与薬の技術 更新・文献確認:2026年7月26日

注射

皮内・皮下・筋肉内・静脈内注射の違いと、準備、実施、観察を整理した学習ノート。

学習用。実際の手技では、薬剤・注射器・注射針の電子添文、院内手順、指導者の指示を優先する。

注意事項

準備前
  • 指示と患者を照合
  • 薬剤名、目的、用量、単位、投与経路、投与時刻、投与速度を確認
  • アレルギー歴、副作用歴、禁忌、出血傾向、抗血栓薬の使用を確認
  • 電子添文で希釈方法、配合変化、投与部位、投与速度、投与後の注意を確認
  • 疑義があれば準備・投与を止めて確認
感染・誤投与の防止
  • 清潔な調製区域で無菌操作
  • 注射針と注射器は1患者・1回ごとに新品を使用
  • 使用済みの針・注射器でバイアルへ再穿刺しない
  • 単回使用のアンプル・バイアルの残液を他患者へ使用しない
  • 調製後の注射器へ患者名、薬剤名、用量などを表示
  • 使用直前に患者、薬剤、用量、経路、時刻を再確認
穿刺・投与時
  • 安全機構付き器材を使用できる場合は選択
  • 疼痛、電撃痛、しびれ、強い抵抗があれば直ちに中止
  • 注射針をリキャップしない
  • 使用後は手の届く位置にある耐貫通性容器へ直ちに廃棄
  • 投与後の揉み方・圧迫は薬剤ごとに確認。一律にマッサージしない
  • アナフィラキシーなどの急変へ対応できる体制で実施

目的

  • 薬剤を目的とする組織・血管内へ投与
  • 経口投与が難しい場合に薬剤を投与
  • 必要な作用発現時間や持続時間に合わせて投与経路を選択
  • 検査・治療に必要な薬剤を確実に投与

観察項目

  • 意識、呼吸、脈拍、血圧、SpO2などの投与前後の変化
  • 発疹、掻痒感、顔面・口唇の腫脹、喘鳴、呼吸困難
  • 悪心、嘔吐、めまい、冷汗、気分不快
  • 穿刺部の疼痛、発赤、腫脹、熱感、硬結、出血
  • しびれ、知覚異常、運動障害
  • 薬剤の効果と予測される副作用
  • 静脈内投与では注入抵抗、漏れ、静脈炎、血管外漏出の徴候

注射の種類

針先をどの層へ届けるかで、刺入角度と薬剤の吸収速度が変わる。

皮内注射の刺入角度 針のベベルを上にして皮膚とほぼ平行に5度から15度で刺入し、針先を真皮内へ置く模式図 5〜15° 表皮 真皮 皮下組織 筋層

皮内注射

  • 到達層:真皮内
  • 角度:5〜15度
  • ベベルを上にして浅く刺入
皮下注射の刺入角度 皮膚から45度を基本として針先を皮下組織へ置く模式図 45°が基本 表皮 真皮 皮下組織 筋層

皮下注射

  • 到達層:皮下組織
  • 角度:45度が基本
  • 針長・皮下脂肪厚・専用器具で調整
筋肉内注射の刺入角度 皮膚に対して90度で刺入し、針先を筋層へ置く模式図 90° 表皮 真皮 皮下組織 筋層

筋肉内注射

  • 到達層:筋層
  • 角度:90度
  • 体格と部位に合う針長を選択
静脈内注射の投与経路 皮下組織内の静脈へ留置されたカテーテルから薬剤を投与する模式図 静脈 表皮 真皮 皮下組織 筋層

静脈内注射

  • 到達部位:静脈内
  • 確保済みの静脈路などから投与
  • 投与速度の影響が大きい

模式図。皮下・筋肉内の角度はワクチン投与資料などに基づく一般値。薬剤専用デバイスや電子添文に指定がある場合は、その方法を優先する。

皮内注射

必要物品

  • 指示された薬剤
  • 1mL注射器または専用注射器
  • 指示に適合する注射針
  • 皮膚消毒薬
  • 手袋
  • 処置用シーツ
  • 耐貫通性廃棄容器
  • 廃棄物容器

