内分泌・代謝

下垂体機能低下症

下垂体機能低下症では、不足するホルモンによって観察と補充が変わる。受け持ち時に欠乏しているホルモン、補充薬、最終投与、体調不良時の計画を確認し、普段の倦怠感と急性の副腎不全を区別して評価する。

主な症状
だるさ 低血圧 寒がり 口渇 多尿
代表的な薬
ヒドロコルチゾン レボチロキシン
検査値UP
Na
検査値DOWN
コルチゾール FT4 Na

検査値は代表的な変化。全例に共通する診断基準ではなく、病期・治療・併存症で変わる。

病型と病態のつながり

ACTH低下:副腎への刺激が不足

ACTH低下:副腎への刺激が不足から観察へ脳の下にある下垂体下垂体前葉ACTH不足黄色:副腎皮質コルチゾール不足循環・血糖・意識を確認
  1. 下垂体前葉からのACTHが不足
  2. 副腎皮質のコルチゾール分泌が低下
  3. ストレスへの対応が不足し、低血圧・低血糖・意識変化につながる

観察へ:感染・嘔吐・手術や服薬中断を確認。急な循環不良を、いつものだるさとして扱わない。

TSH低下:甲状腺への刺激が不足

TSH低下:甲状腺への刺激が不足から観察へ脳の下にある下垂体下垂体前葉TSHの刺激不足甲状腺甲状腺ホルモン不足体温・脈・活動とFT4を確認
  1. 下垂体由来の甲状腺への刺激が不十分
  2. 甲状腺ホルモンが不足
  3. 代謝が低下し、寒がり・動作の遅さ・徐脈などにつながる

観察へ:FT4と症状を合わせる。中枢性ではTSHが基準範囲内でも甲状腺機能低下を否定できない。

バソプレシン欠乏の合併:水を保てない

バソプレシン欠乏の合併:水を保てないから観察へ脳の下にある下垂体視床下部・後葉系バソプレシン不足腎臓尿へ水が失われる尿量・飲水・Naを確認
  1. 視床下部・下垂体後葉系の障害が合併
  2. 腎臓で水を再吸収する作用が不足
  3. 薄い尿が増え、飲水で補えないと脱水・高Naにつながる

観察へ:前葉機能低下そのものとは別の障害。副腎皮質ホルモン補充後に多尿が明らかになることがある。

下垂体卒中:急な視覚・意識の変化

下垂体の出血・梗塞と視路への圧迫、ホルモン不足急な出血・梗塞下垂体の病変視路見え方の変化ホルモン不足頭痛・視覚・意識・循環を確認位置関係の模式図/診断画像ではない
  1. 下垂体病変に出血・梗塞が起こる
  2. 視路への圧迫や急なホルモン不足が生じる
  3. 強い頭痛・視覚障害、意識や循環の悪化につながる

観察へ:既知の下垂体腫瘍がなくても否定しない。急変は応援要請と専門評価につなぎ、くも膜下出血など他の頭蓋内疾患も除外が必要。

成人を中心とする学習用。前葉のACTH・TSH系と、合併しうる後葉のバソプレシン系を分けた模式図。一部だけが不足する場合もあり、すべての症状がそろうとは限らない。

症状から観察・再確認へ

倦怠感食欲低下嘔吐

見る・聞く
食事・水分量、嘔吐回数、補充薬を服用して保てたか、発熱や感染症状を確認。
何を反映するか
コルチゾール不足や感染などの手がかり。服薬できないこと自体が補充計画の変更につながる。
普段と比較
普段の活動・食欲、最終服薬、体調不良時の指示。
悪化を疑う変化
嘔吐で薬が保てない、起き上がれない、反応が鈍い。
再確認
報告後の投与経路・補充指示と、血圧・血糖・意識の反応。

低血圧ふらつき

見る・聞く
体位と血圧・脈、冷感、意識、尿量を確認。循環不良時に立位測定を強行しない。
何を反映するか
副腎不全、脱水、感染などが重なりうる。
普段と比較
普段の血圧、発症時刻、補充・輸液の前後。
悪化を疑う変化
失神、冷汗、灌流不良、意識低下が進む。
再確認
安全な体位でABCを確認し、応援要請と治療準備。

