検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。
病型と病態のつながり
アルツハイマー型:記憶と生活の手順
- 神経細胞の機能が障害される
- 新しい出来事の保持や見当識などが難しくなる
- 服薬・予定・移動などに支援が必要になる
観察へ:できない点だけでなく、手がかりがあればできることを確認。問い詰めず、短い説明と具体物で支える。
血管性:障害された回路で症状が異なる
- 脳梗塞・出血や小血管病が脳の回路を傷める
- 注意・段取り・運動などに障害が起こる
- 作業の遅れ、歩行や生活動作の困難につながる
観察へ:経過は一様ではない。新しい麻痺や言葉の変化を既存の認知症に含めず、脳卒中の緊急評価へ。
レビー小体型:注意の変動と運動・自律神経
- レビー小体病に関連する神経機能の障害
- 注意の変動、幻視、動作の遅さや自律神経症状が起こりうる
- 転倒・立ちくらみ・睡眠中の異常行動などに注意が必要
観察へ:普段の変動幅、立位前後、眠りの様子を確認。抗精神病薬への過敏性があり、薬の追加前に病型を共有する。
前頭側頭型:行動・言葉の調整が難しい
- 前頭葉・側頭葉の神経機能が障害される
- 行動の抑制・意欲・言葉の意味や表出が変化する
- 同じ行動の反復、食行動や対人交流の困難につながる
観察へ:記憶の検査だけで困難を捉えない。安全な日課、食物の管理、伝わる方法を本人に合わせて探る。
急な変化:せん妄や身体要因の重なり
- 感染・脱水・痛み・薬・環境変化などが加わる
- 注意や覚醒が急に変わり、一日の中で揺れる
- 落ち着かなさだけでなく、静かな反応低下として現れることもある
観察へ:いつから普段と違うかを確認。認知症があっても、急な変化の原因を調べて対応する。
代表的な機能の関係を示す模式図。病変の位置・広がりを診断する画像ではない。症状は重なり、複数の病理を持つ場合もある。病型を一つの症状だけで決めない。
症状から観察・再確認へ
物忘れ・段取りの困難
- 見る・聞く
- 食事、服薬、着替えなどの実際の手順と、どの声かけが助けになるかを確認。
- 何を反映するか
- 記憶・注意・実行機能と生活環境の関係をみる。
- 普段と比較
- 自宅での普段の方法、入院前にできていたこと。
- 悪化を疑う変化
- 短期間で生活動作が大きく低下、食事や服薬が保てない。
- 再確認
- 一工程ずつの説明や道具の配置で、本人ができる範囲が変わるか。
急な注意・覚醒の変化
- 見る・聞く
- 会話への集中、反応、日内変動、発症経過、体温・呼吸・循環・血糖を確認。
- 何を反映するか
- せん妄や急性疾患を疑う材料。静かな眠気でも見逃さない。
- 普段と比較
- 普段の覚醒、直前の薬・睡眠・処置・環境。
- 悪化を疑う変化
- 反応が急に低下、呼吸循環異常、新しい麻痺・けいれん。
- 再確認
- 急変対応と原因評価へ。鎮静後に静かになったことだけで改善としない。
不安・拒否・興奮
- 見る・聞く
- 起きる前の状況、本人の言葉、痛みの表情、排泄、空腹、騒音や接し方を確認。
- 何を反映するか
- 苦痛や伝わりにくい要求、環境への反応の可能性。
- 普段と比較
- どの時間・介助・人・場所で起き、何で落ち着くか。
- 悪化を疑う変化
- 本人や周囲が切迫した危険にさらされる、身体状態も悪化。
- 再確認
- 刺激を減らし距離と安全を確保。介助を中断・調整した後の反応を記録。
幻視・見間違い
- 見る・聞く
- 何が見えて困っているか、恐怖や行動への影響、照明・視力・薬を確認。
- 何を反映するか
- 病型だけでなく感覚障害、せん妄、薬剤の影響も考える。
- 普段と比較
- 普段の頻度・内容と急な変化、投薬前後。
- 悪化を疑う変化
- 急な出現と意識変化、危険な回避行動。
- 再確認
- 言い争わず安全と安心を確保し、原因と薬の必要性を相談。
歩行の不安定・立ちくらみ
- 見る・聞く
