正常化だけを待って絶食を続けない。

6|原因と退院後の支援をつなぐ

胆石・薬剤・飲酒歴などを確認。断酒支援は責めずに相談し、依存が疑われる場合は離脱リスクも共有。

治療前・中・後の看護

補液:晶質液

目的
灌流不足を補い臓器血流を保つ。
前に確認
循環・尿量、心腎機能、電解質、出納を確認。
中に観察
血圧・尿量とBUN・ヘマトクリットの推移を確認。呼吸、浮腫・体重・腹部膨満も追い、水分過負荷を見逃さない。
反応・再評価
灌流改善と水分過負荷の有無を確認し投与量を再評価。
適応・注意
初期から反応に合わせて調整。乏尿だけで漫然と増量しない。ショックは別途緊急評価し、一律の速度を示さない。
ソルアセトF輸液の詳細を開く

鎮痛薬

目的
苦痛を軽減し呼吸・休息を支える。
前に確認
痛み、意識・呼吸、肝腎機能、重複薬を確認。
中に観察
効果、眠気・呼吸抑制・低血圧など薬効群に応じ観察。
反応・再評価
痛みの軽減と安全性を投与後に確認。不十分なら追加方針を相談。
適応・注意
経口不可や強い疼痛では投与経路・薬剤を変更する。アセトアミノフェンのみで全例を扱わない。
カロナール錠200・300・500の詳細を開く

早期の経口・経腸栄養

目的
栄養を確保し腸管を使う。
前に確認
循環、腸管虚血・重いイレウス等の有無、嘔吐・誤嚥リスク、チューブ位置を確認。
中に観察
腹痛・嘔吐・膨満・排便、血糖、電解質を確認。
反応・再評価
許容できる量、摂取量、便と体重の経過を評価。
適応・注意
軽症は許容性に応じ経口再開。重症でも禁忌がなければ早期経腸栄養を検討し、経路は個別に決める。

感染・閉塞への治療

目的
感染性壊死、胆管炎・胆道閉塞などを治療する。
前に確認
発熱だけでなく経過・画像・培養、出血凝固・臓器機能を確認。
中に観察
抗菌薬の反応、処置後の腹痛・出血・循環、ドレーン量と性状を追う。
反応・再評価
感染徴候と臓器機能、排液・栄養の推移を確認。
適応・注意
予防的抗菌薬を一律使用しない。ERCPやドレナージ・壊死組織除去は病態・感染・時期で適応を判断する。

慢性膵炎の酵素補充・栄養・血糖管理

目的
消化吸収を助け栄養と血糖を保つ。
前に確認
便・体重・食事、膵酵素薬、血糖と低血糖歴を確認。
中に観察
食事に合わせた処方どおりの服用、便・腹部症状・血糖変動を確認。
反応・再評価
脂肪便・体重・食事量と低血糖の有無を評価。
適応・注意
病期と機能低下に合わせる。脂質を過度に制限して低栄養を進めず、食事・酵素補充を調整。

検査の意味と読み方

リパーゼ

膵傷害を示唆する酵素。

組み合わせ・推移:症状・画像と合わせ診断に使用。高さだけで重症度を決めず、連日の値だけを治療目標にしない。

リパーゼの検査詳細

血清アミラーゼ

膵・唾液腺などに由来する酵素。

組み合わせ・推移:発症からの時間や腎機能も影響。正常値だけで除外せず、リパーゼ・画像と合わせる。

血清アミラーゼの検査詳細

CRP

炎症の経過を確認。

組み合わせ・推移:初期には上昇が遅れる。高値だけで細菌感染と判断せず臓器所見・画像と比較。

CRPの検査詳細

クレアチニン

腎機能を確認。

組み合わせ・推移:尿量・循環・出納と推移を評価。補液中も上昇する場合は原因の再評価が必要。

クレアチニンの検査詳細

BUN

尿素窒素。急性膵炎の初期評価では高値や上昇傾向を、体液量・腎機能と合わせて追う。

組み合わせ・推移:普段の腎機能、Cr、尿量・血圧、補液前後の出納を比較。消化管出血や蛋白代謝などでも変わり、上昇だけで脱水と決めない。呼吸悪化・浮腫も確認し、値だけで補液を増やさない。

BUNの検査詳細

ヘマトクリット

血液に占める赤血球の容積割合。初期の高値・上昇は血液濃縮などを評価する手がかり。

組み合わせ・推移:Hbと普段の値、循環・尿量、補液量を合わせる。低下は希釈や出血などでも起こるため、値が下がっただけで改善としない。呼吸・浮腫を含め過不足を再評価する。

ヘマトクリットの検査詳細

Ca

低Caなどの電解質変化を確認。

組み合わせ・推移:総CaはAlbに影響される。症状・必要に応じイオン化Caを確認し、低値を一律に補正しない。

Caの検査詳細

血糖

ストレス反応や膵内分泌障害、栄養・治療の影響を確認。

組み合わせ・推移:食事・栄養と薬剤条件を記録。高値だけでなく低血糖の危険も追う。

血糖の検査詳細

画像肝胆道系検査

胆石・閉塞、膵周囲の液体や壊死などを評価。

組み合わせ・推移:撮影時期・造影の必要性は臨床経過で判断。画像所見だけで臓器障害の監視を止めない。

報告:SBARで情報をそろえる

S|変化

  • 腹痛・呼吸・意識・循環の変化と始まった時点。

B|背景

  • 発症からの経過、原因評価、心腎機能、輸液・鎮痛・酸素・栄養の条件。

A|前後と反応

  • 血圧・脈・呼吸・尿量、出納、腹部所見、採血推移と介入への反応。

R|依頼

  • 再診察と重症度再評価、輸液・鎮痛・栄養の調整、画像・感染源評価や集中治療の必要性。

患者・家族への説明

変化を早く知らせる

強い腹痛、繰り返す嘔吐、息苦しさ、尿が減る、発熱・黄疸は我慢せず伝える。

食事は計画に沿って再開

長く絶食すればよいとは限らない。再開後の腹痛・吐き気・便の変化を伝える。

原因に合わせ再発を防ぐ

断酒・禁煙、胆石治療や薬の確認を支援。慢性膵炎では酵素薬・栄養・血糖の相談を継続する。

参考文献

  1. JPN急性膵炎診療ガイドライン2021解説(2022)

    3.6~3.8節の輸液・鎮痛・抗菌薬・栄養の該当本文を確認。輸液は過剰投与を避け個別評価。

  2. ACG急性膵炎ガイドライン2024 Highlights

    学会公開HighlightsのPDF本文1頁を2026年9月16日に確認。初期の体液評価とBUN・ヘマトクリット、栄養、感染時治療の要約に参照。診療ガイドライン本編419〜437頁の全体監査とは区別する。

  3. NIDDK:Treatment for Pancreatitis(2017)

    急性・慢性の治療、酵素補充、血糖、断酒・禁煙支援の概説。最新の専門治療選択は別途確認。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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