循環器

心筋梗塞

胸部症状の始まりと経過を捉え、12誘導心電図・循環評価と再灌流の準備を並行する。治療後も再虚血、不整脈、心不全、出血を前後比較する。

主な症状
胸部不快 冷汗 息切れ 血圧低下 不整脈
代表的な薬
抗血小板薬 抗凝固薬 スタチン
検査値UP
心筋トロポニン CK
検査値DOWN

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

冠動脈のプラークと血栓

冠動脈のプラークと血栓の機序血流低下先の心筋障害プラークの破綻 → 血栓血管内の流れを妨げる症状・心電図・トロポニンを合わせる
  1. プラークの破綻などに血栓が形成
  2. 冠血流が急に減る
  3. 心筋が虚血・壊死へ進む
  4. 胸部不快・心電図変化・トロポニン上昇

観察へ:ST上昇型では迅速な再灌流評価へ。非ST上昇型でも症状持続・不整脈・循環不良を伴えば緊急性が高い。採血結果待ちで対応を遅らせない。

冠動脈解離など別の冠動脈病変

冠動脈解離など別の冠動脈病変の機序血流低下先の心筋障害血管壁内の血腫 → 内腔を圧迫血栓閉塞とは異なる機序症状・心電図・トロポニンを合わせる
  1. 冠動脈壁の解離・壁内血腫
  2. 本来の血液の通り道が圧迫
  3. 心筋への血流が低下
  4. 胸部症状・虚血所見

観察へ:SCADでは安定性と血流で保存的治療を選ぶ場合がある。血栓性病変と同じ処置を全例に当てはめず、治療方針と再発症状を確認。

酸素の供給と需要の不均衡

酸素の供給と需要の不均衡の機序心筋の酸素需要に供給が追いつかない供給が低下低酸素・貧血等需要が増加頻脈等虚血と心筋障害の有無を評価原因の是正+冠疾患・画像の評価
  1. 低酸素・貧血・低血圧、頻脈など
  2. 心筋の必要量に供給が追いつかない
  3. 虚血と心筋障害を評価
  4. 原因への治療と冠疾患の評価

観察へ:トロポニン上昇だけで梗塞としない。虚血を示す症状・心電図・画像と背景を合わせ、単なる心筋障害と区別する。

心筋障害からポンプ不全へ

心筋障害からポンプ不全への機序収縮力低下 → 血流不足と肺うっ血左室全身へ不足肺側へ圧が伝わる左向き矢印は圧の伝わり(逆流ではない)呼吸+意識・冷感・尿量を確認
  1. 心筋の収縮が低下
  2. 全身へ送り出す血液が減る
  3. 臓器灌流低下と肺うっ血
  4. 冷感・乏尿・意識変化・呼吸苦

観察へ:低血圧だけでなく呼吸・末梢循環・尿量を合わせる。急な悪化では再虚血、不整脈、機械的合併症、出血も考える。

血流と心筋障害の模式図。実際の心電図や冠動脈造影ではない。STEMI/NSTEMIは心電図等に基づく臨床分類で、完全閉塞・不完全閉塞と一対一には対応しない。図の機序と分けて考える。

症状から観察・再確認へ

胸部不快冷汗嘔気

見る・聞く
発症時刻、締め付け・圧迫感、部位と放散、持続・反復、活動との関係を聞く。冷汗・顔色・嘔気も確認。
何を反映するか
心筋虚血の手がかり。胸痛が目立たず呼吸苦や倦怠感で現れる場合もある。
普段と比較
普段の発作との違い、安静・薬の前後、PCI前後の症状を比較。
悪化を疑う変化
持続・再燃、息苦しさ、失神、血圧低下や冷感を伴う。
再確認
12誘導と呼吸循環を再評価し共有。痛みの軽減だけで梗塞を否定せず、追加薬の指示を確認。

呼吸困難

見る・聞く
呼吸数、努力、会話、体位、呼吸音、SpO₂と酸素条件を確認。
何を反映するか
左心不全・肺うっ血、循環不良や別の胸部疾患の手がかり。
普段と比較
酸素必要量、横になれるか、輸液・尿量と治療前後を比較。
悪化を疑う変化
急な努力呼吸、会話困難、酸素条件の増加、血圧・意識の悪化。
再確認
応援と呼吸補助の準備。体位変更で循環が悪化しないかも見る。

