排泄援助技術更新・文献確認:2026年8月29日

便処置
浣腸・坐薬・摘便

「便が出ない」だけで処置を決めない。便の位置と硬さ、腹部症状、薬剤、患者の危険因子を確認し、安全な排便援助を選ぶ学習ノート。

学習用。成人の一般的な直腸内処置を扱う。実施の可否、薬剤・容量、挿入方法、保持時間、実施者の範囲は、患者の状態、医師の指示、薬剤・器具の電子添文、院内手順を優先する。

処置の前に止まる条件

実施前に医師・指導者へ確認
  • 腸管出血、腹腔内炎症、腸閉塞、穿孔またはその疑い
  • 直腸・肛門・大腸の手術直後、放射線治療後、重い痔核・裂肛・直腸病変
  • 好中球減少、血小板減少、出血傾向、抗凝固薬使用
  • 重い心疾患、不整脈、循環不安定
  • 脊髄損傷、特にT6以上など自律神経過反射の危険
  • 妊娠、炎症性腸疾患、ストーマなど個別判断が必要な状態

まず排便を評価する

便だけでなく経過と全身を見る

最終排便、普段の回数・形、排ガス、残便感、腹痛・膨満、悪心・嘔吐、食事・水分、活動、薬剤を確認。

直腸診は必要性と禁忌を判断し、権限・院内手順に沿って行う。

  • 便の量、硬さ、色、血液・粘液、ブリストル便形状スケール
  • 便意、いきみ、排出困難、肛門痛、残便感
  • 腹部膨満、圧痛、腸蠕動音、悪心、嘔吐、食欲
  • 水分・食事摂取、活動、排泄環境、トイレ動作
  • オピオイド、抗コリン薬、鉄剤など便秘に関わる薬剤
  • 下剤・浣腸・坐薬の使用歴と効果

処置を使い分ける

便の位置・硬さ・薬剤作用で選ぶ

坐薬:直腸で溶け、薬剤に応じて蠕動や排便反射を促す。

浣腸:液を直腸へ入れ、刺激・軟化・滑りを利用する。

摘便:直腸内に触れる硬便を、必要時に少量ずつ除去する。

慢性便秘の管理は直腸処置だけで完結しない。原因、生活、経口薬、排便姿勢、骨盤底機能などを評価し、長期計画を見直す。

共通の準備

  • 指示された浣腸薬または坐薬
  • 水溶性潤滑剤
  • 非滅菌手袋、エプロン、必要時マスク・眼の防護
  • 防水シート、便器・ポータブルトイレまたはおむつ
  • 清拭・陰部洗浄物品、交換用下着・パッド
  • 廃棄物袋
  • 必要時、血圧計・パルスオキシメータ
  1. 本人確認と説明