冷汗意識変化

見る・聞く
血糖、呼吸、受け答え、けいれん、Naの推移を確認。
何を反映するか
低血糖やNa異常などの可能性。意識変化を内分泌疾患だけに帰さない。
普段と比較
食事、補充薬、輸液変更、直前の意識・血糖。
悪化を疑う変化
反応低下、けいれん、嚥下できない状態。
再確認
施設の低血糖・急変手順に沿って対応し、血糖と意識を再確認。無理に飲食させない。

寒がり徐脈動作の遅さ

見る・聞く
体温、脈、会話速度、便通、活動量と呼吸を確認。
何を反映するか
甲状腺ホルモン不足の手がかりだが、薬剤や他疾患でも起こる。
普段と比較
普段の生活機能、FT4、補充変更前後。
悪化を疑う変化
低体温と意識・呼吸・循環の悪化が重なる。
再確認
急変は直ちに報告。安定時はFT4採血と補充計画を確認。

口渇多尿

見る・聞く
時間尿量、飲水、体重、尿の濃さ、Na・血液と尿の浸透圧を確認。
何を反映するか
バソプレシン欠乏や高血糖などを評価する入口。
普段と比較
副腎皮質ホルモン開始前後、デスモプレシン最終投与、普段の出納。
悪化を疑う変化
飲水で補えない多尿、脱水、Na上昇、または治療中の頭痛・悪心とNa低下。
再確認
投薬と輸液条件を照合し再採血を相談。尿量だけで薬を追加しない。

急な頭痛見え方の変化

見る・聞く
発症時刻と急さ、左右それぞれの見え方・見える範囲、複視、眼瞼下垂、嘔吐と意識を確認。
何を反映するか
下垂体卒中など急性の頭蓋内病変も考える。
普段と比較
普段の視機能と直前の観察、腫瘍・手術歴、抗凝固薬の使用を比較。
悪化を疑う変化
突然の強い頭痛、急な視力低下、意識や循環の悪化。
再確認
直ちに医師へ報告し、内分泌・脳神経外科との連携を求める。意識・循環と視覚の変化を継続して追い、副腎不全の可能性も共有。

看護判断:変化の緊急度

経過を観察できる状態

既知の欠乏に対する補充が継続でき、意識・循環・出納が普段と変わらず、定期評価の計画がある。

次の行動:服薬と日常生活への影響を確認し、採血条件をそろえて経過を追う。

早めの共有・報告

発熱、摂取低下、服薬困難、尿量や体重の変化、新しい倦怠感がある。

次の行動:最終投与と個別の体調不良時プランを確認し、その時点で補充・経路・再検査を相談。

直ちに応援・緊急対応

ショック、意識低下、けいれん、重い低血糖、急な頭痛・視覚障害、呼吸不良。

次の行動:ABC・血糖を確認し応援要請。副腎不全が疑われることを伝え、緊急補充と輸液等を指示・手順で準備する。

緊急度の目安。施設の急変対応基準・個別指示を優先し、数値だけで経過観察を決めない。

看護行動:優先順位

1|転倒・誤嚥と急変を防ぐ

ふらつき時は移動を介助し、循環不良時は歩かせない。意識不良では気道と呼吸を優先し、経口摂取を強行しない。

2|補充の中断を見つける

薬名・経路・最終投与を実際の記録で照合。絶食や嘔吐でも必要なホルモン補充を自動的に中止しない。代替経路を医師へ確認する。

3|採血と治療を並行して準備

指示でACTH・コルチゾール等の治療前採血を準備するが、疑われる副腎クリーゼの治療を採血や結果待ちで遅らせない。採取と投与の時点を記録。

4|補充順序を照合

甲状腺ホルモン開始前に副腎不全の評価・対応が済んでいるか確認。疑いがある場合は副腎皮質ホルモンの先行補充計画を照合する。

5|出納とNaを追う

輸液・飲水・尿量を時系列で並べる。補充開始後の多尿を見逃さず、Naの急な変化と神経症状を報告。飲水制限や追加補液を独断で決めない。

6|視覚の急変を専門評価へつなぐ

左右の見え方・視野、眼球運動と意識の変化を記録して直ちに共有。画像検査・専門科への連絡を準備し、移送中も呼吸・循環を観察できる体制を確認する。

7|落ち着いた後も再評価

循環・血糖の改善、補充過多、誘因の治療を確認。退院前に薬の継続方法、体調不良時の連絡、緊急カードの準備を一緒に確認する。

治療前・中・後の看護

副腎皮質ホルモン補充:平常時の内服

目的
不足するコルチゾールを補う。
前に確認
最終投与、服薬可能性、感染・手術等の負荷、血圧・血糖・Naを確認。
中に観察
意識・循環・尿量と血糖。継続中は体重増加、血圧上昇など過剰補充も確認。
反応・再評価
倦怠感だけでなく循環・摂取が改善し、過不足がないか。
適応・注意
リンク先は平常時の経口補充の代表製品。急変・内服困難時は注射等の経路を確認する。続発性副腎不全に鉱質コルチコイドを一律補充しない。
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副腎皮質ホルモン補充:副腎クリーゼ時の注射