動悸徐脈失神

見る・聞く
モニターと本人の反応、呼吸、触れる脈、血圧を確認。症状時の波形を保存。
何を反映するか
虚血や再灌流、伝導障害で不整脈が出現し、拍出量が低下する場合がある。
普段と比較
基準波形、発症と再灌流・投薬の時点、K・Mgの推移を比較。
悪化を疑う変化
反応がない、正常な呼吸がない、持続する頻拍・徐脈に循環不良。
再確認
蘇生・急変手順に移り除細動器等を準備。波形を詳しく読むために対応を遅らせない。

冷感乏尿反応低下

見る・聞く
血圧・脈圧、皮膚・四肢、毛細血管再充満、意識と時間尿量を確認。
何を反映するか
心拍出量不足の手がかり。出血や体液不足なども鑑別が必要。
普段と比較
前回の血圧・尿量と投薬、PCI・穿刺部、出納を合わせる。
悪化を疑う変化
急速な血圧低下、冷汗・乏尿・意識変化、呼吸悪化。
再確認
直ちに共有し心エコー等を準備。肺音が目立たない低血圧でも右室障害などを考慮し、独断で大量輸液しない。

PCI後の出血四肢の変化

見る・聞く
アクセス部位、腫脹・疼痛、末梢の色・温度・感覚・脈を確認。尿便、背部・腹部痛、血圧も見る。
何を反映するか
穿刺部血腫・血管障害や見えない出血の手がかり。
普段と比較
術前の末梢所見、止血装置設定と解除時点、抗血栓薬・採血推移を比較。
悪化を疑う変化
拡大する腫脹、止まらない出血、冷たい手足・強い痛み、血圧低下。
再確認
直ちに報告し指示された止血対応へ。止血装置を独断で緩めたり外したりしない。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

治療計画の下で症状・呼吸循環が安定し、新しい心電図変化や出血がない。

次の行動:再発症状・不整脈・心不全・穿刺部を継続評価。未評価の胸部症状をここに分類しない。

早めの共有・報告が必要

急性虚血を疑う症状はないが、軽い出血が続く、腎機能・出納の変化、薬の副作用や活動耐容能低下がある。

次の行動:前後の値と治療条件を伝え、薬・採血・活動計画を相談。胸部症状の再燃は緊急評価へ。

直ちに応援・緊急対応

新規・持続・再燃する胸部症状、急な呼吸不全、失神、重い不整脈、循環不良、大きな出血。

次の行動:急変・ACS対応を開始。12誘導と再灌流評価を並行し、必要時は蘇生へ。正常に見える単回心電図や初回トロポニンだけで終了しない。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|活動を止め応援要請

患者を一人にせず、発症経過と現在の意識・呼吸・循環を共有。歩行での移動や症状の再現をさせない。

2|呼吸と循環を支える

呼吸が楽な体位を探しつつ低血圧に注意。酸素は低酸素・呼吸状態と指示に応じて使用し、一律の高流量投与にしない。

3|12誘導とモニター

12誘導を速やかに記録・共有し、必要な再記録を準備。右室・後壁評価の追加誘導は診療チームと確認。除細動器を使える状態にする。

4|採血・治療情報を集める

静脈路と検体採取を準備。抗血栓薬・PDE5阻害薬等の服用、出血・アレルギー歴、腎機能、最終飲食を確認。結果がそろうまで再灌流準備を待たない。

5|カテーテル治療へ引き継ぐ

症状・心電図の時刻、投与薬と反応、アクセス予定と末梢所見を共有。説明を補助し不安を短く確認。

6|治療後の出納と合併症

心電図、胸部症状・呼吸循環、穿刺部・尿量を比較。造影・輸液・薬剤の条件と採血を引き継ぐ。

7|離床と服薬を確認

循環安定性と止血後の安静度を確認し段階的に離床。ふらつき・転倒を防ぎ、負荷後の症状・脈・血圧を再評価。

治療前・中・後の看護

PCI:冠動脈の血流を再開

目的
適応病変の血流を改善し心筋障害を減らす。
前に確認
症状・心電図、出血と腎機能、抗血栓薬、アレルギー、末梢循環を確認。
中に観察
呼吸循環と心電図、疼痛・過敏反応を観察。
反応・再評価
胸部症状と循環・心電図、出血、再虚血、尿量を比較。
適応・注意
再開通しても合併症監視を続ける。SCAD等は病変に応じ方針が異なる。