- 立ち上がり、歩幅、ふらつき、血圧・脈、履物・動線、薬の変更を確認。
- 何を反映するか
- 運動・自律神経障害、脱水や薬の作用などの可能性。
- 普段と比較
- 普段の歩行と介助量、立位前後、開始・増量前後。
- 悪化を疑う変化
- 失神、転倒・頭部打撲、新しい麻痺。
- 再確認
- 安全な介助と環境調整後の歩行を確認し、原因評価へつなぐ。
摂取・睡眠・排泄の変化
- 見る・聞く
- 食事の認識、むせ、口腔・義歯、摂取量、睡眠、便秘・尿閉の可能性を確認。
- 何を反映するか
- 伝えにくい苦痛や生活機能の変化が行動にも影響する。
- 普段と比較
- 普段の習慣、体重・出納、環境と薬の変更。
- 悪化を疑う変化
- 飲めない、繰り返すむせ、脱水、急な傾眠。
- 再確認
- 本人に合う食事介助や排泄支援の後、安楽・摂取と行動を再評価。
看護判断:変化の緊急度
経過を観察できる状態
普段の認知・行動の範囲で身体状態が安定し、本人に合う支援で生活が保てる。
次の行動:できること・希望・有効だった支援を共有し、同じ指標で生活の変化を追う。
早めの共有・報告
新しい摂取低下、睡眠や行動の変化、薬の開始後の眠気・ふらつき、介助負担の増加。
次の行動:発症経過と身体・環境・薬の要因を整理し診察やケアの見直しを相談。急な注意変化は速やかに評価する。
直ちに応援・緊急対応
反応低下、呼吸循環異常、新しい局在神経症状、けいれん、頭部打撲後の変化、切迫した危険。
次の行動:安全を確保し応援要請。ABC・血糖などを確認し緊急評価へ。認知症の症状として待機しない。
緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。
看護行動:優先順位
1|安全と急変を先に確認
反応・呼吸・循環と切迫した危険を確認し、急変時は応援要請。安定していれば本人の希望を聞き、支援者から普段の生活・変動幅を補う。
2|急性の原因を探す
意識・呼吸・循環・血糖、痛み、感染、摂取、排泄、直近の薬の変更を確認。必要な検体・診察を準備。
3|伝え方を合わせる
正面から名乗り、一度に一つ、短く具体的に伝えて待つ。眼鏡・補聴器、理解しやすい選択肢を使う。
4|苦痛と環境を調整
拒否の前後を観察し、痛み・便秘・尿意・空腹・騒音などへ対応。無理に続けず方法や時間を変える。
5|安全とできることを両立
転倒・誤嚥を防ぐ介助と動線を整え、本人ができる工程を残す。拘束や鎮静だけで解決しない。
6|薬の前後を比較
標的症状、覚醒・歩行・摂取・脈を記録。静かになっても眠気や生活機能の低下があれば共有。
7|支援者も支える
睡眠不足や介護負担、服薬管理の困難を聞き、地域包括支援センター・介護サービス等へつなぐ。
治療前・中・後の看護
環境調整と個別の生活支援
- 目的
- 不安・苦痛を減らし、残る能力と生活の質を支える。
- 前に確認
- 本人の希望、習慣、行動のきっかけ、感覚・身体症状を確認。
- 中に観察
- 声かけ・道具・照明・日課を一つずつ調整し反応を観察。
- 反応・再評価
- 安楽、参加できる動作、睡眠・摂取が改善するか。
- 適応・注意
- 本人に合わない刺激や介助を続けない。危険が切迫する場合は安全確保と緊急評価を並行。
コリンエステラーゼ阻害薬
- 目的
- 神経伝達を補い、適応のある病型で認知症症状を治療する。
- 前に確認
- 病型・適応、脈、失神歴、体重・摂取、併用薬を確認。
- 中に観察
- 悪心・下痢、食欲低下、徐脈・失神、興奮や睡眠変化を観察。
- 反応・再評価
- 認知機能だけでなく生活動作と負担、有害事象を前後比較。
- 適応・注意
- 認知症全般に一律投与しない。病型・重症度・製剤で適応が異なり、処方の見直しを相談する。
NMDA受容体拮抗薬:メマンチン
- 目的
- 中等度・高度アルツハイマー型認知症の症状の進行を抑える。
- 前に確認
- 適応、腎機能、意識・歩行、併用薬と増量計画を確認。
