精神

認知症

認知症は、記憶・判断・言葉などの認知機能の低下により生活に支障が生じる状態。原因疾患と残っている力を把握し、本人の希望と習慣に合わせて支える。急な注意・意識の変化は、せん妄や身体疾患をまず評価する。

主な症状
物忘れ 行動の変化 急な悪化
代表的な薬
ドネペジル メマンチン
検査値UP
検査値DOWN

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

アルツハイマー型:記憶と生活の手順

アルツハイマー型:記憶と生活の手順と観察の関係神経の障害 → 記憶の保持が難しい出来事予定新しい情報を生活に生かしにくい予定・服薬を具体物と短い説明で支える
  1. 神経細胞の機能が障害される
  2. 新しい出来事の保持や見当識などが難しくなる
  3. 服薬・予定・移動などに支援が必要になる

観察へ:できない点だけでなく、手がかりがあればできることを確認。問い詰めず、短い説明と具体物で支える。

血管性:障害された回路で症状が異なる

血管性:障害された回路で症状が異なると観察の関係血管病変 → 神経の回路が傷む脳の血管機能をつなぐ回路注意・段取り・歩行の変化を比較
  1. 脳梗塞・出血や小血管病が脳の回路を傷める
  2. 注意・段取り・運動などに障害が起こる
  3. 作業の遅れ、歩行や生活動作の困難につながる

観察へ:経過は一様ではない。新しい麻痺や言葉の変化を既存の認知症に含めず、脳卒中の緊急評価へ。

レビー小体型:注意の変動と運動・自律神経

レビー小体型:注意の変動と運動・自律神経と観察の関係神経機能の障害が複数の働きへレビー小体病注意の変動幻視動作の遅さ姿勢・歩行自律神経睡眠普段の変動幅・立位・薬の反応を確認
  1. レビー小体病に関連する神経機能の障害
  2. 注意の変動、幻視、動作の遅さや自律神経症状が起こりうる
  3. 転倒・立ちくらみ・睡眠中の異常行動などに注意が必要

観察へ:普段の変動幅、立位前後、眠りの様子を確認。抗精神病薬への過敏性があり、薬の追加前に病型を共有する。

前頭側頭型:行動・言葉の調整が難しい

前頭側頭型:行動・言葉の調整が難しいと観察の関係前頭葉・側頭葉の神経機能が障害行動の調整言葉など機能の位置関係を簡略化/症状は重なる行動のきっかけ・伝わる方法を探る
  1. 前頭葉・側頭葉の神経機能が障害される
  2. 行動の抑制・意欲・言葉の意味や表出が変化する
  3. 同じ行動の反復、食行動や対人交流の困難につながる

観察へ:記憶の検査だけで困難を捉えない。安全な日課、食物の管理、伝わる方法を本人に合わせて探る。

急な変化:せん妄や身体要因の重なり

急な変化:せん妄や身体要因の重なりと観察の関係身体・薬・環境の負担が重なる感染・脱水など薬・痛み環境の変化注意・覚醒が急に変化反応が揺れる/静かな低下も発症経過+意識・呼吸・循環を評価
  1. 感染・脱水・痛み・薬・環境変化などが加わる
  2. 注意や覚醒が急に変わり、一日の中で揺れる
  3. 落ち着かなさだけでなく、静かな反応低下として現れることもある

観察へ:いつから普段と違うかを確認。認知症があっても、急な変化の原因を調べて対応する。

代表的な機能の関係を示す模式図。病変の位置・広がりを診断する画像ではない。症状は重なり、複数の病理を持つ場合もある。病型を一つの症状だけで決めない。

症状から観察・再確認へ

物忘れ段取りの困難

見る・聞く
食事、服薬、着替えなどの実際の手順と、どの声かけが助けになるかを確認。
何を反映するか
記憶・注意・実行機能と生活環境の関係をみる。
普段と比較
自宅での普段の方法、入院前にできていたこと。
悪化を疑う変化
短期間で生活動作が大きく低下、食事や服薬が保てない。
再確認
一工程ずつの説明や道具の配置で、本人ができる範囲が変わるか。

急な注意覚醒の変化

見る・聞く
会話への集中、反応、日内変動、発症経過、体温・呼吸・循環・血糖を確認。
何を反映するか
せん妄や急性疾患を疑う材料。静かな眠気でも見逃さない。
普段と比較
普段の覚醒、直前の薬・睡眠・処置・環境。
悪化を疑う変化
反応が急に低下、呼吸循環異常、新しい麻痺・けいれん。
再確認
急変対応と原因評価へ。鎮静後に静かになったことだけで改善としない。

