食事援助技術更新・文献確認:2026年8月29日

嚥下間接機能訓練

食べ物を使わず、評価で見つけた弱い機能へ働きかける。訓練名ではなく「何を改善したいか」から選ぶ学習ノート。

学習用。嚥下障害の原因と重症度は一人ずつ異なる。医師・歯科医師の診断と、言語聴覚士・歯科衛生士・看護師など多職種の評価、院内手順を優先する。間接訓練を行えたことは、飲食の安全を保証しない。

間接訓練は「食物を使わない」

評価を起点に、食物を使わない間接訓練と食物を使う直接訓練を分けた図
間接訓練は比較的リスクが低いが、疲労や呼吸状態を見ずに一律に行うものではない。直接訓練への移行は別に判断する。
  • 目的:姿勢、口唇・舌・頬、咽頭、喉頭挙上、気道防御など、嚥下を支える機能を整える
  • 対象:食物を使う練習がまだ難しい人だけでなく、直接訓練と組み合わせて特定の機能を強化したい人
  • 限界:訓練中にむせなくても、食物・水分を安全に飲み込めるとは限らない

始める前の評価

「今日できる状態か」を先に見る
  • 覚醒、指示理解、表情、疲労、訓練への同意
  • 呼吸数、呼吸困難、SpO₂、痰、咳の強さ、湿性嗄声
  • 口腔内の乾燥・汚染、疼痛、出血、義歯、舌・口唇の動き
  • 頸部疾患、術後、放射線治療歴、心肺疾患、血圧変動
  • 評価で推定された障害部位と、この訓練で狙う機能

口腔ケア、安楽な座位、必要な吸引・酸素などを先に整える。指示に従えない、全身状態が不安定、分泌物を処理できないときは、負荷をかける訓練を始めない。

弱い機能から訓練を選ぶ

口腔、舌根と咽頭、舌骨上筋群、気道防御の機能低下と代表的訓練の対応図
同じ「飲み込みにくい」でも標的は異なる。複数を漫然と組み合わせず、評価した機能へ必要な負荷を選ぶ。

効果の根拠は訓練・疾患・対象者によって差がある。回数や保持時間は固定せず、評価した専門職が個別に設定する。

準備運動・口腔機能の訓練

頸部・肩部の運動

体幹を安定させ、肩の挙上・回旋、頸部の前後屈・側屈・回旋を痛みのない範囲でゆっくり行う。頸椎疾患、めまい、術後、頸部血管病変のリスクがある人へ、強い伸展や回旋を行わない。

顎・口唇・舌・頬の運動

開閉口、口唇を閉じる・すぼめる・横へ引く、舌を前後左右へ動かす、頬を膨らませる。可動域、左右差、速度、疲労を見ながら、必要時は軽い抵抗を加える。痛みや顎関節音が増える負荷は中止する。

構音・発声、咳

「パ・タ・カ」などの発音は口唇・舌の動きと呼気を確認しやすい。発声、随意咳、ハフィングは声門閉鎖や排痰能力の観察にもなる。長時間の大声や息こらえで、嗄声・めまい・呼吸苦を起こさない。

Think swallow(嚥下の意識化)

口腔内の唾液、舌の位置、飲み込む合図へ注意を向け、意識して空嚥下する。食物を用いると直接訓練になるため、摂食条件の確認が必要になる。

専門評価をもとに行う代表的訓練

冷刺激・アイスマッサージ

冷却した綿棒などで前口蓋弓周囲を刺激し、空嚥下を促す方法。口腔内の感覚、粘膜、認知、感染対策を確認する。氷片を口に含む「氷なめ」とは誤嚥リスクが異なり、安易に置き換えない。長期的に嚥下反射を改善する効果は明確ではない。

シャキア訓練(頭部挙上訓練)・嚥下おでこ体操

舌骨上筋群へ負荷をかけ、舌骨・喉頭の挙上と食道入口部の開大を狙う。シャキア訓練は仰臥位で肩を床につけたまま頭を上げる。おでこ体操は額と手で押し合う。頸部痛、心肺負荷、血圧、疲労を確認し、回数・保持時間は個別に処方する。

声門上嚥下・声門内転訓練・ブローイング

息こらえ、嚥下、咳払いを組み合わせる声門上嚥下は、嚥下中の気道閉鎖を補う手技。声門内転訓練や吹く練習も、喉頭閉鎖・呼気・鼻咽腔閉鎖など評価した標的に合わせる。心疾患・呼吸器疾患では強い息こらえによる負荷へ注意する。

アンカー強調嚥下・努力嚥下

舌を口蓋へ強く押しつけるなどして、舌根部や咽頭の圧を高めることを狙う。力み過ぎ、疲労、顎や舌の痛みを避ける。

舌前方保持嚥下法(Masako手技)

舌先を前歯で軽く保持して空嚥下し、咽頭後壁の運動を促す。食塊を保持・送り込む力が低下するため、食物や水分を使って行わない。乾燥・粘膜損傷にも注意する。

口腔機能維持と唾液腺マッサージ

口腔清掃、保湿、義歯管理、会話や口腔運動は、廃用と乾燥を防ぎ、訓練しやすい環境をつくる。耳下腺・顎下腺・舌下腺周囲のやさしいマッサージは唾液分泌を促す目的で用いられるが、嚥下の安全性を直接証明する訓練ではない。

腫脹、発赤、強い痛み、急性炎症、腫瘍・術後部位、放射線治療部位がある場合は、マッサージの可否を確認する。

1回の訓練を安全に組み立てる

開始前評価、標的を一つ選ぶ、訓練と休息、再評価、記録の順で進める図
予定回数をこなすことより、反応を見て負荷を調整することが大切。
  1. 開始前の基準を取る

    覚醒、呼吸、SpO₂、声、唾液処理、疼痛、疲労を確認する。

  2. 今日の標的を共有する

    「舌の動き」「喉頭挙上」など目的と方法を短く説明する。

  3. 少量から実施し、休む

    動作の正確さ、代償運動、呼吸、表情を見て、セット間に休息を入れる。

  4. 終了後に同じ項目を再評価する

    声や呼吸の悪化、疲労、疼痛があれば次回の負荷を下げ、必要時に報告する。

中止して報告するサイン

「食べていないから安全」と決めつけない
  • 新しい呼吸困難、SpO₂低下、チアノーゼ、胸痛、動悸
  • 唾液で続く咳、湿性嗄声の出現・増悪、分泌物を処理できない
  • めまい、冷汗、失神しそうな感覚、強い頭痛
  • 強い頸部・顎・舌の痛み、口腔内出血、神経症状
  • 覚醒低下、指示理解の低下、著しい疲労、拒否

報告・記録

  • 実施前の覚醒、呼吸、SpO₂、声、唾液処理、口腔内、疼痛・疲労
  • 訓練の標的、方法、姿勢、回数・保持時間・休息、介助量
  • 動作の正確さ、左右差、代償運動、理解・自発性
  • 実施中・後の咳、湿性嗄声、呼吸変化、疼痛、めまい、疲労
  • 中止理由、報告先、負荷調整、多職種で決めた次の方針

出典