運動器

大腿骨頸部骨折

転倒後の鼠径部痛では、歩ける・痛みが軽いことだけで骨折を除外しない。骨折部のずれと術式を確認し、疼痛緩和、安全な移動、手術前後の全身観察、生活機能の回復へつなぐ。

主な症状
鼠径部痛 動けない 全身影響
代表的な薬
鎮痛薬 骨粗鬆症治療薬
検査値UP
検査値DOWN
Hb

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

転位が少ない頚部骨折

転位が少ない頚部骨折。位置が保たれていても骨折はある転倒・ひねり → 頚部に骨折骨頭骨片のずれが少ない頚部の骨折線赤線:血流の経路位置が保たれていても骨折はある痛み・動作 + 骨折型・荷重指示を確認
  1. 転倒・ひねりなどで頚部に骨折が生じる
  2. 骨片の位置が保たれていても、荷重でずれが進む可能性
  3. 鼠径部痛・動作の変化 → 無理な歩行確認を避ける

観察へ:骨接合術などが検討される。手術前後とも荷重条件を確認し、痛みだけで安定性を判断しない。

転位を伴う頚部骨折

転位を伴う頚部骨折。骨頭への血流も障害されうる転倒・ひねり → 頚部に骨折骨頭骨片がずれる頚部の骨折線赤線:血流の経路骨頭への血流も障害されうる痛み・動作 + 骨折型・荷重指示を確認
  1. 骨折部がずれ、支持性が損なわれる
  2. 骨頭へ向かう血流も障害され、骨癒合や骨頭の生存に影響
  3. 強い痛み・荷重困難。後にも骨癒合不全・骨頭壊死へ注意

観察へ:人工骨頭・人工股関節が検討される一方、若年者などでは骨頭温存を目指すこともある。年齢だけで決めず骨折型・活動性・全身状態を確認。

ここでは関節包内の頚部骨折を扱う。転子部骨折はより下方の別の骨折で、術式も異なる。転位は骨片のずれ。図は位置と血流の関係を示す模式図で、画像診断や骨折分類の代用ではない。

症状から観察・再確認へ

鼠径部痛動作困難

見る・聞く
受傷機転、痛む部位、安静時と介助時の痛み、脚の見た目を確認。歩行や股関節の回旋を無理に試さない。
何を反映するか
骨折部への負荷や術後の創痛を反映。新たな痛みは再骨折・脱臼なども評価する。
普段と比較
受傷前の歩行、鎮痛前後、同じ介助条件での表情・痛みを比較。言葉で伝えにくい場合は防御動作も見る。
悪化を疑う変化
突然の痛み増強、変形、できていた移乗ができない。
再確認
動作を中止し支持して報告。鎮痛後も新しい変形や痛みが残らないか再確認。

下肢の冷感しびれ

見る・聞く
足の色・温かさ、触れる脈、足趾の動きと感覚を左右で比較。麻酔・ブロックの範囲と時間を確認。
何を反映するか
末梢の循環・神経状態。股関節の骨頭血流は足の脈だけでは判断できない。
普段と比較
受傷時・術前・術後の記録と、麻酔からの回復経過。
悪化を疑う変化
新しい冷感・蒼白、脈の変化、増えるしびれや運動低下。
再確認
圧迫や肢位を確認し速やかに診察を依頼。無理な整復は行わず、変化時刻を記録。

顔色不良立ちくらみ

見る・聞く
意識、呼吸数、脈・血圧、皮膚、創部・ドレーン、尿量を確認。離床時は姿勢との関係を見る。
何を反映するか
出血・貧血、脱水、薬剤、起立性低血圧などの可能性。出血量の外見だけで決めない。
普段と比較
術前後のHb、出納、安静時と座位、輸液・鎮痛薬の変更。
悪化を疑う変化
冷汗・意識低下、血圧低下が続く、出血増加、息苦しさ。
再確認
離床を中止し安全な体位と呼吸循環を確保。重い変化は応援要請し、採血・輸液等を指示に沿って準備。

注意力反応の変化

見る・聞く
普段の会話・注意力と、今の受け答え、眠気、落ち着かなさを比較。痛み、酸素化、排泄、睡眠、薬を確認。
何を反映するか
せん妄や薬剤の影響、低酸素などの可能性。静かに反応が乏しくなる変化も見逃さない。
普段と比較
家族等から受傷前の状態を確認し、時間帯による変動と鎮痛前後を記録。
悪化を疑う変化
急な意識低下、呼吸の異常、自己抜去や転倒につながる行動。
再確認
安全確保と原因評価を依頼。眼鏡・補聴器、見通しのある説明、睡眠環境を整え反応を追う。