不安拒否興奮

見る・聞く
起きる前の状況、本人の言葉、痛みの表情、排泄、空腹、騒音や接し方を確認。
何を反映するか
苦痛や伝わりにくい要求、環境への反応の可能性。
普段と比較
どの時間・介助・人・場所で起き、何で落ち着くか。
悪化を疑う変化
本人や周囲が切迫した危険にさらされる、身体状態も悪化。
再確認
刺激を減らし距離と安全を確保。介助を中断・調整した後の反応を記録。

幻視見間違い

見る・聞く
何が見えて困っているか、恐怖や行動への影響、照明・視力・薬を確認。
何を反映するか
病型だけでなく感覚障害、せん妄、薬剤の影響も考える。
普段と比較
普段の頻度・内容と急な変化、投薬前後。
悪化を疑う変化
急な出現と意識変化、危険な回避行動。
再確認
言い争わず安全と安心を確保し、原因と薬の必要性を相談。

歩行の不安定立ちくらみ

見る・聞く
立ち上がり、歩幅、ふらつき、血圧・脈、履物・動線、薬の変更を確認。
何を反映するか
運動・自律神経障害、脱水や薬の作用などの可能性。
普段と比較
普段の歩行と介助量、立位前後、開始・増量前後。
悪化を疑う変化
失神、転倒・頭部打撲、新しい麻痺。
再確認
安全な介助と環境調整後の歩行を確認し、原因評価へつなぐ。

摂取睡眠排泄の変化

見る・聞く
食事の認識、むせ、口腔・義歯、摂取量、睡眠、便秘・尿閉の可能性を確認。
何を反映するか
伝えにくい苦痛や生活機能の変化が行動にも影響する。
普段と比較
普段の習慣、体重・出納、環境と薬の変更。
悪化を疑う変化
飲めない、繰り返すむせ、脱水、急な傾眠。
再確認
本人に合う食事介助や排泄支援の後、安楽・摂取と行動を再評価。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

普段の認知・行動の範囲で身体状態が安定し、本人に合う支援で生活が保てる。

次の行動:できること・希望・有効だった支援を共有し、同じ指標で生活の変化を追う。

早めの共有・報告

新しい摂取低下、睡眠や行動の変化、薬の開始後の眠気・ふらつき、介助負担の増加。

次の行動:発症経過と身体・環境・薬の要因を整理し診察やケアの見直しを相談。急な注意変化は速やかに評価する。

直ちに応援・緊急対応

反応低下、呼吸循環異常、新しい局在神経症状、けいれん、頭部打撲後の変化、切迫した危険。

次の行動:安全を確保し応援要請。ABC・血糖などを確認し緊急評価へ。認知症の症状として待機しない。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|安全と急変を先に確認

反応・呼吸・循環と切迫した危険を確認し、急変時は応援要請。安定していれば本人の希望を聞き、支援者から普段の生活・変動幅を補う。

2|急性の原因を探す

意識・呼吸・循環・血糖、痛み、感染、摂取、排泄、直近の薬の変更を確認。必要な検体・診察を準備。

3|伝え方を合わせる

正面から名乗り、一度に一つ、短く具体的に伝えて待つ。眼鏡・補聴器、理解しやすい選択肢を使う。

4|苦痛と環境を調整

拒否の前後を観察し、痛み・便秘・尿意・空腹・騒音などへ対応。無理に続けず方法や時間を変える。

5|安全とできることを両立

転倒・誤嚥を防ぐ介助と動線を整え、本人ができる工程を残す。拘束や鎮静だけで解決しない。

6|薬の前後を比較

標的症状、覚醒・歩行・摂取・脈を記録。静かになっても眠気や生活機能の低下があれば共有。

7|支援者も支える

睡眠不足や介護負担、服薬管理の困難を聞き、地域包括支援センター・介護サービス等へつなぐ。

治療前・中・後の看護

環境調整と個別の生活支援

目的
不安・苦痛を減らし、残る能力と生活の質を支える。
前に確認
本人の希望、習慣、行動のきっかけ、感覚・身体症状を確認。
中に観察
声かけ・道具・照明・日課を一つずつ調整し反応を観察。
反応・再評価
安楽、参加できる動作、睡眠・摂取が改善するか。
適応・注意
本人に合わない刺激や介助を続けない。危険が切迫する場合は安全確保と緊急評価を並行。

コリンエステラーゼ阻害薬

目的
神経伝達を補い、適応のある病型で認知症症状を治療する。
前に確認
病型・適応、脈、失神歴、体重・摂取、併用薬を確認。
中に観察
悪心・下痢、食欲低下、徐脈・失神、興奮や睡眠変化を観察。
反応・再評価
認知機能だけでなく生活動作と負担、有害事象を前後比較。
適応・注意
認知症全般に一律投与しない。病型・重症度・製剤で適応が異なり、処方の見直しを相談する。