CABG・機械的合併症への外科治療

目的
選択例で血行を再建し、破裂・弁支持組織の障害等へ対応する。
前に確認
冠病変と心エコー、循環支持、抗血栓薬と手術方針を確認。
中に観察
循環・呼吸、出血と排液、尿量を追う。
反応・再評価
灌流・呼吸の改善と創部、神経所見、腎機能を比較。
適応・注意
急なショックや肺水腫では心室中隔穿孔・乳頭筋断裂などの専門評価を急ぐ。

抗血小板薬:アスピリン

目的
血小板による血栓形成を抑える。
前に確認
過敏症・アスピリン喘息、潰瘍・出血、併用薬と投与方法を確認。
中に観察
消化管・穿刺部などの出血、過敏反応、神経症状を観察。
反応・再評価
出血と服薬可能性を確認。治療継続の計画を共有。
適応・注意
自己中断でステント血栓の危険がある。休薬・再開は処方元と確認。
アスピリンの詳細を開く

抗血小板薬:P2Y12受容体阻害薬

目的
アスピリン等と組み合わせ、血栓性事象を抑制する。
前に確認
PCIの方針、出血リスク、服薬歴と選択薬・規格を照合。
中に観察
出血・血算、肝機能と薬剤別副作用を観察。
反応・再評価
服用漏れ・出血の有無と継続期間を確認。
適応・注意
2剤併用の期間は虚血と出血の両リスクで個別化。海外用量を流用しない。 リンクはプラスグレルの代表例。薬剤間で適応・規格・注意事項を置き換えない。
エフィエント錠2.5mg・3.75mg・5mg・OD錠20mgの詳細を開く

抗凝固薬:未分画ヘパリン

目的
適応に応じ血液凝固を抑え治療中の血栓形成を防ぐ。
前に確認
出血・HIT歴、血小板と凝固検査、投与単位・濃度を確認。
中に観察
穿刺部・尿便・神経所見、血小板と指示された凝固指標を監視。
反応・再評価
抗凝固の程度と出血・新規血栓を評価。
適応・注意
HITはヘパリンに関連する血小板減少と血栓。疑う変化は直ちに共有。ロック用製剤と区別。
ヘパリンナトリウム注5千単位/5mL「YD」の詳細を開く

硝酸薬などの症状・負荷調整

目的
適応例の虚血症状や心負荷を軽減。
前に確認
血圧、右室障害の可能性、PDE5阻害薬・リオシグアト等と禁忌を照合。 静注では製剤と輸液セットへの吸着、ポンプ設定も確認。
中に観察
血圧・脈・胸部症状、頭痛・めまい・意識を観察。
反応・再評価
症状と循環を前後比較。効いたことを診断根拠にしない。
適応・注意
低血圧などでは不適切な場合がある。再灌流の代わりとして投与し続けない。 静注薬の詳細は急性心不全・不安定狭心症等の適応を確認して読む。
ニトログリセリン注の詳細を開く

脂質低下療法:スタチン等

目的
脂質を管理し動脈硬化性イベントの再発予防を図る。
前に確認
脂質・肝腎機能、筋症状、併用薬と国内の製剤適応を確認。
中に観察
筋痛・脱力・褐色尿、肝障害の所見を確認。
反応・再評価
脂質の推移と忍容性、飲み続けられるかを評価。
適応・注意
目標・強度・追加薬は個別化。SCADなどの病因も踏まえ選択する。 リンクはロスバスタチンの代表例。高コレステロール血症等の適応と肝機能・腎機能・併用禁忌を確認。
クレストール錠・OD錠2.5mg・5mgの詳細を開く

心不全・ショックへの循環補助

目的
再灌流と並行して臓器への血流を保つ。
前に確認
心エコー、呼吸循環、体液量、補助装置の適応を確認。
中に観察
尿量・末梢循環・意識、出血・下肢虚血など装置関連合併症を観察。
反応・再評価
灌流と呼吸、乳酸の推移、支持量の変化を合わせる。
適応・注意
昇圧薬・補助循環を全例に同じように使わない。左室・右室機能と原因で方針が変わる。

心臓リハビリテーション

目的
生活機能と再発予防を支える。
前に確認
虚血・不整脈・心不全の安定性、活動許可と本人の目標を確認。
中に観察
負荷前後の症状、脈・血圧・呼吸、疲労を確認。
反応・再評価
活動量と回復、服薬・食事・禁煙への困りごとを再評価。
適応・注意
一律の日数の安静や運動を指示せず、リハビリ計画に合わせる。

