循環器

大動脈解離

大動脈解離は、血液が大動脈の壁の中へ入り込み、壁が分かれる病態。急性期は破裂と臓器への血流障害を同時に警戒する。痛み・血圧に加え、意識、手足の動き・脈、腹部症状、尿量の変化をつなげて報告する。

主な症状
突然の胸背部痛 血流障害 循環変化
代表的な薬
β遮断薬などの降圧薬 鎮痛薬
検査値UP
Dダイマー
検査値DOWN
Hb

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

A型:上行大動脈を含む解離

A型:上行大動脈を含む解離心臓上行下行大動脈上行大動脈を含む → 緊急外科評価紫の線:解離部位の一例
  1. 心臓から出る上行大動脈の壁が解離する
  2. 心膜への出血・大動脈弁逆流・冠動脈や頸部分枝の障害が起こりうる
  3. ショック・呼吸困難・心筋虚血・神経症状につながる

観察へ:緊急の外科評価へ。意識・呼吸・循環を連続して確認し、検査・手術や搬送の準備を進める。

B型:上行大動脈に及ばない解離

B型:上行大動脈に及ばない解離心臓上行下行大動脈上行を含まない → 合併症を評価紫の線:解離部位の一例
  1. 上行大動脈を含まず壁が解離する
  2. 安定例は鎮痛と心拍・血圧管理を中心に監視する
  3. 破裂・臓器虚血・拡大・難治性の痛みや高血圧では介入を検討する

観察へ:B型という名前だけで軽症としない。新しい腹痛、下肢症状、尿量低下と痛みの再燃を拾う。

臓器血流障害:真腔や分枝が狭くなる

臓器血流障害:真腔や分枝が狭くなる偽腔真腔:狭い流路分枝腸・腎・四肢など真腔の圧迫・分枝閉塞 → 血流不足腹痛・尿量・感覚と運動を確認
  1. 偽腔が真腔を圧迫、または解離が分枝へ及ぶ
  2. 脳・腸・腎・四肢などへの血流が不足する
  3. 麻痺、腹痛、乏尿、手足の冷感・運動障害が現れる

観察へ:血圧が目標内でも臓器灌流を確認。新しい神経症状や下肢の動きにくさは直ちに報告する。

破裂:血管の外へ出血する

破裂:血管の外へ出血する血管外への出血解離した大動脈循環血液量の減少/心臓への圧迫血圧・意識・呼吸の急変を捉える
  1. 解離した外側の壁が破綻する
  2. 胸腔などへの出血、または心膜への出血が起こる
  3. 血液量減少や心臓の充満障害でショックになる

観察へ:低血圧・失神・呼吸困難を薬の効きすぎと決めつけない。心膜への出血では心タンポナーデも評価する。

位置と血流の模式図。A型は上行大動脈に解離が及ぶもの、B型は上行大動脈に及ばないもの。裂け目の入口だけで分類しない。血流障害と破裂の図は、A型・B型と重なる合併症を示す。

症状から観察・再確認へ

突然の胸背部痛痛みの移動

見る・聞く
始まり方、最も強かった時点、場所と移動、持続、鎮痛前後を聞く。
何を反映するか
解離の発症や進展を疑う材料。無痛例もあり、痛みだけでは除外できない。
普段と比較
発症時と現在、鎮痛・降圧開始前後。
悪化を疑う変化
再燃・増強、新しい場所への痛み、失神や神経症状の併発。
再確認
痛みと同時に意識・脈・血圧・尿量を確認。鎮痛で隠れた変化にも注意。

血圧脈拍の変化

見る・聞く
測定部位、左右の脈・血圧、心拍数、動脈ラインの波形を確認。
何を反映するか
壁への負荷と全身灌流の情報。分枝障害で測定値が全身の圧を反映しないことがある。
普段と比較
同じ部位の前値、左右差、薬の種類・投与速度。
悪化を疑う変化
急な低下、管理困難な上昇、新しい脈の減弱と冷感。
再確認
ライン・カフの条件を確認しつつ、意識・皮膚・尿量で灌流を再評価。左右差がなくても除外しない。

意識変化麻痺言葉の変化

見る・聞く
呼びかけ、会話、顔と四肢の左右差、発症時点、血糖を確認。
何を反映するか
頸部分枝の血流障害、低灌流などの可能性。
普段と比較
入院時・処置前と現在の神経所見。
悪化を疑う変化
新しい麻痺、反応低下、けいれん。
再確認
直ちに報告しABCを確認。胸背部痛や解離疑いを含めて伝え、脳卒中だけに絞らない。

