与薬の技術更新・文献確認:2026年8月28日

輸血

バッグより先に患者を見る。照合で取り違えを防ぎ、開始直後の小さな変化から副反応を見つける学習ノート。

学習用。製剤の選択、適合試験、投与量・速度、ルート、加温、前投薬、副反応時の検査と治療は、医師の指示、輸血部門、電子添文、採用製品、院内手順を優先する。

注意事項

一致しなければ開始しない
  • 患者、指示、適合票、製剤本体、電子照合のどれかが一致しない
  • 製剤名、血液型、製造番号、有効期限、適合試験などに疑問がある
  • バッグの破損、漏れ、変色、凝固、著しい凝集など外観異常がある
  • 輸血前の状態を確認できない、緊急連絡先や観察体制が整っていない
副反応を疑ったら直ちに輸血を止める
  • 呼吸困難、喘鳴、SpO₂低下、チアノーゼ
  • 血圧低下、意識変化、胸痛、腰背部痛、動悸
  • 発熱、悪寒・戦慄、熱感、強い不安や「何かおかしい」という訴え
  • 蕁麻疹、発疹、掻痒、顔面・口唇の腫脹
  • 悪心・嘔吐、赤褐色尿、出血傾向、点滴部痛

何を補う輸血か

赤血球製剤は酸素運搬、血小板製剤は一次止血、新鮮凍結血漿は凝固因子を補うことを示す図
不足している成分と治療目標を確認する。検査値だけでなく、出血、循環、症状を合わせる。
  • 赤血球製剤:赤血球を補い、酸素運搬能を改善する
  • 血小板製剤:血小板を補い、一次止血を支える
  • 新鮮凍結血漿(FFP):複数の凝固因子を補う
  • アルブミン製剤:血漿分画製剤。輸血用血液製剤とは管理・適応が異なる

輸血は補充療法。原因治療の代わりにはならない。製剤の種類、単位数、容量は製品ごとに異なるため、製品表示と指示で確認する。

輸血前の検査と準備

患者確認からABO・RhD、不規則抗体、交差適合試験へ進む図

検査名より、どの安全を確かめるか

  • ABO・RhD血液型:患者の血液型を確認する
  • 不規則抗体検査:臨床的に重要な赤血球抗体を調べる
  • 交差適合試験:患者血液と赤血球製剤の適合性を確認する
  • T&S・コンピュータクロスマッチ:条件を満たす場合に用いる準備・照合方法
  • 検体採取時から患者を確実に識別し、採血後にベッドサイドで表示する
  • 輸血歴、妊娠歴、既往抗体、過去の副反応を確認する
  • 検体の有効期間や再採血条件は患者歴と院内手順で変わる
  • 血小板・FFPを含め、必要な検査と適合基準は製剤・状況で異なる

開始前の観察

輸血前に体温、血圧、脈拍、呼吸、SpO2、皮膚、尿、体液量を確認する図

輸血前の基準をつくる

  • 体温、血圧、脈拍、呼吸数、可能ならSpO₂
  • 意識、顔色、呼吸音、呼吸困難、胸痛、悪寒、疼痛
  • 発疹、掻痒、浮腫、頸静脈怒張、体重、尿量
  • 静脈路の逆血・滴下、疼痛、腫脹、漏れ、固定
  • 心不全、腎機能低下、体液過剰、重いアレルギーのリスク

すでに発熱、発疹、呼吸困難などがある場合は、開始後の変化と区別できるよう記録し、開始してよいか確認する。

必要物品

輸血用血液製剤と適合票の図
指示された製剤製剤本体、適合票・伝票、患者識別情報。外観と表示を確認。
フィルター付き輸血セットの図
適合する輸血セット製剤ごとに指定された、ろ過装置付きの輸血用器具。
血圧計、体温計、パルスオキシメータの図
観察用具体温計、血圧計、聴診器、パルスオキシメータなど。
手袋、生理食塩液、廃棄容器の図
安全用品手袋、生理食塩液、接続部消毒用品、廃棄容器。院内急変物品も確認。
  • 末梢静脈カテーテルのゲージを一律に決めない
  • 患者の血管、製剤、必要速度、カテーテル・機器の性能から選ぶ
  • 輸液セットを輸血セットの代用にしない
  • 輸血用血液製剤は単独投与が原則。他薬剤と混注しない

照合はベッドサイドで閉じる

患者、指示、適合票、製剤本体をベッドサイドで照合し接続する安全の鎖を示す図
ナースステーションで合っていても、接続する患者が違えば事故になる。最後の照合は患者のそばで行う。
  • 本人に氏名と生年月日などを名乗ってもらい、リストバンドと照合する
  • 患者、指示、適合票、製剤本体、電子照合を一患者ずつ確認する
  • 患者氏名、血液型、製剤名、製造番号、有効期限、適合試験結果、照射表示などを確認する
  • 複数名確認と電子照合は、院内手順どおり実施する
  • 確認後に患者・製剤から離れた場合は、接続前に再照合する