検査の意味と読み方

12誘導心電図

虚血性変化と不整脈を評価。

組み合わせ・推移:症状時刻と前回波形を比較。単回正常やST上昇なしだけでは除外できない。

心エコー

壁運動・心機能・機械的合併症を評価。

組み合わせ・推移:急な循環悪化では前の結果で安心せず再評価を相談。

心筋トロポニンT

心筋障害の指標。

組み合わせ・推移:上昇・下降と症状・心電図・画像を合わせる。初期陰性や腎機能の影響、測定法の基準を確認。

心筋トロポニンTの検査詳細

心筋トロポニンI

心筋障害の指標。

組み合わせ・推移:施設で採用する測定法と採血間隔を確認。TとIを数値で直接比較しない。

心筋トロポニンIの検査詳細

Hgb

貧血と出血の影響を評価。

組み合わせ・推移:出納による希釈と採血時点を合わせる。初期値だけで出血を否定しない。

Hgbの検査詳細

血小板

抗血栓療法の安全性とHIT等の評価。

組み合わせ・推移:絶対値だけでなく低下率・経過と新しい血栓を確認。

血小板の検査詳細

APTT

未分画ヘパリン等の作用を評価。

組み合わせ・推移:採血時点・混入、投与条件と個別目標を照合。PCI中のACTとは別の検査。

APTTの検査詳細

K

電気的安定性と薬・腎機能の影響を評価。

組み合わせ・推移:心電図・尿量、補充や利尿の前後と比較。

Kの検査詳細

Mg

不整脈と電解質補正の評価。

組み合わせ・推移:K・腎機能と合わせる。独断で補充量を増やさない。

Mgの検査詳細

クレアチニン

造影・循環不良や薬剤に関わる腎機能の評価。

組み合わせ・推移:尿量と前回値、出納・血圧を追う。

クレアチニンの検査詳細

乳酸

循環不良時の組織灌流評価の補助。

組み合わせ・推移:推移と末梢循環・尿量・治療条件を比較し、値だけでショックを決めない。

乳酸の検査詳細

報告:SBARで情報をそろえる

S|症状と現在

  • 発症・再燃からの経過、胸部症状、意識・呼吸・循環。

B|治療と背景

  • 冠疾患・PCI歴、抗血栓薬等の服用、出血・腎機能、再灌流・酸素・点滴条件。

A|比較と反応

  • 心電図・採血の時点、血圧・尿量・穿刺部の前後差。
  • 実施した看護・薬への反応。

R|緊急の確認

  • 再灌流・再造影、心エコー、蘇生や循環支持、薬・出血対応の要否。

患者・家族への説明

症状の再燃は早く伝える

胸の圧迫感、息苦しさ、冷汗・失神などは我慢しない。退院後の急な症状では救急要請し自分で運転しない。

抗血栓薬を自己中断しない

出血や処置予定があれば処方元へ相談。中止・再開と飲み忘れ時の対応を確認する。

生活と活動を調整

心臓リハビリで活動を段階的に戻す。禁煙・食事・血圧・脂質と仕事の負担を相談する。

不安も回復の課題

再発への不安、睡眠や気分、費用・通院・服薬の困りごとを共有し支援につなぐ。

参考文献

  1. 国立循環器病研究センター:虚血性心疾患

    症状と心不全・不整脈・機械的合併症。安静期間やPCIの一律表現は採用していない。

  2. 国循:STEMI/NSTEMIの治療法

    心電図分類と緊急度。経過・循環を合わせて評価。

  3. 国循:特発性冠動脈解離

    SCADの治療選択と回復支援。

  4. AHA/ACC 2025 ACS:公式要点

    抗血栓療法・血行再建・再発予防。用量や期間を国内へ一律転用しない。

  5. ESC:2026心筋梗塞の国際定義の解説

    機序別分類の更新と心筋障害の区別。公式解説を確認した段階。

  6. PMDA:未分画ヘパリン電子添文

    製剤と適応・出血・HITへの注意。

  7. PMDA:バイアスピリン電子添文

    適応・禁忌と投与時の注意。

  8. PMDA:プラスグレル電子添文(2026年2月改訂)

    薬剤選択時の禁忌と出血・血液障害の確認。

  9. PMDA:ニトログリセリン静注電子添文

    静注製剤の適応、血圧監視、併用禁忌、輸液セットへの吸着。

  10. PMDA:ロスバスタチン電子添文(2026年3月改訂)

    高コレステロール血症への適応、禁忌、筋障害と肝腎機能の確認。

資料確認:2026年9月16日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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