目的
急性のコルチゾール不足を補い、循環不全からの回復につなげる。
前に確認
最終内服・嘔吐・誘因、意識・血圧・血糖を共有。採血の準備で緊急治療を遅らせず、製品・経路・指示を照合する。
中に観察
循環・意識・血糖・Na・K・尿量の推移を追う。投与直後の発疹・呼吸悪化、静脈投与部の痛み・腫脹も確認。
反応・再評価
血圧だけでなく末梢灌流・意識・摂取の回復を確認。改善後も補充を途切れさせず、内服への移行計画を共有。
適応・注意
補液・低血糖への対応と並行し、投与量・経路・速度は個別指示に従う。経口薬や別規格の説明で代用しない。
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甲状腺ホルモン補充

目的
不足するT4を補う。
前に確認
副腎不全への対応、FT4、脈・心疾患を確認。鉄剤・Ca製剤との服用間隔など、併用薬と服用方法を照合。
中に観察
動悸・胸痛、発汗、活動性と便通の変化。
反応・再評価
FT4と症状を追う。TSH低値だけで過剰補充と決めず、動悸・胸痛などと個別のFT4目標を確認する。
適応・注意
国内2023ガイドラインはFT4を指標とするが、目標値と長期予後の根拠は限定的。心疾患や骨折リスクも含め個別に調整し、補充変更後の再採血を確認。
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デスモプレシン:バソプレシン欠乏合併時

目的
尿へ失う水分を減らす。
前に確認
診断、製剤・経路、Na、飲水・尿量と前回投与を照合。
中に観察
尿量、体重、Na、頭痛・悪心・意識を確認。
反応・再評価
脱水を改善しながら水分貯留・低Naを起こしていないか。
適応・注意
前葉機能低下だけでは適応にならない。製剤間の用量をそのまま置き換えず、投与・飲水計画を個別に確認。

性ホルモン・成長ホルモン補充

目的
確認された欠乏による生活機能・代謝への影響を改善する。
前に確認
欠乏の評価、禁忌、妊娠希望と本人の困り事を確認。
中に観察
薬ごとの副作用、浮腫・血糖変化、注射手技・継続負担を確認。
反応・再評価
生活機能と検査の推移を評価し、他の補充薬の調整が必要か確認。
適応・注意
倦怠感だけで適応を決めない。妊娠を希望する場合は性ホルモン補充と妊孕性治療の目的を区別する。

原因病変の治療

目的
腫瘍・炎症等による障害や圧迫に対応する。
前に確認
視機能、神経所見、欠乏ホルモン、周術期の補充指示を確認。
中に観察
術後等の意識・視覚、循環、尿量・Na変化を追う。
反応・再評価
意識・視力・視野の改善または悪化を比較。保存的治療でも継続観察とホルモン再評価の予定を確認。
適応・注意
下垂体卒中では安定化・必要な補充を進め、重い視覚障害や意識悪化に対する手術適応を専門科が判断する。原因治療後も補充が必要な場合がある。

急変時の補液・低血糖対応

目的
副腎不全に伴う循環不良や低血糖を是正する。
前に確認
血圧・灌流、血糖、Na、心腎機能と出納。気道・嚥下状態を確認。
中に観察
指示・施設手順による補液、糖投与とホルモン補充を並行して確認。呼吸悪化・浮腫、Naの推移を追う。
反応・再評価
血圧だけでなく意識・末梢灌流・尿量、低血糖対応後の再測定で反応を確認。
適応・注意
輸液の種類・速度、糖の経路は状態と指示で決定。補液だけでホルモン補充を代替しない。

