腎・泌尿器

前立腺肥大症

出しにくい症状、ためにくい症状、排尿後の症状を分けて聞く。残尿感と実際の残尿量は別に評価し、尿閉・腎障害・感染と、治療による転倒リスクを見逃さない。

主な症状
尿勢低下 頻尿 残尿感 尿閉
代表的な薬
α₁遮断薬 5α還元酵素阻害薬 PDE5阻害薬
検査値UP
Cr
検査値DOWN

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

排出の障害:出口の抵抗が増える

出口の抵抗が増加 → 尿勢低下・残尿膀胱尿をため、押し出す前立腺尿道出口の抵抗が増加 → 尿勢低下・残尿
  1. 前立腺の肥大・平滑筋の緊張
  2. 尿道の抵抗が増える
  3. 尿勢低下・途切れ・残尿、進行すると尿閉

観察へ:膀胱が押し出す力の低下も関わる。尿が少し漏れていても、膀胱に大量の尿が残っていることがある。

蓄尿の障害:頻尿・尿意切迫

膀胱の反応も変化 → 頻尿・尿意切迫膀胱尿をため、押し出す前立腺尿道膀胱の反応も変化 → 頻尿・尿意切迫
  1. 出口の抵抗や膀胱機能の変化
  2. 十分ためられない・残尿がある
  3. 頻尿・尿意切迫・夜間の覚醒

観察へ:夜間頻尿は夜間多尿や睡眠・心不全などの影響も受ける。一回量・昼夜の量・生活への支障を記録する。

前立腺と尿道・膀胱の関係を示す模式図。排尿症状と蓄尿症状は併存する。前立腺の大きさだけでは症状や治療の必要性は決まらない。

症状から観察・再確認へ

尿勢低下残尿感

見る・聞く
出始めまでの時間、途切れ、いきみ、排尿量と残尿感を聞く。必要な残尿測定の条件をそろえる。
何を反映するか
出口の抵抗や膀胱収縮力の低下の手がかり。感覚だけで残尿量は分からない。
普段と比較
普段の尿勢、投薬前後、排尿直後の残尿を比較。
悪化を疑う変化
尿が出なくなる、下腹部膨満、少量ずつ漏れるのに張りが強い。
再確認
排尿支援後の量・苦痛と残尿。改善しなければ尿閉評価につなぐ。

頻尿夜間頻尿

見る・聞く
時刻・一回量・昼夜の総量、尿意切迫と失禁、飲水・カフェイン・利尿薬、睡眠への影響を記録。
何を反映するか
蓄尿障害だけでなく多尿や睡眠障害などでも起こる。
普段と比較
回数だけでなく量と困り方を前回・普段と比較。
悪化を疑う変化
頻回でもほとんど出ない、痛み・発熱が加わる、夜間転倒が起きる。
再確認
生活調整後の睡眠と排尿。飲水を減らしすぎて脱水になっていないか確認。

下腹部痛尿閉

見る・聞く
最終排尿、膨満、尿意、排出量、血尿、最近の感冒薬・抗コリン作用薬の使用を確認。
何を反映するか
尿を作れない乏尿と、膀胱から出せない尿閉を区別する。
普段と比較
発症前の排尿、術後・抜去後・薬剤変更との関係。
悪化を疑う変化
強い膨満と排尿不能、発熱・悪寒、腎機能悪化。
再確認
導尿後の尿量・血尿・痛みと血圧。閉塞解除後の多尿や再尿閉を追う。

立ちくらみ

見る・聞く
起き上がり・立位・排尿時との関係、血圧・脈拍、失神と転倒の有無を確認。
何を反映するか
α1遮断薬などによる血圧低下や脱水を考える。
普段と比較
開始・増量時、併用降圧薬、摂取量と発症の関係を比較。
悪化を疑う変化
失神、転倒、胸痛・呼吸苦や循環不良の合併。
再確認
安全確保後の覚醒・循環を再評価し処方者へ共有。排尿改善だけで治療成功としない。