腹痛尿量低下

見る・聞く
腹痛の場所・程度、腹部膨満、嘔吐・血便、尿量と出納、カテーテルの通過を確認。
何を反映するか
腸管・腎血流障害や全身低灌流を疑う材料。
普段と比較
痛みの新規出現、直近の尿量、降圧前後・造影前後。
悪化を疑う変化
持続・増悪する腹痛、血便、急な乏尿や循環悪化。
再確認
薬剤や便秘だけと決めず緊急評価へ。採血・画像の結果と症状の推移を共有。

下肢の冷感痛み動かしにくさ

見る・聞く
左右の皮膚色・温度・脈、感覚、足趾と下肢の運動を確認。
何を反映するか
下肢血流障害や脊髄虚血を疑う材料。
普段と比較
治療前・直前と左右差。
悪化を疑う変化
新しい感覚低下、運動障害、脈の消失。
再確認
直ちに報告。手術・ステント治療後も同じ項目で再評価する。

呼吸困難冷汗失神

見る・聞く
呼吸数・努力、SpO₂と酸素条件、意識、心電図、皮膚・血圧を確認。
何を反映するか
破裂、タンポナーデ、急性弁逆流や心筋虚血などが考えられる。
普段と比較
鎮痛・降圧前後と発症時点。
悪化を疑う変化
反応低下、急な低血圧、酸素需要増加。
再確認
応援要請とABC。鎮痛薬の呼吸抑制も評価するが、原因を一つに決めつけない。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

診断と治療方針が確定し、監視下で痛み・循環が安定、新しい臓器虚血所見がない。

次の行動:指定された安静度と測定間隔を守り、神経・四肢・腹部・尿量も継続評価。新規の解離疑いを経過観察にしない。

早めの共有・報告

目標血圧からの逸脱が続く、鎮痛が不十分、薬の副作用や安静・排泄の困難がある。

次の行動:測定条件と投与条件を照合し、調整・追加評価を相談。急速な変化や新しい虚血徴候は緊急段階へ。

直ちに応援・緊急対応

新規の解離疑い、痛みの急な再燃、失神、循環不良、新しい麻痺・下肢運動障害・強い腹痛・急な尿量低下。

次の行動:応援要請とABC、専門チームへ連絡し緊急画像・手術・搬送を準備。血圧の目標達成や痛みの軽減を待たない。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|疑った時点で共有

症状の発症とABCを評価し、緊急診療につなぐ。独歩や不要な移動を避け、モニター・救急物品を準備する。

2|体位と安静を支える

循環・呼吸に合わせた体位をチームで確認し、不要な体動・いきみを減らす。呼吸困難や意識低下では気道の安全を優先する。

3|血圧と臓器の基準値を取る

脈・測定部位、意識、四肢の感覚と運動、腹部、尿量を記録。処置後も同じ方法で比較できるようにする。

4|検査・治療の準備

静脈路、採血・交差適合試験、造影歴・アレルギー、最終摂取、服薬を確認。緊急画像や手術を遅らせないよう分担する。

5|薬の効果を灌流と合わせる

鎮痛・心拍数管理・降圧薬は指示された目標と速度で実施。過度の低下、徐脈、呼吸抑制、新しい臓器症状を直ちに共有する。

6|出血と虚血を再評価

出納、神経所見、四肢・腹部を追う。抗血栓薬の開始前には解離疑いを明確に共有し、独自にACSや脳梗塞の治療を進めない。

7|回復に応じ安静度を見直す

急性期の安静を漫然と続けず、方針に沿って排泄・離床・リハビリを段階化。活動前後の症状と循環を確認する。

治療前・中・後の看護

β遮断薬などによる心拍・壁負荷の管理

目的
心拍と心収縮による大動脈壁への負荷を抑える。
前に確認
血圧・心拍、房室伝導、心不全、重い弁逆流やショックの有無を確認。
中に観察
心電図、徐脈、低血圧、意識・尿量・四肢の灌流を観察。
反応・再評価
痛み・心拍・血圧が管理され、臓器血流が保たれるか。
適応・注意
禁忌や循環状態で選択が変わる。全員を同じ心拍・血圧まで下げず、個別指示を確認する。

Ca拮抗薬などの血管拡張薬

目的
心拍管理などと組み合わせて過度の血圧を下げる。
前に確認
指示された目標、心拍管理の状況、希釈・ポンプ速度、測定部位を確認。
中に観察
過度の低血圧、頻脈、酸素化と末梢循環、刺入部を観察。
反応・再評価
血圧と臓器灌流を同時に評価し、投与終了後の再上昇も確認。
適応・注意
代表例はニカルジピン。解離の血圧管理では心拍・壁負荷も評価し、血管拡張だけを一律に先行させない。
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鎮痛薬