手順

  1. 指示・患者・薬剤を確認

    目的、投与量、部位、判定方法を確認。患者へ説明する。

  2. 薬剤を準備

    無菌操作で正確に調製。注射器内の気泡を除く。

  3. 部位を選択

    発赤、皮疹、瘢痕、浮腫、感染のない部位を選ぶ。

  4. 手指衛生・消毒

    手指衛生後に手袋を装着。皮膚を消毒し、乾燥させる。

  5. 刺入

    皮膚を張る。ベベルを上に向け、5~15度で真皮内へ浅く刺入する。

  6. 薬剤を注入

    指示量を緩徐に注入。注入部の膨疹を確認する。

  7. 抜針・廃棄

    針を抜き、揉まない。針は直ちに耐貫通性容器へ廃棄する。

  8. 観察・記録

    部位、薬剤、投与量、日時、皮膚反応、患者の状態を記録する。

皮下注射

必要物品

  • 指示された薬剤
  • 薬剤に適合する注射器または専用注入器
  • 薬剤・体格に適合する注射針
  • 皮膚消毒薬
  • 手袋
  • 処置用シーツ
  • 耐貫通性廃棄容器
  • 廃棄物容器

手順

  1. 指示・患者・薬剤を確認

    投与部位、前回部位、薬剤別の注意を確認。患者へ説明する。

  2. 薬剤・器材を準備

    薬剤に適合する注射器と針を選ぶ。専用注入器は電子添文どおりに準備する。

  3. 部位を選択

    腹部、上腕、大腿などから選択。発赤、硬結、瘢痕、浮腫、感染部位を避ける。反復投与では部位をローテーションする。

  4. 手指衛生・消毒

    手指衛生後に手袋を装着。皮膚を消毒し、乾燥させる。

  5. 刺入

    必要に応じて皮膚をつまむ。皮下組織へ刺入する。角度は針長、皮下脂肪厚、器材の指示に合わせる。

  6. 薬剤を注入

    薬剤別の方法で注入。逆血確認の要否や注入後の待機時間は電子添文・院内手順に従う。

  7. 抜針・廃棄

    針を抜き、必要時は軽く圧迫。マッサージの可否は薬剤ごとに確認する。

  8. 観察・記録

    部位、薬剤、投与量、日時、局所・全身反応を記録する。

筋肉内注射

必要物品

  • 指示された薬剤
  • 薬剤量に適合する注射器
  • 薬剤・部位・体格に適合する注射針
  • 皮膚消毒薬
  • 手袋
  • 処置用シーツ
  • 止血用ガーゼ
  • 耐貫通性廃棄容器
  • 廃棄物容器

手順

  1. 指示・患者・薬剤を確認

    電子添文で筋肉内投与が可能か確認。出血リスク、投与量、部位を評価する。

  2. 薬剤を準備

    無菌操作で調製。薬剤の粘度と投与量を踏まえて針・注射器を選ぶ。

  3. 部位を選択

    年齢、筋肉量、皮下脂肪厚、神経・血管の走行、薬剤量を考慮。安全なランドマークを確認する。

  4. 体位を整える

    転倒や急な動きを防げる体位にする。対象筋を弛緩させる。

  5. 手指衛生・消毒

    手指衛生後に手袋を装着。皮膚を消毒し、乾燥させる。

  6. 刺入

    皮膚を安定させ、筋層へ90度で刺入。電撃痛やしびれがあれば直ちに中止する。

  7. 薬剤を注入

    薬剤に定められた速度で注入。吸引の要否は薬剤、目的、部位、院内手順に従う。

  8. 抜針・止血・廃棄

    針をまっすぐ抜き、必要に応じてガーゼで圧迫。マッサージの可否は薬剤ごとに確認し、針は直ちに廃棄する。

  9. 観察・記録

    部位、薬剤、投与量、針の規格、日時、局所・全身反応を記録する。

静脈内注射

ここでは、確保済みの末梢静脈路からの単回投与を扱う。静脈路の穿刺・固定は「末梢静脈路確保」を参照。

必要物品

  • 指示された薬剤
  • 薬剤量に適合する注射器
  • 指示された希釈液
  • 消毒用資材
  • 手袋
  • 生理食塩液入りシリンジ
  • 耐貫通性廃棄容器
  • 廃棄物容器