- 中に観察
- めまい・傾眠、転倒、興奮・幻覚、失神・徐脈を観察。
- 反応・再評価
- 生活と認知・行動を比較し、開始・増量に伴う悪化がないか。
- 適応・注意
- 疾患そのものの進行を止める薬ではない。高度腎障害では調整が必要で、自己判断で急に増量しない。
メマリー錠・OD錠5mg・10mg・20mgの詳細を開く行動・心理症状への薬物療法
- 目的
- 原因評価とケア調整でも残る強い苦痛や危険な症状を軽減する。
- 前に確認
- 標的症状、身体原因、薬剤性、本人の意思、利益と不利益を確認。
- 中に観察
- 眠気、嚥下・歩行悪化、起立時の血圧低下、筋固縮などを確認。
- 反応・再評価
- 標的症状と生活の質を再評価し、継続・減量・中止を相談。
- 適応・注意
- 適応と病型に応じ専門評価。レビー小体型では抗精神病薬への過敏性に注意。歩き回ることだけを鎮静の理由にしない。
抗アミロイドβ抗体による治療
- 目的
- 対象となる早期アルツハイマー病で進行を抑える。
- 前に確認
- 専門施設で病期、アミロイド病理、MRI所見、併用薬と治療負担を評価。
- 中に観察
- 点滴時の反応、新しい頭痛・混乱・視覚や歩行の変化、けいれんを共有。
- 反応・再評価
- 症状がなくても計画されたMRIで脳浮腫・出血などを確認。新しい神経症状は速やかに報告し評価へ。
- 適応・注意
- 全ての認知症が対象ではない。投与・検査・中断条件は製剤の最新添文と専門チームの指示に従う。
検査の意味と読み方
認知機能・生活機能の評価
記憶・注意・言語と日常の困難を評価。
組み合わせ・推移:点数だけで診断・意思決定能力を決めない。聴力・視力・言語、疲労、教育歴、急性疾患を考慮。
頭部CT・MRI
血管病変、水頭症、血腫、萎縮などを評価。
組み合わせ・推移:画像と症状・経過を合わせる。萎縮や血管病変の量だけで病型を断定しない。
血糖
急な反応低下などの可逆的な要因を確認。
組み合わせ・推移:低血糖・高血糖と症状、薬・摂取を照合。認知症を診断する値ではない。
血糖の検査詳細
Na
体液・電解質異常による意識変化を評価。
組み合わせ・推移:変化速度、飲水・排泄、薬と合わせる。認知症の重症度とは別の評価。
Naの検査詳細
クレアチニン
脱水・腎機能と薬の調整を評価。
組み合わせ・推移:普段の値と出納、薬の開始・増量前後を確認。
クレアチニンの検査詳細
甲状腺・ビタミンなどの検査
認知機能へ影響する治療可能な要因を調べる。
組み合わせ・推移:病歴・所見に応じて選ぶ。異常の是正だけで全ての症状が改善するとは限らない。
報告:SBARで情報をそろえる
S|普段との違い
- いつから、何が変わったか。
- 意識・呼吸・循環と切迫した危険。
B|病型と生活
- 普段の認知・日内変動、介助方法、直近の薬・処置・環境、摂取・排泄。
- 使用中の酸素・点滴と、本人が外すなどの変化。
A|きっかけと反応
- 前の状態と現在、痛みや身体所見、試した介助・環境調整と反応。
R|確認してほしいこと
- 急性疾患・せん妄・薬剤性の評価、治療の見直し、具体的な安全確保と支援計画。
患者・家族への説明
急な変化は相談
突然ぼんやりする、飲めない、新しい麻痺や呼吸の異常は、認知症の進行と決めつけず連絡する。
本人の気持ちとできること
間違いを繰り返し指摘するより、短い説明と分かる手がかりで支える。本人の希望を確認して選択を助ける。
薬の効果と負担を共有
眠気・食欲低下・転倒・興奮などは記録して相談。静かになることだけを薬の効果としない。
支える人も休める仕組み
介護を一人で抱えず、相談先とサービスを具体化する。本人の意思を尊重しながら今後の暮らしを一緒に考える。
看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。
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