検査の意味と読み方

ACTHコルチゾール

下垂体と副腎の関係を評価。

組み合わせ・推移:採血時刻、急性疾患、最終ステロイド投与を記録。単回の随時値だけで除外しない。検査目的の休薬は独断で行わない。

FT4TSH

中枢性の甲状腺機能を評価。

組み合わせ・推移:FT4低下に見合うTSH上昇がない場合もある。急性疾患・薬剤の影響を含め専門評価につなぐ。

血糖

コルチゾール不足や摂取不足、治療後の変化を確認。

組み合わせ・推移:意識・摂取と組み合わせ、低血糖への対応後も再測定する。

血糖の検査詳細

Na

水分調節の異常を評価。

組み合わせ・推移:副腎不全では低Na、バソプレシン欠乏では高Naを来しうる。治療中は逆方向の変化もあり、原因をNaだけで断定しない。

Naの検査詳細

血液浸透圧尿浸透圧

多尿時の水分調節を評価。

組み合わせ・推移:同時期の血液と尿、血糖・出納を比較。多尿だけでバソプレシン欠乏と決めない。

Posmの検査詳細

LHFSH性ホルモンIGF-1

ほかの前葉ホルモン欠乏を評価。

組み合わせ・推移:生理的条件、補充薬、栄養状態などを含め解釈。単一のGH値だけで成長ホルモン欠乏を診断しない。

下垂体MRI視機能評価

原因病変と視路への影響を確認。

組み合わせ・推移:急な視覚障害では視力・視野・眼球運動を記録し、専門科と画像検査を準備。移送前後も意識・循環を確認。画像だけで欠乏ホルモンは決めない。

報告:SBARで情報をそろえる

S|変化

  • いつから何が変わったか。
  • 現在の意識・呼吸・血圧・脈・血糖。

B|欠乏と補充

  • 既知の欠乏、原因病変、補充薬・最終投与、嘔吐や感染、体調不良時の計画。

A|比較と反応

  • 前回と現在の意識・視覚、Na・血糖・尿量、輸液条件、安全確保や低血糖対応後の反応。

R|確認すること

  • 緊急補充・経路変更、採血と再測定の時点、急な視覚・頭痛の追加評価。

患者・家族への説明

補充薬を継続する

体調がよくても不足を補っている薬がある。絶食・嘔吐で飲めない時は、次の受診まで待たず連絡する。

体調不良時の計画を持つ

発熱・手術等の追加補充と連絡先を文書で確認。緊急注射が処方されている場合は、本人・支援者が手技の訓練を受ける。

緊急時に伝わる準備

欠乏ホルモンと補充薬が分かるカード・薬の情報を携帯する。外出時の予備や支援者への共有も相談する。

生活上の困り事も相談する

疲れ、性機能、妊娠希望などを話せる場を確保する。本人の希望を確認し、説明相手と共有範囲を決める。

参考文献

  1. 日本内分泌学会:間脳下垂体機能障害等の診療ガイドライン2023

    CQ15-1・15-2(冊子146・148頁)本文を確認。FT4による補充評価と、目標値・長期予後の根拠の限界。CQ12-2の推奨と観察研究の限界も確認。

  2. 難病情報センター:下垂体前葉機能低下症

    2025年10月更新の一般向け本文を確認。欠乏ホルモンごとの症状、原因と補充の目的。

  3. 難病情報センター:同疾患FAQ

    2022年12月更新本文を確認。服薬困難時の相談、緊急カード。一般的な増量例を一律指示として転載しない。

  4. Endocrine Society:成人下垂体機能低下症2016

    診断・補充・ホルモン相互作用の推奨本文を確認。副腎評価の先行、TSH単独での補充調整回避、補充後の多尿に関する補助資料。

  5. Society for Endocrinology:成人下垂体卒中の緊急対応2016

    大学リポジトリの公開原著G12〜G15本文を確認。視覚・意識の評価、循環安定化、専門科連携と保存的治療中の再評価に参照。2016年の海外補助資料であり、手術時期・投薬量の一律基準としては用いない。

  6. PMDA:コートリル錠10mg電子添文

    2026年3月第5版の適応・注意と副作用。

  7. PMDA:チラーヂンS錠電子添文

    2024年6月第2版の適応・注意と副作用。

  8. PMDA:ソル・コーテフ注射用100mg電子添文

    2026年3月第6版。副腎クリーゼの適応、投与経路、調製・投与時の注意と副作用を確認。

資料確認:2026年9月15日。看護観察・報告は資料の病態とリスクを基に学習用へ整理したもの。施設の手順・個別指示に合わせて使う。

看護学習用の概念図。実際の形・大きさ・診断所見を再現した図ではない。

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