手順

  1. 指示・患者・薬剤を確認

    投与量、希釈、投与速度、配合変化、前後のフラッシュ、モニタリングを確認する。

  2. 薬剤を準備

    清潔な調製区域で無菌的に調製。注射器へ必要事項を表示する。

  3. 静脈路を観察

    疼痛、発赤、腫脹、漏れ、静脈炎、接続部の異常がないか確認する。

  4. 投与経路を照合

    対象のルートと接続口を始点から患者側までたどる。同時投与薬との配合変化を確認する。

  5. 手指衛生・接続口の消毒

    手指衛生後に手袋を装着。接続口を院内手順どおりに消毒し、乾燥させる。

  6. 開通性を確認

    院内手順に沿って確認。疼痛、腫脹、漏れ、抵抗があれば投与しない。

  7. 薬剤を投与

    定められた速度で投与。患者と穿刺部を観察する。抵抗時は押し込まない。

  8. 投与後の処置

    薬剤と院内手順に従ってフラッシュ。接続部を確実に閉鎖する。

  9. 観察・記録

    薬剤、投与量、経路、速度、日時、穿刺部、患者の反応を記録する。

関連知識

代表的な刺入部位

成人の代表的な候補部位を簡略化した模式図。実際は薬剤、年齢、体格、組織の厚さ、神経・血管の走行を確認して選ぶ。

上肢の代表的な刺入部位 三角筋は筋肉内、上腕後面は皮下、前腕内側は皮内注射の候補部位であることを示す模式図 三角筋 筋肉内 上腕後面 皮下 前腕内側 皮内

上肢

三角筋、上腕後面、前腕内側

腹部の皮下注射部位 腹部の皮下組織を候補とし、臍周囲などは薬剤や専用器具の指示を確認することを示す模式図 腹部 皮下 臍周囲などは薬剤の指示を確認

腹部

皮下注射で用いる代表的な部位

大腿・殿部の代表的な刺入部位 中殿筋の安全な部位は筋肉内、大腿前外側は皮下または筋肉内注射の候補であることを示す模式図 中殿筋の 安全な部位 筋肉内 大腿 前外側 皮下/筋肉内

大腿・殿部

投与経路に合わせて部位を選択

投与部位を選ぶ視点

  • 薬剤で承認された投与経路・投与部位
  • 年齢、体格、筋肉量、皮下脂肪厚
  • 神経・血管・骨の位置
  • 発赤、硬結、瘢痕、浮腫、感染の有無
  • 前回の穿刺部位と局所反応
  • 手術歴、リンパ節郭清、麻痺、シャントなど

逆血確認は一律ではない

  • 投与経路、薬剤、部位、目的で要否が異なる
  • 推奨部位へのワクチン筋肉内・皮下注射では、一般に吸引は不要
  • ワクチン以外へ同じ判断を一律に当てはめない
  • 電子添文、最新ガイドライン、院内手順を確認

主な有害事象・合併症

アナフィラキシー
皮膚症状、呼吸器症状、血圧低下、消化器症状など。疑えば直ちに応援要請と緊急対応。
血管迷走神経反射
顔面蒼白、冷汗、悪心、徐脈、血圧低下、失神など。転倒を防ぎ、状態を評価。
神経損傷
電撃痛、しびれ、知覚・運動障害など。症状時は直ちに中止。
出血・血腫
皮下出血、腫脹、持続出血など。出血リスクを事前評価し、確実に圧迫。
感染・膿瘍
発赤、熱感、疼痛、腫脹、排膿、発熱など。無菌操作と適切な部位選択が重要。
局所反応
疼痛、発赤、腫脹、硬結など。薬剤特性と経過を踏まえて評価。
血管外漏出
静脈内投与薬が血管外へ漏出。投与を止め、薬剤別手順で対応。
針刺し損傷
リキャップや廃棄時に発生しうる。発生時は洗浄し、院内の曝露後手順へ直ちに従う。

出典