輸血の手順

  1. 輸血の指示、同意、患者、製剤を確認する図
    指示・同意・体制を確認

    目的、製剤、単位数、速度、検査、同意、過去の副反応、連絡方法を確認。緊急時は救命を優先する運用がある。

  2. 輸血バッグの表示、期限、外観を確認する図
    製剤を受け取り、外観と表示を確認

    保管・搬送状態、破損、漏れ、変色、凝固、著しい凝集、期限を確認。異常があれば使用しない。

  3. 患者のリストバンドと輸血バッグをベッドサイドで照合する図
    ベッドサイドで患者と製剤を照合

    一患者ずつ、複数名または電子照合を用いて、患者・指示・適合票・製剤本体を確認。

  4. 専用輸血セットを輸血バッグと静脈路へ接続する図
    輸血セットを接続

    接続部を清潔に扱い、指定された方法でプライミング。患者側ルートの開通と刺入部を確認する。

  5. 輸血開始後5分間はベッドサイドを離れず患者を観察する図
    最初の5分間はベッドサイドを離れない

    ゆっくり開始し、患者の訴え、意識、皮膚、呼吸、脈拍、血圧を観察。急性反応を疑えば直ちに止める。

  6. 輸血開始15分後とその後に状態を再評価する図
    15分頃に再評価し、その後も継続

    バイタル、症状、刺入部、滴下、残量を確認。速度変更は患者状態と指示を再確認して行う。

  7. 輸血終了後に患者とバッグ表示を再確認して記録する図
    終了後も観察し、記録

    患者、製剤、製造番号、終了時刻、投与量、バイタル、症状を確認。遅れて出る副反応も説明する。

速度の読み方
  • 日本赤十字社は、一般成人の例として開始10~15分を約1mL/分、その後を約5mL/分としている
  • 心不全、腎機能低下、高齢、小児、急速輸血などへ一律に当てはめない
  • 滴下数への換算は輸血セットの滴数、ポンプ、製剤、指示で変わる
  • 時間だけを優先せず、患者の耐容性と製剤の使用条件を確認する

観察の時間軸

輸血前、開始から5分、15分、その後、終了後の観察を時間軸で示した図
測定時刻を埋めるだけにしない。前の状態から何が変わったかを、患者の言葉と一緒に見る。
  • 輸血前:副反応と区別するための基準値と症状を記録
  • 開始~5分:ベッドサイドを離れず、急性溶血、アナフィラキシー、細菌感染などを警戒
  • 15分頃:患者のそばでバイタルと全身状態を再評価し、速度・刺入部・製剤を確認
  • その後:院内間隔で継続観察。患者に知らせてほしい症状を伝える
  • 終了後:終了時だけでなく、TRALI、TACO、感染、遅発性反応を意識して経過を見る

症状から考える副反応

発熱悪寒、皮膚症状、呼吸困難、血圧変化、疼痛、赤褐色尿を示す図

一つの症状を一つの原因に決めない

  • 発熱・悪寒:発熱性非溶血性反応、溶血、細菌感染など
  • 蕁麻疹・掻痒:アレルギー反応。呼吸・循環変化を同時確認
  • 呼吸困難・SpO₂低下:TRALI、TACO、アナフィラキシーなど
  • 血圧低下・疼痛・赤褐色尿:急性溶血などを含む重篤反応
  • 高熱・戦慄・ショック:細菌汚染を含めて緊急対応
TACOとTRALIはどちらも呼吸困難を起こし、体液量や血圧などを合わせて評価する図

TACOとTRALIを呼吸困難だけで決めない

  • TACO:循環過負荷。高血圧、頸静脈怒張、浮腫、体液過剰などが手がかり
  • TRALI:輸血関連急性肺障害。低酸素と肺水腫像を生じ、発熱・低血圧を伴うことがある
  • 心不全歴、輸液量、体重、尿量、聴診、画像、検査を合わせる
  • ベッドサイドで断定せず、輸血を止めて緊急評価する

副反応を疑ったときの初動

輸血を止め、患者を評価し、応援を呼び、照合と記録を行う流れの図

止める → 見る → 呼ぶ → 確かめる

  1. 輸血を直ちに中止し、自己判断で再開しない
  2. 患者の意識・気道・呼吸・循環、バイタル、症状を評価
  3. 応援を呼び、医師と輸血部門へ連絡
  4. 患者、指示、製剤、製造番号、適合票を再照合
  5. 静脈路は院内手順に従い、新しいセットで生理食塩液などへ切り替える
  6. バッグと輸血セットを捨てず、検体採取・返却・培養などの指示を確認
  7. 症状、時刻、投与量、対応、報告先、患者経過を記録

終了後・遅れて出る変化

輸血終了後から数日以降にも発熱、黄疸、尿色変化、発疹、息切れなどを確認する図

バッグが空になっても観察は終わらない

  • 発熱、悪寒、発疹、息切れ、浮腫、体重増加
  • 黄疸、褐色尿、尿量低下、貧血症状の再出現
  • 出血の持続、期待した検査値・症状改善が得られない
  • 退院後に症状が出たときの連絡先と、輸血を受けたことの伝え方

遅発性溶血、同種抗体、感染症、輸血後GVHDなど、発症時期が異なる有害事象がある。症状と輸血歴を結びつけて共有する。

報告・記録

輸血製剤の製造番号、時刻、投与量、観察、対応を記録する図

患者の経過と製剤を追跡できる形にする

  • 目的、製剤名、血液型、製造番号、単位数・投与量
  • 開始・終了時刻、速度変更、使用ルートと機器
  • 輸血前、5分、15分頃、継続中、終了後のバイタルと症状
  • 副反応の有無、発症時刻、残量、対応、医師・輸血部門への報告
  • 患者説明、効果判定、退院後の連絡事項

特定生物由来製品の患者氏名・住所、製品名・製造番号、投与日などの記録は、少なくとも使用日から20年を下回らない期間の保管が必要。施設の輸血管理記録へ確実に残す。

出典