下肢腫脹息切れ

見る・聞く
左右差のある腫れ・痛みと、突然の呼吸困難、胸痛、呼吸数、酸素条件、意識を確認。
何を反映するか
術後浮腫だけでなくDVT・肺塞栓などの可能性。症状だけで確定できない。
普段と比較
腫れの範囲、普段の呼吸、離床状況、血栓予防と出血リスク。
悪化を疑う変化
急な呼吸困難・胸痛・失神、循環不良、急速な酸素化の悪化。
再確認
急変時は直ちに応援要請。片側の腫れも速やかに報告し、揉まずに評価を待つ。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察

骨折・術式の評価と指示があり、痛みと全身状態が安定し、介助下で予定の動作ができる。

次の行動:同じ動作条件で痛み・介助量を比較し、創部・排泄・摂取・認知状態を継続確認。

早めに共有・報告

鎮痛不足、介助量の増加、軽い意識・注意の変化、創部の発赤・排液増加、片側下肢の腫れ。

次の行動:発症時点と薬・離床との関係を整理し、感染・血栓・せん妄などの評価と計画修正を依頼。

直ちに応援要請

呼吸困難・胸痛・失神、進む循環不良、急な意識低下、患肢の急な冷感・運動低下。

次の行動:呼吸循環と安全を確保し緊急評価へ。突然の股関節痛・変形・動作不能も動かさず速やかに診察を求める。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|受傷後の安全を確保

無理に立たせず患肢を支える。頭部など他部位の外傷と転倒前の失神・体調変化も確認し、呼吸循環を先に評価。

2|手術前の条件をそろえる

患側、術式予定、最終飲食、抗凝固薬等の最終使用、アレルギー、普段の認知・歩行を確認。採血・輸液・疼痛管理は指示に沿う。

3|術後の引継ぎを具体化

術式・麻酔、出血と補液、創部・ドレーン、下肢神経所見、荷重・関節運動の条件を確認。決まっていない条件を推測で補わない。

4|鎮痛と離床を組み合わせる

動作前の鎮痛計画を確認し、呼吸・意識・循環と下肢機能を評価して介助。めまいや痛み増悪で中止し、次回の方法を調整。

5|臥床中の二次障害を減らす

許可された体位変換と除圧、皮膚確認、口腔ケア、摂取・排泄支援を行う。血栓予防具の適合・皮膚と実施状況を確認。

6|退院後の動作へつなぐ

移乗・トイレ・着替えを実際の生活条件に合わせて練習。補助具、段差、支援者、骨粗鬆症評価と再診をチームで調整。

治療前・中・後の看護

骨接合術:骨頭を温存する

目的
骨片を固定し、骨癒合と動作の回復を目指す。
前に確認
転位、固定方法、全身状態と受傷前機能、手術・麻酔の計画を確認。
中に観察
術後の創部・出血、疼痛、末梢循環・神経、感染兆候を観察。
反応・再評価
指示範囲での動作改善と画像での癒合を評価。遅れて増す痛みは固定不全・骨頭壊死等の評価へ。
適応・注意
転位が少ない場合や骨頭温存を選ぶ場合など。荷重開始・程度は固定性と個別指示による。

人工骨頭・人工股関節置換術

目的
損傷した骨頭等を置換し、疼痛軽減と支持性を得る。
前に確認
置換範囲、進入法、受傷前機能、術後の荷重と動作条件を確認。
中に観察
創部、循環、神経所見を観察。急な痛み・肢位の変化では脱臼等を疑い動作を中止。
反応・再評価
安全な移乗・歩行へ進めるか、痛み・介助量を比較。感染・脱臼・血栓を継続評価。
適応・注意
転位例などで検討。禁止肢位や外転枕を全患者に一律適用せず、術式・指示に合わせる。

非オピオイド鎮痛薬:アセトアミノフェン

目的
安静・ケア・離床を妨げる痛みを和らげる。
前に確認
肝・腎機能、低栄養・絶食・脱水、重複薬、最終投与、内服可否を確認。
中に観察
痛みと動作、発疹・呼吸変化、悪心・肝機能などを観察。
反応・再評価
痛みだけでなく介助で動けるかを再評価。効かない場合は追加・変更を相談し自己判断で増量しない。
適応・注意
重篤な肝障害・成分過敏症は禁忌。市販感冒薬等との重複を避ける。絶食時などは投与経路も相談。
カロナール錠200・300・500の詳細を開く