目的
強い痛みと交感神経の緊張を和らげる。
前に確認
痛み、意識・呼吸数・循環、腎肝機能と併用薬を確認。
中に観察
オピオイド等では呼吸抑制、眠気、低血圧、悪心を観察。
反応・再評価
痛みの変化と呼吸・循環を再確認。鎮痛後も虚血徴候を追う。
適応・注意
製剤・投与経路・量は病状に合わせて指示される。痛みが消えたことだけで解離の安定を判断しない。

A型の外科治療

目的
上行大動脈などを修復し、破裂や関連する血流障害へ対処する。
前に確認
意識・四肢所見、循環、出血リスク、抗血栓薬と最終摂取を引き継ぐ。
中に観察
術前待機・搬送中もモニターと緊急対応体制を維持する。
反応・再評価
術後の出血、心機能、神経・腎・四肢の血流、呼吸を再評価。
適応・注意
原則として緊急の外科評価。虚血臓器や全身状態によって手順・範囲を専門チームが判断。

B型へのステントグラフト・外科的介入

目的
破裂や血流障害などに対処し、大動脈内の血流を改善する。
前に確認
解離範囲と分枝、腎機能、下肢の脈・感覚・運動、穿刺部を確認。
中に観察
循環、出血と穿刺側の血流を監視する。
反応・再評価
新しい下肢麻痺、腎機能悪化、穿刺部出血、痛みを再評価。
適応・注意
合併症や解剖、高リスク所見で適応・時期を判断。B型全例に直ちに行う治療ではない。

検査の意味と読み方

造影CT

解離範囲、真腔・偽腔、破裂と分枝血流を評価。

組み合わせ・推移:画像と臓器症状を結びつける。造影歴・腎機能を共有し、緊急検査の可否は専門チームが判断。

心エコー

心膜液、心機能、大動脈弁逆流などを確認。

組み合わせ・推移:心膜液の量だけではタンポナーデを判断しない。描出範囲には限界がある。

Dダイマー

凝固・線溶の活性化を反映する補助情報。

組み合わせ・推移:上昇は非特異的で、単独で診断・除外しない。症状と事前の疑い、画像評価を優先する。

Dダイマーの検査詳細

Hb

出血や希釈などの影響を追う。

組み合わせ・推移:急な出血でも初期値だけでは量を判断できない。血圧・意識・画像、輸液前後の推移と合わせる。

Hbの検査詳細

乳酸

臓器低灌流などを疑う補助情報。

組み合わせ・推移:上昇の原因は一つではなく、正常でも局所虚血を除外しない。腹部・四肢所見と経時変化を合わせる。

乳酸の検査詳細

クレアチニン

腎機能の推移を確認。

組み合わせ・推移:腎血流障害・全身低灌流・造影後などを評価し、尿量と普段の値を合わせる。

クレアチニンの検査詳細

心電図トロポニン

冠動脈血流障害や心筋傷害を調べる。

組み合わせ・推移:虚血所見があっても解離を否定しない。胸背部痛・脈・神経所見と合わせて緊急共有。

TnIの検査詳細

TnTの検査詳細

報告:SBARで情報をそろえる

S|急な変化

  • 痛みの再燃・移動、意識・呼吸・循環、新しい麻痺や腹部・下肢症状と発症経過。

B|解離と治療

  • A型・B型、解離範囲、分枝障害、処置内容、目標血圧、酸素・鎮痛・降圧薬の条件。

A|部位と推移

  • 血圧の測定側と前値・現在値、心拍、神経・四肢所見、尿量、介入と反応。

R|緊急に確認

  • 破裂・心タンポナーデ・臓器虚血の再評価、画像・治療方針、薬の調整と搬送の要否。

患者・家族への説明

急な症状は救急へ

突然の強い胸や背中の痛み、失神、新しい麻痺・手足の冷感などは、薬を追加して様子を見るのではなく救急要請する。

血圧と薬を継続して確認

家庭血圧と症状を記録し、薬の自己中断・増量を避ける。ふらつきや脈が遅くなる変化は相談する。

活動は個別に段階化

回復に合わせた歩行や生活動作を相談。強いいきみや息こらえを伴う力仕事の可否を確認し、便秘対策も整える。

定期画像を続ける

手術後や症状がない時期も残った大動脈の変化を追う。受診・画像の予定と連絡先を確認する。

参考文献

  1. 国立循環器病研究センター:大動脈瘤と大動脈解離

    2025年4月更新。病態、A型・B型と長期の経過観察。

  2. ACC:2022大動脈疾患ガイドラインの要点

    急性大動脈症候群の心拍・血圧管理、B型の介入条件と画像フォロー。

  3. 日本循環器学会ほか:大動脈瘤・大動脈解離ガイドライン2020 英語版

    真腔の圧迫と分枝への進展による血流障害。

  4. PMDA:ペルジピン注射液

    2025年8月改訂版。血圧・心拍の監視、過降圧、終了後の再上昇。

資料確認:2026年9月16日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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