看護判断:変化の緊急度

継続観察

評価済みで排尿でき、症状と生活への支障が安定し、感染・腎障害・薬剤有害反応の新しい徴候がない。

次の行動:排尿日誌と個別の受診・残尿評価計画を続ける。

早めに共有

尿勢悪化、残尿増加、頻尿で睡眠や生活が障害される、薬剤開始後のふらつき。排尿不能と膨満があれば速やかな診察が必要。

次の行動:尿閉・薬剤・感染の評価と導尿の要否を相談する。翌日まで我慢させない。

直ちに応援要請

尿路症状に意識低下・呼吸促迫・循環不良を伴う。術後の出血増加と血圧低下、回復しない失神。

次の行動:急変対応を起動し、呼吸循環を評価。出血・感染・閉塞への緊急処置を準備。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

排尿できているかを最初に確認

排尿不能・膨満・苦痛は速やかに共有。安全とプライバシーを確保し、無理にいきませない。

排尿日誌と残尿をそろえる

時刻と量、尿意・失禁、飲水・薬を記録。残尿は排尿から測定までの間隔も記録し、測定だけで治療を決めない。

指示に沿って排出を確保

導尿・留置の指示と器具を確認。挿入抵抗や出血があれば無理に進めず応援を求める。

夜間移動と薬剤を見直す

照明・動線・介助方法を整え転倒を予防。市販薬を含む薬剤と服用時刻を薬剤師・処方者へ共有。

抜去・投薬・処置後を追う

初回排尿、量、残尿、痛み・血尿、血圧を確認。尿が出た一回だけで抜去後の排尿管理を終了しない。

治療前・中・後の看護

α1遮断薬

目的
前立腺・尿道の平滑筋を緩め、出口の抵抗を下げる。
前に確認
血圧・ふらつき、降圧薬やPDE5阻害薬、肝機能、白内障・緑内障手術の予定を確認。
中に観察
排尿の改善と立ちくらみ・失神、転倒、肝障害を疑う症状を追う。
反応・再評価
尿勢・残尿感と生活への支障が改善したか、副作用で活動が制限されていないか比較。
適応・注意
タムスロシンを代表薬として接続。前立腺自体を縮小する薬ではない。眼科手術前は過去の服用も共有する。
タムスロシン塩酸塩の詳細を開く

5α還元酵素阻害薬

目的
ホルモンの作用を抑え、肥大した前立腺を徐々に縮小する。
前に確認
前立腺の大きさ、PSA評価、肝機能と薬剤の適応を確認。 重度肝障害の禁忌と、カプセルを開けず扱うことを確認。
中に観察
即効性を期待して中断しないよう支援し、性機能・乳房の変化など相談しづらい症状も確認。
反応・再評価
数か月単位の症状・前立腺体積・残尿の変化を評価する計画を確認。
適応・注意
PSAを低下させるため、検査時に服用歴を共有。値の解釈は担当医が治療期間を含め判断する。
デュタステリドの詳細を開く

PDE5阻害薬

目的
下部尿路の平滑筋などへ作用し排尿症状を改善する。
前に確認
硝酸薬・NO供与薬、リオシグアトの併用禁忌と循環器疾患を確認。重度の腎・肝障害では禁忌のため処方条件を照合。
中に観察
頭痛・ほてり・ふらつき、血圧低下や胸部症状を観察。
反応・再評価
排尿と生活の改善、循環への影響を確認。
適応・注意
前立腺肥大症用の適応・処方を確認し、勃起障害用製剤・用法と混同しない。胸痛時は服用情報を直ちに医療者へ伝える。
ザルティア錠2.5mg・5mgの詳細を開く

導尿・カテーテル留置

目的
尿閉時に膀胱内の尿を排出する。
前に確認
膀胱の張り・残尿、尿道損傷リスク、指示された器具と手順を確認。
中に観察
抵抗・疼痛・出血、排出量、血圧を観察。閉鎖回路と固定を保つ。
反応・再評価
苦痛・膨満の軽減、血尿と排出量を追う。多尿が続く場合は出納・電解質を評価。
適応・注意
長期留置を自動的に継続せず、抜去試験・間欠導尿などの計画を確認。