追加鎮痛・神経ブロック

目的
基本の鎮痛で不十分な痛みを抑え、必要なケアを可能にする。
前に確認
処方薬・方法、意識と呼吸、腎機能、神経所見、施行者と監視計画を確認。
中に観察
オピオイドでは鎮静・呼吸抑制・悪心・便秘、ブロックでは感覚・筋力変化を観察。
反応・再評価
疼痛緩和と副作用を同時に評価。筋力や感覚が十分でない間は独歩させない。
適応・注意
薬の追加とブロックは指示・専門職による。鎮痛で骨折評価や手術調整を遅らせない。

血栓予防・早期リハビリ

目的
血栓と不活動による機能低下を減らす。
前に確認
出血、腎機能、血小板、麻酔・処置、荷重条件を確認。薬剤・機械的方法を個別に選ぶ。
中に観察
出血・創部、予防具の圧迫と皮膚、離床時の呼吸循環・痛みを観察。
反応・再評価
離床範囲・介助量と予防の継続状況を再評価。出血や新しい腫れ・息切れは報告。
適応・注意
骨折手術後の予防と、既に生じたDVTの治療を混同しない。開始・休薬・再開は出血と麻酔条件に合わせる。

検査の意味と読み方

Hb

受傷・手術に伴う貧血や出血の影響を評価。

組み合わせ・推移:早期の単回値だけで出血量は分からない。脈・血圧・皮膚・出納と術前後の推移を合わせる。

Hbの検査詳細

血小板

出血リスクや抗凝固薬使用中の変化を評価。

組み合わせ・推移:術前値・薬の開始時点と比較。低下原因は一つではなく、出血や血栓の兆候と合わせ報告。

血小板の検査詳細

クレアチニン

脱水や腎機能、薬剤使用の安全性を評価。

組み合わせ・推移:筋肉量の少ない人は低い値でも腎機能を過大評価しうる。尿量・出納と前回値を見る。

クレアチニンの検査詳細

CRP

炎症反応の推移を確認。

組み合わせ・推移:骨折・手術でも上がる。発熱、創部、呼吸や尿の症状と合わせ、単独で感染と断定しない。

CRPの検査詳細

X線CTMRI

骨折位置・転位・固定や治癒の状態を確認。

組み合わせ・推移:X線で明らかでなくても痛みや荷重困難が続けば追加評価へ。看護師の歩行テストで除外しない。

報告:SBARで情報をそろえる

S|変化と緊急度

  • いつから痛み・脚の状態・意識・呼吸循環が変わったか。
  • 現在の患側と安全確保の状態。

B|受傷・手術の条件

  • 骨折型、術式・麻酔、荷重指示、抗凝固薬・鎮痛薬と最終投与、受傷前の認知・歩行。

A|前後の比較

  • 痛みと介助量、脈・血圧・酸素条件、創部・排液、下肢所見、Hb・出納。
  • 介助・鎮痛後の反応。

R|確認したいこと

  • 急変原因や患肢の診察、追加鎮痛、採血・画像、離床条件の変更と次の再評価時点。

患者・家族への説明

動く前に条件を確かめる

痛みを我慢して一人で立たず、呼び出しと補助具を使う。許可された動作は介助者と繰り返し練習する。

変化を早く伝える

新しい強い股関節痛、脚の腫れ、息苦しさ、創部の変化を伝える。退院後の連絡先を確認しておく。

再骨折を防ぐ生活へ

骨の評価・治療と、段差・照明・履物・服薬の見直しを続ける。退院後の生活動作と必要な支援を一緒に考える。

参考文献

  1. 日本整形外科学会:大腿骨頚部骨折

    受傷・血流障害・癒合と骨頭壊死の概要。更新年不明のため疫学数値は転記しない。

  2. AAOS OrthoInfo:Hip Fractures

    転位別の治療、術前評価、疼痛と離床、生活機能回復。国内の個別指示に合わせる。

  3. PMDA:カロナール錠電子添文(2026年8月改訂)

    禁忌、重複投与、肝・腎機能と低栄養等の注意を確認。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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