NMDA受容体拮抗薬:メマンチン

目的
中等度・高度アルツハイマー型認知症の症状の進行を抑える。
前に確認
適応、腎機能、意識・歩行、併用薬と増量計画を確認。
中に観察
めまい・傾眠、転倒、興奮・幻覚、失神・徐脈を観察。
反応・再評価
生活と認知・行動を比較し、開始・増量に伴う悪化がないか。
適応・注意
疾患そのものの進行を止める薬ではない。高度腎障害では調整が必要で、自己判断で急に増量しない。
メマリー錠・OD錠5mg・10mg・20mgの詳細を開く

行動・心理症状への薬物療法

目的
原因評価とケア調整でも残る強い苦痛や危険な症状を軽減する。
前に確認
標的症状、身体原因、薬剤性、本人の意思、利益と不利益を確認。
中に観察
眠気、嚥下・歩行悪化、起立時の血圧低下、筋固縮などを確認。
反応・再評価
標的症状と生活の質を再評価し、継続・減量・中止を相談。
適応・注意
適応と病型に応じ専門評価。レビー小体型では抗精神病薬への過敏性に注意。歩き回ることだけを鎮静の理由にしない。

抗アミロイドβ抗体による治療

目的
対象となる早期アルツハイマー病で進行を抑える。
前に確認
専門施設で病期、アミロイド病理、MRI所見、併用薬と治療負担を評価。
中に観察
点滴時の反応、新しい頭痛・混乱・視覚や歩行の変化、けいれんを共有。
反応・再評価
症状がなくても計画されたMRIで脳浮腫・出血などを確認。新しい神経症状は速やかに報告し評価へ。
適応・注意
全ての認知症が対象ではない。投与・検査・中断条件は製剤の最新添文と専門チームの指示に従う。

検査の意味と読み方

認知機能生活機能の評価

記憶・注意・言語と日常の困難を評価。

組み合わせ・推移:点数だけで診断・意思決定能力を決めない。聴力・視力・言語、疲労、教育歴、急性疾患を考慮。

頭部CTMRI

血管病変、水頭症、血腫、萎縮などを評価。

組み合わせ・推移:画像と症状・経過を合わせる。萎縮や血管病変の量だけで病型を断定しない。

血糖

急な反応低下などの可逆的な要因を確認。

組み合わせ・推移:低血糖・高血糖と症状、薬・摂取を照合。認知症を診断する値ではない。

血糖の検査詳細

Na

体液・電解質異常による意識変化を評価。

組み合わせ・推移:変化速度、飲水・排泄、薬と合わせる。認知症の重症度とは別の評価。

Naの検査詳細

クレアチニン

脱水・腎機能と薬の調整を評価。

組み合わせ・推移:普段の値と出納、薬の開始・増量前後を確認。

クレアチニンの検査詳細

甲状腺ビタミンなどの検査

認知機能へ影響する治療可能な要因を調べる。

組み合わせ・推移:病歴・所見に応じて選ぶ。異常の是正だけで全ての症状が改善するとは限らない。

報告:SBARで情報をそろえる

S|普段との違い

  • いつから、何が変わったか。
  • 意識・呼吸・循環と切迫した危険。

B|病型と生活

  • 普段の認知・日内変動、介助方法、直近の薬・処置・環境、摂取・排泄。
  • 使用中の酸素・点滴と、本人が外すなどの変化。

A|きっかけと反応

  • 前の状態と現在、痛みや身体所見、試した介助・環境調整と反応。

R|確認してほしいこと

  • 急性疾患・せん妄・薬剤性の評価、治療の見直し、具体的な安全確保と支援計画。

患者・家族への説明

急な変化は相談

突然ぼんやりする、飲めない、新しい麻痺や呼吸の異常は、認知症の進行と決めつけず連絡する。

本人の気持ちとできること

間違いを繰り返し指摘するより、短い説明と分かる手がかりで支える。本人の希望を確認して選択を助ける。

薬の効果と負担を共有

眠気・食欲低下・転倒・興奮などは記録して相談。静かになることだけを薬の効果としない。

支える人も休める仕組み

介護を一人で抱えず、相談先とサービスを具体化する。本人の意思を尊重しながら今後の暮らしを一緒に考える。

参考文献

  1. 国立長寿医療研究センター:認知症の原因

    原因疾患と治療可能な要因。

  2. 国立長寿医療研究センター:原因に関するQ&A

    病型の症状と鑑別の限界。

  3. 厚生労働省掲載:BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版

    非薬物的介入、身体・薬剤要因、レビー小体型への注意と薬物療法の再評価。

  4. PMDA:メマリー錠・OD錠

    適応・腎機能・重大副作用。

  5. PMDA:レカネマブ添付文書(2026年8月改訂)

    抗アミロイドβ抗体の適応評価、ARIAと点滴時反応の観察。製剤ごとの条件は最新添文で確認。

  6. NICE NG97:認知症の評価と支援

    認知機能検査単独での判断を避け、急性の注意変化を評価する。

資料確認:2026年9月16日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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