経尿道的手術・低侵襲治療

目的
尿道を圧迫する組織を切除・核出・縮小するなどして通過を改善する。
前に確認
TURP・HoLEPなど術式、抗血栓薬、感染所見、麻酔と術後カテーテル計画を確認。
中に観察
血尿・血塊、排液の途絶、下腹部痛、血圧・意識を観察。灌流中は注入量と排出量を分けて記録。
反応・再評価
抜去後の尿勢・残尿・失禁と疼痛を追い、活動再開と受診目安を確認。
適応・注意
出血・尿閉・感染などのリスクは術式で異なる。灌流量を引いた尿量を評価し、無指示の牽引・洗浄・抜去をしない。

検査の意味と読み方

残尿測定

排尿後に膀胱内へ残る尿を評価。

組み合わせ・推移:残尿感とは別。排尿からの時間、排尿量、測定条件で変わり、一回値だけで重症度を決めない。

尿流測定

尿の勢いと排出のパターンを評価。

組み合わせ・推移:排尿量や膀胱収縮力にも左右される。低流量だけで前立腺による閉塞と断定しない。

PSA

前立腺の疾患評価に使う血液検査。

組み合わせ・推移:肥大・炎症などでも上昇し、単独でがんと判定しない。5α還元酵素阻害薬の服用と処置歴を共有し推移を評価。

Cr

閉塞に伴う腎機能障害などを評価。

組み合わせ・推移:上昇時は残尿・水腎症、循環・出納と合わせる。解除後も元の腎機能と比較する。

Crの検査詳細

尿検査

血尿・炎症など他の原因を調べる。

組み合わせ・推移:血尿を肥大症のためと決めつけず、感染・結石・腫瘍などの評価につなぐ。

超音波

前立腺体積、膀胱、必要時は水腎症を評価。

組み合わせ・推移:大きさだけで症状は説明できない。残尿と尿流・症状の困り方を組み合わせる。

報告:SBARで情報をそろえる

S:いまの排尿状態

  • 最終排尿、排尿不能・膨満・痛み、血尿、現在の意識・呼吸・循環。

B:治療と薬

  • 肥大症の治療、カテーテル・手術歴、腎機能、市販感冒薬を含む薬剤変更。
  • 使用中の酸素・点滴、尿路処置の内容と時刻。

A:量と反応

  • 排尿日誌、残尿量と測定時刻、処置後の排液、血尿、血圧とふらつきの経過。

R:確認事項

  • 導尿・留置・抜去の計画、薬剤調整、感染・腎障害の評価と再評価時点。

患者・家族への説明

尿が出ないとき

強い尿意や下腹部の張りがあるのに出ないときは、我慢せず速やかに相談する。少量漏れていても出し切れているとは限らない。

薬と転倒を確認

ゆっくり起き上がり、ふらつきは伝える。市販の風邪薬を購入するときも、前立腺肥大症と内服を薬剤師に伝える。

生活の困り方を共有

夜間の排尿回数だけでなく、睡眠・外出・失禁の困りごとを伝える。水分は一律に減らさず、飲む時刻と量を個別に相談する。

参考文献

  1. 日本泌尿器科学会:尿が出にくい

    症状と原因を分けて評価する考え方。

  2. 名古屋大学:前立腺肥大症

    排尿・蓄尿症状、検査、薬効群と術式の概要。

  3. NIDDK:前立腺肥大症

    生活への影響と治療・合併症。

  4. PMDA:ハルナールD錠

    タムスロシンの禁忌・併用・眼科手術時の注意。

  5. PMDA:ザルティア電子添文

    PDE5阻害薬の禁忌併用、循環器・腎肝機能による条件。

  6. PMDA:アボルブ患者向医薬品ガイド

    服用継続とPSAへの影響、患者への注意。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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