    目的、方法、予想される便意・腹痛、途中で中止できることを説明し同意を得る。

  2. 排泄方法を先に決める

    トイレ移動の可否、便器・おむつ、ナースコール、転倒リスクを確認。

  3. プライバシーと保温

    カーテン・扉を閉め、露出を最小限にする。換気と臭気にも配慮。

  4. 左側臥位を基本に調整

    膝を軽く曲げ、安定させる。疼痛、麻痺、術後制限があれば無理に固定しない。

浣腸

直腸壁に沿わせ、抵抗に逆らわない

先端を十分に潤滑し、製品の挿入目安・ストッパーに従ってゆっくり挿入。

強い抵抗、鋭い痛み、出血があれば注入せず中止する。

  1. 薬剤を照合

    患者、製品、濃度・容量、期限、禁忌、容器破損を確認。温め方が必要な製品は表示に従い、過熱しない。

  2. 左側臥位と防水

    臀部を観察して防水シートを敷き、肛門が見える範囲だけ露出。

  3. 先端を潤滑して挿入

    臀部を開き、肛門・直腸の走行に沿わせる。成人でも固定した深さを一律に使わず、製品表示と抵抗で判断。

  4. ゆっくり注入

    患者へ呼吸を促し、表情、腹痛、冷汗、気分不良を観察。抵抗時に圧をかけない。

  5. 抜去して排便を援助

    可能な範囲で薬剤の指示時間を保ち、便意が強ければ我慢を強制しない。安全に便器・トイレへ。

坐薬

肛門括約筋を越えて直腸内へ

薬剤名・規格・個数を照合し、必要時に水溶性潤滑剤を使用。

挿入方向と深さ、保持時間、保管方法は製品表示に従う。

  1. 薬剤を照合

    患者、薬剤、規格、個数、期限、包装、保管状態を確認。

  2. 左側臥位へ

    防水シートを敷き、肛門周囲の傷、出血、便塊を観察。

  3. ゆっくり挿入

    臀部を開き、呼気に合わせて肛門括約筋を越える位置まで挿入。無理に押し込まない。

  4. 安楽な体位で待つ

    すぐ排出されないよう必要時間を保つが、強い便意や苦痛を我慢させない。

  5. 効果を観察

    排便までの時間、便量・性状、腹痛、出血、薬剤の排出を確認。

摘便

触れる硬便を少量ずつ

十分に潤滑した手袋の示指一本を、直腸壁に沿ってゆっくり挿入。

硬便を小さく分け、粘膜や肛門括約筋を傷つけないよう少量ずつ除く。

  1. 適応と危険因子を再確認

    直腸内の硬便、他の方法の効果、出血・感染・循環・自律神経過反射リスクを確認。

  2. 左側臥位と観察準備

    膝を軽く曲げ、防水シートを敷く。必要時は処置前後の脈拍・血圧を測定。

  3. 十分に潤滑

    示指へ水溶性潤滑剤を十分につけ、深呼吸と呼気を促す。

  4. ゆっくり挿入

    直腸壁に沿って示指一本を進める。痛み、抵抗、出血があれば中止。

  5. 便塊を小さく除去

    無理に一塊で引き出さない。短時間ずつ行い、患者の反応と疲労を確認。

  6. 終了後の清潔と再評価

    肛門周囲をやさしく清潔にし、腹部症状、排便感、出血、バイタルサインを確認。

処置中の中止サイン

痛み・出血・循環変化で止める

強い腹痛・肛門痛、出血、強い抵抗、顔面蒼白、冷汗、悪心、めまい、意識変化、脈拍低下、血圧変化。

処置を中止して安全な体位をとり、応援要請と観察・報告へ。

迷走神経反射
  • 直腸刺激で徐脈、血圧低下、冷汗、悪心、失神を起こすことがある
  • 処置を止め、意識・気道・呼吸・脈拍・血圧を確認
  • 症状が続く、重い徐脈・低血圧、意識障害では急変対応へ
自律神経過反射
  • T6以上の脊髄損傷などでは、直腸刺激が急激な血圧上昇、頭痛、発汗、紅潮を起こすことがある
  • 処置を中止し、上体を起こし、血圧を確認して院内手順に沿う

処置後の観察とケア

排便量、硬さ、色、血液・粘液、薬剤排出、残便感、排ガス。
全身・腹部腹痛、膨満、悪心、めまい、意識、脈拍、血圧、疲労。
肛門・皮膚出血、疼痛、裂傷、発赤、びらん、失禁関連皮膚炎。
  • 便・薬液をこすらず除去し、皮膚を乾燥させる
  • 必要時は皮膚保護剤を製品表示に従って使用
  • 水分摂取、食事、活動、トイレ環境、定時排便を無理のない範囲で支援
  • 処置を繰り返さないと出ない場合は、便秘の原因と長期計画を見直す

記録

処置と結果をつなげて残す

実施日時、適応、薬剤・容量・個数、方法、患者の反応、便の量・性状、出血・疼痛、中止理由、報告内容。

ブリストル便形状スケールなど、施設で統一された表現を使う。

出典